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その一言が欲しかった



「本日は以上です。明日からは授業を始めますので十分に体を休めて下さい」


入学初日ということで全員が軽く自己紹介をすると

教師、ユーリ・パトロフスは一言告げて教室をあとにした。



「拍子抜けしたわ」


ユーリが教室を出たのを確認すると、明はぐでんと机に突っ伏した。


「拍子抜けですか?」


「せや。魔法学校なんていうから初日からスパルタで魔法教えられんのかと思ってたんやけど」


「それなら、明日のカリキュラム見てみますか?」


「おおっ、さすが奏芽ちゃん! 頼りになるわ」


満更でもないのか僅かに頬を染めると嬉しそうにMCTを操作する。


「これだと思います」


そういって奏芽がMCTを明に渡すと、彩と桜も覗き込んだ。


まだ内容が決まっていないのか、詳細を書くつもりがはなからないのか

明日一日のスケジュールには科目名しか書かれていなかった。


「抜き打ちみたいで嫌やわ……」


明のいうとおり、内容には「適正テスト」「召喚儀式」「基礎理論」とだけしか書かれていない。


「この適正テストっていうのは、多分属性とかのことだよね?」


「そうだろうね」


「じゃあ、この召喚儀式ってなんだろう?」


「使い魔とか……?」


自分でも納得できていないのか、彩は眉をひそめながら先を続けた。


「魔法使いは使い魔を必ず一体は召喚しなければならないのは知ってるでしょ?」


「まあ、それなりに……」


「だけど召喚儀式っていうのは複雑で、例え特進科の生徒であっても

基礎魔法程度しか使えない新入生には無理だと思うの。ましてや、基礎も知らないのに召喚なんて……」


特進科という言葉を使ったのに、自分達のことを一般科と言わなかったのは

自分と桜達が同じではないことをわかっているからだろう。

桜達が基礎を知らないとしても、自分は特進科の生徒と同じ基礎魔法までは習っているのだから。


僅かに暗い顔をした彩だったが会話の途中だったと気づき心の隅へと感情を隠す。


「ま、やれないことなら組まないだろうし。なるようになるだけだろ?」


考えても無駄だと思ったのか、それまで黙っていた杏華があっさりと言ってのける。


「それもそうやな。ところで自分らも寮やろ?」


街の中央にあるとはいえ、敷地がかなり広い学校だ。

隔離された場所にあると言っても過言ではない為、寮が用意されている。


「もちろん! このパンフで見たんだけど、すっごいお洒落だったから楽しみなんだあ」


嬉しそうにパンフレットを抱きしめながらくるくると回ってはしゃぐ桜に苦笑する。


「そうはいっても、どこの寮になるかはまだわからんやろ?」


「え? 寮っていくつもあるの!」


「なんや、さくちゃんってば知らんかったんか?」


「ほとんどの人が寮だっていうから大きいのが一つなのかと……」


「ちゃうちゃう。確か三つの寮に性質ごと分けられるらしいで」


「性質?」


「属性と性質を基準になんたらかんたらって書いてあったと思うけど……」


そこからは覚えていないらしく、明はごにょごにょと誤魔化そうとする。


「ちょっと貸して」


そんな二人の様子を見かねた杏華が、返事を待たずに桜からパンフレットをとりあげた。


「属性ってのは水とか火とかそういうやつだろ、んで性質は性格みたいなもんか」


「なるほど、わかんにゃい……」


「一般と特進の親睦を深める為に差別化しないとは書いてあるが、家柄ってのも左右してくるだろうな」


「どういうこと?」


「つまり、一般も特進も関係なく同室、同寮になるけど、家柄次第で決まる人もいるだろうなってことさ」


「なるほど! つまり根っからの一般人な私には関係ないってことだね」


きっぱりと言い切ってしまう桜の様子にため息をつきながら、

そうだよと答えると杏華は呆れ気味に笑った。


「特進科、か……」


「明、何か言った?」


「ん? なんでもないで。彩ちゃんに見惚れてただけや」


「また、そうやってからかうんだから……」


一瞬悲しそうな顔をしていた気がしたが、

こうやって軽口を叩いているところを見るときっと気のせいだったのだろう。


「皆と同じ寮だったらいいな……」


「へーえ」


「な、何でにやにやしてるの?」


「ふふふ、貴重なデレを見たなって思ってるだけやけど? そっかあ、彩ちゃんもうちらと一緒がええんか」


なんとなく気恥ずかしくなって否定しようとしている彩に杏華は小声で耳打ちした。


「彩も可愛いとこがあるんだな」


「……可愛いです」


にっこりと微笑みながら、奏芽にまで言われてしまい反論できずにいると

ぐいっと明に腕を掴まれて立ち上がらされる。


「ほな、みんなで帰ろか!」





たった一言。


誰かのいう『みんな』の中に、自分が含まれていたらどんなに嬉しいのだろう。


彩はぎこちなく笑った、初めて見せる最高の笑顔で。


奏芽は声を出して笑った、初めて見せる満面の笑顔で。


杏華は小さく笑った、口元を隠しながら可愛らしい笑顔で。



その一言が、ずっと欲しかった。



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