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置き去りの過去



「杏華ちゃんやっけ? うちのことは明って呼んでや。うちら五人同じ班やから、仲ようしてな」



遅れて入ってきた上、紫色の髪に白いメッシュという風貌の杏華に

最初に話しかけたのはやはり明だった。


「あ? ああ、そうなんだ。よろしく」


見た目で判断しないように気をつけている明だったが、

返事すらされないと思っていたため素っ気ない返事でも返ってきたことに満足する。


「で、髪長いのが彩ちゃん、短いのはさくちゃん、二つに結んでるのが奏芽ちゃんな」


簡単に説明していく明に合わせて、ぺこりと会釈してみせる面々で桜だけが名乗り出た。


「えっと、私は桜っていうんだ。よろしくね、杏華ちゃん」


「うちが言ったのになんでもっかい言うん?」


「え、や、だって……明ってば私だけさくちゃんって言うから」


彩と奏芽は本名だったが桜だけあだ名だったことを思い出して苦笑する。


「紹介にあだ名はあかんかったか、かんにんな」


ぺろっと舌を出してみせる明に、桜は怒ったふりをする。

それを見て止めようとしている奏芽を巻き込んでじゃれあっている。

そんな三人を横目に、杏華が小さく呟いた。


「……仲いいんだな」


そういった杏華の横顔はどこか寂しそうで、自然と彩は話しかけていた。


「この班は全員が今日会ったばかりだよ」


「へえ、そうは見えないな」


「明も桜も人懐っこいからね」


「だろうな。そういうあんたは、純系だろ? なんで一般科にいるんだ?」


誰も聞けなかった疑問をあっさりと尋ねる杏華に、

じゃれあっていた三人もぴたりと動きを止めた。

そして、何事もなかったかのようにじゃれあいをはじめると聞き耳を立てた。


「まさか、直球で聞かれるとは思わなかったよ」


「影でこそこそ言うのは性に合わないからな」


「そうだね、そのほうが私としても気が楽かもしれないね」


そう言って彩は自虐的に薄ら笑うと、堂々と吐き捨てた。


「簡単に言えば落ちこぼれ。純系で親族も両親も立派な魔法使い。

だけど、私は魔法が使えないの。だから落ちこぼれ」


「別に……今から覚えるんだからいいんじゃねえの?」


同情するでもなく、淡々と自身の考えを言う杏華の言葉にふるふると首を振る。


「純系のほとんどの人が12歳までは家庭教師に習うの。勉強も、魔法も両方ね。

そして中学では基礎魔法を教えるの。純系だけの学校だから皆そつなくこなすのにね」


自分はどうしてもできなかったから友達なんてできなかったんだと言うと、

寂しそうに微笑んだ。


「悪かったな、聞かれたくなかっただろ?」


「大丈夫、特進科の人は皆知っていることだから」


それでも杏華は純系の複雑な環境を知っていた為、

彩がどのように扱われてきたのか容易に想像できた。


「俺も、さ。魔法使いの血を引いてんだ」


「えっ?」


「中学に上がる前に養子に出されたんだけどな。

だから、少しならあんたの気持ちがわかる気がするよ」


慰めているつもりなのか、フォローしているつもりなのか、

たどたどしく紡がれる言葉の一つ一つに不器用な優しさが垣間見える。


「なんでそんな話を?」


「まあ、あんたにだけさせるのはフェアじゃないからな」


「ふふっ、そっか。ありがとう」


「何がおかしいんだよ……」


「優しいんだねって思っただけだよ」


「お、俺が優しい?」


「うん。見かけによらず律儀だし、少し怖い人かと思ってたの」


「そういうの、本人に言うのかよ……」


「ごめんね? でも、やっぱり少し似てるなって思ったの」


「不器用なところが、か?」


杏華が見透かしたようにニヤリと笑うと、二人は小さく笑い合った。

こんなふうに笑うのは、久しぶりだと思いながら。


「なあに、お二人さん。二人だけで楽しそうなんてずるいやんか」


「そうだよ! 私達だって仲間に入れてほしいな」


「わたし、まだ杏華さんと話してないです……」


二人の話を聞いていた三人は、聞かなかったことにして

雰囲気が和んだところで話に割り込んだ。


この話をするときは、二人が自分から話してくれた時にしようと約束をして。

三人は口をつぐむことにした。


「あんたらだって三人だけで楽しんでたろ?」


「ふふ、だからあぶれ者同士仲良くなってたの。ね、杏華?」


「そうそう。あぶれ者同士な、彩」


顔を見合わせて名前を呼び合う二人は楽しそうで、

これからはじまる毎日はきっと楽しいものだろうと期待を胸に抱いた。




誰にでも心に重くのしかかる過去はある。


過去は置き去りにされることが嫌いで、いつか追いついてくるから


その「いつか」が訪れたとき


背負いきれたらどんなにいいだろう。


隣で誰かが支えてくれたら、どんなにいいだろう。


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