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迷い道



「あかん……。もう無理や……うちのことは気にせんと置いていき……」


漫画でいう勇者の仲間が言い出しそうな台詞をいいながら、

明はぺたりと地面に座り込んでしまった。


「おいおい、一番元気だった奴が何言ってんだ?」


「せやかて杏華ちゃん……道は長いし敷地は広いし迷子になるし……」


「迷子になったのはあんたのせいだろ」


「そうやけど……こんなに歩いてんのに寮なんてどこにも見えないやん!」


木に囲まれている無駄に広い道の真ん中で、

とうとう誰もが言わないようにしていたことを叫んだ。


そして明の叫び声だけが周囲に虚しく響き渡る。


「まあまあ、しょうがないって。ね、しょうがない……」


五人の中で一番余裕のありそうな桜ですら、言い聞かせている状態だ。


「彩、あんた見学でここ来たことあるんだろ?」


「あるけど、ここがどこかわからないと地図見てもわからないよ……」


「それもそうか。現在地がわかるものっていってもな……」


その言葉を聞いて、彩ははっと後ろを振り向くと気まずそうに向き直る。


「あの、奏芽なら今どこにいるかわかるんじゃない……?」


「「「…………」」」


疲れで思考回路が止まっているのか、三人は数秒固まると

掛け声であわせたかのように同じタイミングで勢いよく振り返った。


そこにはふらふらと危なっかしい足取りで遅れてやってくる奏芽の姿があった。


「奏芽、大丈夫?」


「だ、だ……だいじょ、ぶです……」


どうみても大丈夫そうには見えないが、

こちらも切羽詰っているので息が整うのも待たずに問いかける。


「もしかして奏芽の持ってるそれで現在地とか、わかる……?」


恐る恐る問いかけてきた彩の顔と自分の手に握られているそれを見比べる。


「……わかる、です」


苦笑いと共に返ってきた返事は、肯定を示すおかしな敬語だった。





「つ、ついたでぇぇぇええ!」


奏芽の持っていたMCTを駆使すると、

現在地だけでなく寮までのルートを表す光が現れ、それを追ってたどり着いた。


「でも、三つの寮ってことはこの寮生以外はまだ歩くよな」


疲れを表に出すことなく一人涼しい顔をしている杏華が淡々と述べる。


「そないなこと、今言わんでもええやん……」


「忘れていたかったぁ!」


口々にブーイングする桜と明とは対照的に、彩と奏芽は黙り込んでしまった。


「ああ、もう。俺が悪かったから入るぞ」


「立てない……」


「は?」


「杏華ちゃん立たせてえ……」


そう言って手を伸ばしてくる桜に呆れながらも杏華は手を引っ張って立たせる。


「うちも……」


真似して腕を伸ばす明の手も引っ張ってやると、明は楽しそうに笑う。


「何にやついてるんだ?」


「いやあ、なんだかんだ言うても杏華ちゃんは優しいし面倒見ええなあって」


「なっ、に言ってんだ」


「うぎゃふ」


ぱっと手を離されたせいで尻餅をついて変な声を出した明を見て

余計なこと言わなければいいのに、と桜は呟いた。


「何するん!」


「あんたが変なこと言うからだろ」


「別に褒めただけなんやけど……。杏華はほんま照れ屋さんやなぁ」


「は? ていうか呼び捨て……」


「ええやん、仲ようなった証ってことで。な?」


尻餅をつきながらヘラヘラと笑っている明を見て、

杏華はわけがわからないと顔をしかめる。


「今の絶対照れ隠しやん? かわええなあって思って」


「意味わからないことばっか言ってると置いてくぞ」


「ほら、そう言っても置いてかないとこが優し……い? ってあれ、どこ行くん」


途中まで聞くと杏華はくるりと向きを変えて歩き出した。


「そんな奴は置いてほら、行くぞ」


「了解」


二人のやりとりを見ていた彩達も杏華の後をついて寮へと入っていく。


「ええ、ちょ、ほんまに置いてくん? 皆まで、って奏芽ちゃんまで!」


後ろでぎゃあぎゃあと叫んでいる明のほうは振り返らず

無情にも扉は閉まってしまった。


「ふふ、少し顔赤いよ?」


「気のせいだろ」


「そう?」


そう言って少し羨ましそうな表情をしている彩の頭を撫でてやると

桜と奏芽まで羨ましそうな目で見つめてくる。


「ああ、もう」


杏華はぐしゃぐしゃと二人の頭を撫でると、さっさと受付へと向かった。


「杏華ちゃんてばかっこいいんだもん。惚れちゃうよ?」


「そりゃどうも」


後ろ向きで手をひらひらとさせながら言う仕草は、なんだか様になっている。


「ああいうとこ、素でやってるからかっこええんやけどな」


いつのまに入ってきたのか奏芽の頭に顎を乗せながら明が呟いた。


「明さん、顎痛いです……」


「まあまあ、気にせんで」


「あ、戻ってきました」


受付から戻ってきた杏華は紙を持って帰ってきた。

畳んであった紙を広げると、五人は紙を覗き込んだ。


同じ寮になれることを祈りながら。



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