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五人五色


明から話を聞いた後も、彩は窓の外を眺めていたので話しかけることができなかった。

担当教師が入ってくるまで彩の噂は囁かれていた。


「私は貴方達を担当することになりました、ユーリ・パトロフスです。以後お見知りおきを」


そう言ったのは、ゲート前に立っていた金色の瞳に金髪ツインテールの

到底教師に見えない風貌の女性だった。

ゲートでの説明の時もそうだったが、美しい容姿に機械的なまでに丁寧な言葉遣いは

外人というよりも、まるで人工的に作られたロボットのようだ。


「まずは親睦を深める為、近くにいる五人で班を作ってください」


誰と同じになるのか周囲を見回すと、彩の隣の席の人はまだ来ていない。

ユーリの様子からして、おそらく遅刻かなにかだろう。


彩達E班は、彩と桜と明、そして彩の前の席に座っていた緑色の髪の少女と空席の誰かのようだ。

ふわふわした髪をゆるく二つに縛っている緑色の髪の少女は、

優しそうだがどこかぼんやりとしていて頼りなさげな雰囲気をしている。


先刻の話からして明は魔法家系である彩に苦手意識があるようで、

持ち前の人懐っこさをしても話しかけることを躊躇っているようだった。

そんな中で最初に口を開いたのは桜だった。


「彩と一緒の班になれてよかったあ」


心底嬉しそうに話しかける桜の様子に、明も彩も毒気を抜かれる。


「桜、私のこと聞いたんじゃなかった?」


「聞いたよ。でも、だからといって彩に話しかけない理由なんてないよ?」


「なんで……」


「だって友達だもん!」


堂々と言ってのける桜に苦笑すると、明は申し訳なさそうにきりだした。


「堪忍な。誰も自分らの事情なんて知らんやけど、ここは一般科やから憶測で噂してたんや。

でも、さくちゃんのゆう通りやんな。自分がええ奴やったら家柄なんて関係あらへんよな」


「別に、気にしてないよ……」


「ほんまに! だってうち、自分のこと話しかけにくう思ってたんやで?」


「いいよ、慣れてるから。魔法家系なら特進科に行くのが普通なんだからそう思うのも仕方ない」


「せやかて、自分のことよく知りもせんで……。うちが一番嫌なことしてもうた……」


「あなたはいい人だね」


「ええ! そんなん言われたら余計情けなくなるわ……」


「本当に気にしてないんだけど……。じゃあ、私と友達になってくれる?」


「そないなことでええの? 罰なら靴でも磨いたるで?」


場を和ませようとしているのか、自分の言ったことを後悔しているのか冗談混じりに言ってみせる。


「ふふ、そんなことさせないよ。それに、友達になってくれたら、それだけで嬉しいの」


「自分ほんまええ人やなあ。友達になったからにはうちが他の人にいらんこと言わせへん。

せやから仲ようしてな、彩ちゃん。うちは明でええで」


「ありがとう、明」


少し照れたように笑う彩の様子を見ると、明はふぉぉと奇声をあげながら抱きついた。

そして何度も何度も謝りながら。


「よかった、二人が仲良くなって。あ、そういえば自己紹介まだだったよね」


そんな二人のやりとりを見ていた桜は、同じように隣で傍観していた緑髪の少女に言った。


「私は伊藤 桜。桜って呼んでね!」


「わたしは葉月 奏芽、奏でる芽でカナメです」


奏芽に話しかけてないことに気づいたのか明が慌てて名乗ろうとすると途中で遮られた。


「藤野 明さんと、桜庭 彩さん」


「なんでわかったの! もしかして奏芽ちゃんってエスパー?」


楽しそうにいう桜に、奏芽は静かに端末を見せる。


「これってMCTやん!」


「MCTって何?」


「Magic Connect terminal(魔法通信端末)。魔法使い用の携帯みたいなものだよ」


「へぇ、二人とも物知りだね。で、これがどうしたの?」


いまいち意味がわからない、と首を傾げる桜に奏芽は嬉しそうに説明を始める。


「魔女院の生徒用データをインストールしていて、そこの1Aクラスの名簿を見たんです!

他にも校舎の地図や、魔法用語辞典など沢山の機能があるんですよ」


「奏芽ちゃんってもしかしなくても機械好き?」


「あ、はい。すみません、わたし機械のことになるとつい楽しくなってしまって……」


「すごいね! 私は機械とかあんまりわからないから尊敬するよ!」


「う、嬉しいです。わたし、運動も勉強もあまりできないし、

いつもドジでぼーっとしてるからそう言ってもらったことってないんです」


「大丈夫だよ、私なんて勉強全然駄目だから!」


えっへん、と効果音がつきそうなくらい自信満々に胸を張って答える桜に

三人は少し呆れたように笑う。


「まあ、さくちゃんのええとこは優しいとこと明るくて元気やってことやな」


仲良さそうに話している四人の様子は、今日会ったばかりとは思えない打ち解けようで

彩も、桜も、明も、奏芽も、

こんなふうに話せる友達ができたことがなにより嬉しかった。


それぞれの抱えている問題も、きっとなんとかなるだろう。

そんなふうに思えてしまうのは、きっとこれが運命だったからだろう。



「悪い。柳 杏華、遅刻っす。俺の席は……一番後ろのあの席か」



明は小さな声で呟いた。


「うちらのとこ、カラフルすぎやろ」




真っ白な教室の一角に、水色桃色橙色緑色紫色のカラフルな一つの輪が出来上がった。




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