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色眼鏡


心細さを誤魔化すように、小さく拳を握り締めた。


この扉の向こうには既にクラスメイトが大勢揃っているだろう。

当たり前のことだが、全員が知り合いで仲のいいグループができてるわけではない。

それでも、自分はその輪の中に入れないだろうことは気づいている。


怖々と取っ手に指を絡め、扉を引くと一斉に視線が集まってくる。


不安と恐怖で俯いてしまいたかったが、

自分で認めることだけはしたくないと堪えて真っ直ぐ前を向く。

周囲の視線から逃れるように、窓際の一番後ろの席まで無表情を保って歩いた。


(ああ、ここでも既に噂が立っているのか……)


露骨ではないにせよ、ネクタイと彩をちらちらと見比べながら囁く声がする。

きっと教師が入ってくるまでこの空気が続くのだろうと思っていると、

唐突に扉の方から聞こえたがたがたという音に、視線は集中した。


多くの視線がなんの音だと見つめる中で、

扉の向こうから顔を覗かせたのはさっきまで一緒にいた桜だった。


「あのう、ここでいいのかな……?」


誰かに問いかけるわけではなく小さく呟いてきょろきょろと教室を見渡すと、

彩を見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた。


「彩! よかった、なんか見られてたし教室間違えたかと思っちゃった」


無邪気に再会を喜んでいる桜と興味深げなクラスメイト達の視線に、

彩は素直に喜ぶことができなかった。


「とりあえず座ったら? 先生もうすぐ来るだろうし」


無難な返事をしながら、周囲に見えないように苦笑してみせる。


「そうだね。じゃあ、彩の近くの……」


そういって桜は彩の座っている席の右斜め前の席へと座ると、急に腕を掴まれ引き寄せられた。


「えっ何?」


桜が慌てて振り返ると、そこには橙色の髪に赤縁眼鏡の少女が申し訳なさそうな顔をしていた。


「急に掴んでぇ堪忍な。うちは藤野 明、アキラって読んでぇや。自分はなんていうん?」


聞きなれない関西弁に戸惑いつつも、親しげな様子に安堵する。


「私は伊藤 桜、よろしくね。でもいきなりどうしたの?」


「よろしゅう、さくちゃん! 大したこととちゃうんやけどな。後ろの美人さんと知り合いなん?」


「美人さん、って彩のこと? 知り合いっていうか、さっき会ったばっかりなんだ。それが?」


「へえ、それでなあ」


ふむふむと顎に手を当てて考えるような素振りをしてみせると、

明は顔を寄せて小声で喋りだした。


「あんな、うちら皆リボンやろ? で、美人さんはネクタイ。この違い知ってるか?」


「知らないけど、お洒落なだけじゃないの?」


「ちゃうちゃう! うちら一般人がリボンで、魔法使いの家系のお嬢様方はネクタイなんよ」


「え、それって……」


「そうゆうこと。ほれ、周り見てみなや。皆美人さんのこと気になっとるみたいやで」


そう言われてみると、ひそひそと小声で囁きあっている声が聞こえてくる。


「でも、彩が一般人じゃなくても別に変わんないんじゃないの?」


「変わるんやて。純系から見たらうちらなんて凡人やで、凡人。

見下されてるの知ってるから誰も近づこうて思わんし

なんで一般科におるかは知らんねんけど、さくちゃんも近づかん方がええやろな」


「そんな……」


「それに、美人さんも近寄るなってオーラだしとるで? 凡人同士仲ようしようや」


そういって人の良さそうな笑みを見せる明を見つめながら、桜は考えていた。


きっと、彩は今までもこういうことがあったのだろうと。

それは、とても自然なことで誰も彩に気づいてあげられなかったのだと。

そして、思い知らされたのだ。


魔法使いになりたいと願うのは、簡単なことではないのだということに。




どこにいても、

色眼鏡は常につきまとう。




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