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小さな恋のうた 3

暫くして、会議室のドアが大きな音を立てて開いた。

「高山!!お前だけずるいぞ」

大股でスーツが日常着ですって言う位着こなした男性がこちらにやってくる。

「太田さん、落ち着いて下さいよ。楓太君がフリーズしています」

高山さんは、動じることなく太田さんといった上司らしき男性をあしらう。

「高山は、いつもそうやってクールなんだよな。なんかつまらないの」

僕は何が起こったのか分からなくて、その光景をぼんやりと眺めていた。

「太田さん、邪魔しに来たのなら会議室を出て下さい。彼は忙しいんですよ。そんな事をしている時間すら勿体無いです。出口はあっちですから」

あれ?高山さん、この上司を邪険にしていない?気のせいか?

「俺と高山の仲じゃないか」

「変なこと言わないでください。高校が同じなだけです。楓太君、このおじさん相手にすると碌なことにならないからね。絶対苦労するからね。近付いちゃだめだよ」

……高山さん、本音なのですね。太田さんに散々振り回されて職場でも上司なのは同情するけど、どうしてそうなったか今聞いたら……仕事が進まないね。

「高山さん、すぐに追い出すのはどうかと思いますよ。太田さんに今までのアイデアをチェックして貰いながら休憩しましょうか?」

僕はそう言うと、会議室の隅に置いてあるコーヒーの入っているポットからコーヒーを二人分用意して渡した。コーヒーは嫌いではないけれども、僕は鞄から持参しているマイボトルを取り出した。

「あれ?楓太君はマイボトル?」

「ええ。中はハーブティーなんですけどね」

僕はボトルを開けて一口飲む。仕事が不規則なのでなるべくカフェインを摂らないように心がけている。茶道家の息子がそれでいいのかって突っ込みはなしで。

僕達は今回の打ち合わせで初めて休憩を始めた。



「高山。このアイデアって本当に楓太君一人で考えたのか?」

「だから言ったでしょう?そんなに俺の事が信用できないのでしたらチーム外して下さい」

「それは無理。残りのメンバーは女性だ。仕事になるわけがないだろうが」

「だからって、この部署に無理矢理俺を引っ張りこんだのはあんたでしょうが!!」

高山さん……商品開発部に異動したばかりなんだ。それじゃあ普通の人よりも大変なのではないのだろうか?

「それは悪かったって。俺だって異動したいだ。もう3年も願い出しているのに……」

今、僕の目の前でサラリーマンの愚痴がダダ漏れしている様な気がして仕方がない。

この光景を見ていると、僕でもサラリーマンってできるのだろうか?

現実的には僕がサラリーマンをする可能性はかなり低いのだけども、少しだけ興味がわく。

「あの……高山さんの言う通りですよ。実家の家業的にお菓子については少しだけ馴染みがあるだけです。甘いもの嫌いじゃないですしね」

「成程。楓太君の意見がほとんどというのは分かった。ハートの形の方は、売れる様であれば、ショコラの様に定番化されるから型を作ってしまっても設備費も回収できると工場から解答がきている。でも最初はランダムにさせてもらう」

いきなり、太田さんが仕事モードになったのには驚いたけれども気持ちの切り替えが早い人なので、仕事の能力も高いのだろう。

「それって、コンビニでお馴染みのお菓子の同じ戦法ですよね」

「まっ、そう言う事。さっき貰ったメールにはハートの中に直筆メッセージってあったけどそれはいいの?」

「別に構いませんよ。書道家程綺麗ではないですけど、人並だと思います」

「それじゃあ、それで決まりな。高山、商品名は?」

「楓太君は、これがいいのでは?っていうのがこれです」

高山さんは僕がさっき言っていた君想いマカロンと書いた紙を見せた。

「うーん、これいいんじゃないか?メインのターゲットは女の子だから」

太田さんは僕のアイデアにいいと言ってくれた。

「それと、スチールのイメージ画像がこっち」

今度はノートPCにコンデジで撮影したデータをアップする。

「俺がイメージしていたのはこれなんだよ。なのに、あいつらはもっとセクシーにとか……楓太君どう思う?」

「マカロンでセクシーは難しいと思いますよ。ポップでキュートなら分かります。でも今回はどちらかというと、切なくって胸キュンがいいと思いますよ」

「楓太君は、その路線でいいの?」

「いいのというよりも、僕自身はキャラを作っている訳じゃないので。僕は僕らしい形で仕事を受けて応える……それだけですよ」

僕はそう言うとマイボトルのハーブティーを口に含んだ。



「分かった。もっと楓太君のアイデアを使っていこう。楓太君をメインキャラクターなんだから楓太君が納得したプランを組んでいこう」

太田さんはそう言うと僕に手を差し出した。そして大きく手をぶんぶんと音が鳴るのではと思う位大きく拍手をする。

「よろしくお願いします」

「いい意味で楓太君のイメージを壊していこうね。きっと仕事の幅が広がるよ。俺と歓声が同じなら作業効率が上がりそう。高山、これからもよろしくな」

太田さんは、社外の打ち合わせに行くからなと言って会議室を出て行った。

「ごめんね、あの人いつもああだから……はあ、間に立つ人の事もね」

「でも、高山さんもそんな太田さんの事を認めていますよね」

「確かに。仕事は出来るからね。感覚で動いちゃうから理解できない人もいるからね」

「あはは……。なんかうちの双子みたいな人ですね。この仕事面白くなりそうです」

「今の言葉、チームの子達に言ってもいいかい?今回のキャスティングがチーム以外では大丈夫なのか?って言われていたんだよ」

僕がミスキャストってことなのだろうか?

「まあ、楓太君が凄く前向きに取り組んでくれる姿勢が僕達の刺激にもなっているからね」

「ありがとうございます。でも僕がお菓子好きってのはどうなのだろう?」

「うちのコンビニで扱っている製品だったら、口外しても、何処かで漏れても問題ないよ」

「ああ、そうですね。じゃあ、ラジオでうっかり言っても問題ないですね」

その言葉を聞いて僕は安心する。たまにだけど、うっかり本音を言ってしまう事がある。

それをファンはレアだからって『楓太様のお言葉』とか『ご神託』とか言っているらしい。



「あれでしょ?楓太様のお言葉。こないだは頑張っている人は素敵だったっけ?」

「はい、良く知っていますね」

「仕事柄ね。そういうアンテナは拡げておかないと。で、ラジオって?」

高山さんは、僕に聞いてくる。年末になるだろうけど、高山さんの会社のコンビニがスポンサーになっているラジオ番組に出演がメンバーと共に決まっているのだ。

「あの、こちらの会社がスポンサーになっているラジオ番組にちょっと」

「そういえば、年末の放送だっけ?その時はまだマカロンは言えないな。残念だけど」

そっか、クリスマスイブのプレスリリース。OAはその前だっけ。

「大丈夫です。プレスリリースされれば僕も多少は動けますので」

「そうだね。アイドルプロデュースの製品って結構あるけど、普通はこんなに簡単に決まるわけじゃないんだ。僕達も助かっているよ」

その後、僕達は次の打ち合わせの日程を決めて打ち合わせを終わらせた。


無事に君想いマカロンになりそうです。

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