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掴み損ねた宝石  作者: 河野 る宇
◆蒼と翠
8/13

*成る

 ベリルは、どう話すかを考え隣の蒼を一瞥した。

「大きくくくるなら同じといえる」

「?」

 いまいち意味がわからないのか、蒼は小首をかしげてベリルを見つめた。

「あ、そうか。核じゃないんですよね」

「人工生命体を造り出す事自体が困難な時代だ」

 彼らにとって、私は奇跡の成功だったのだろう……遙か遠方の海に視線を送る。

 生命への探求は倫理的な問題を多く含む。隠された研究、隠された存在──ベリルは、生み出されてもこの世には存在しない者となった。

 そうして、『核』という存在が躊躇いもなく闊歩かっぽし始め、進んだ技術によりベリルの真実は明るみに出る。

 隠し通さなければならなかったものだが、その必要が無くなってベリルは安心でさえあった。

 だからといって、己からそれを吐き出す気は毛頭無い。それを広める意味も、必然性も無いからだ。

「それで、誰に追われているのです?」

 話の切り替わりにベリルは若干、眉をひそめる。

 通常であれば特に訊きたがる事柄のはずだが、彼女にとってはさしたる関心事項ではないらしい。

 自身が人工生命体なのだからという事なのだろうが、不老不死という部分においても興味はないようだ。

「不死の解明をしたいらしくてね」

「初めからではないんです?」

 ようやく、少し興味を持ったようだ。

「人工的に生み出されたというだけで他は人となんら変わらんよ」

 赤子の状態で生まれ、年を経て死ぬはずだった──25歳までは。

「! 25で不死になったんですか? どうやって?」

 本当に聞きたいのか? ベリルは複雑な表情を浮かべたが、待っているようなので答える事にした。

「チームの中に、他とは異なる考えの者がいてね」

 その科学者は生命の探求のみならず、不死の研究も密かに行っていた。

 塩基配列、遺伝情報を知り尽くした個体が目の前にいる──それに気付いた男は喜悦きえつの声を上げたことだろう。

 ベリルがいた研究施設は、彼が15歳の時に襲撃を受けている。

 どこをどう間違えて伝えられたのか、『生物兵器』という情報が奇しくもベリルを自由にした。

「施設の人間は皆、死んだと思っていたのだがね」

 襲撃の追っ手を振り切り傭兵として生きていたベリルの前に突然、過去が姿を表した。

「君はまだ自分の価値が解ってないんだね」

 そう発し、見開かれた男の目はベリルの遙か向こうを見つめていた。

 拘束したベリルの頭部に穴を開け、小さなチップを差し入れる──そこでベリルは一度、心臓が停止した。

「チップですか?」

「心停止の間にチップは脳細胞と融合し、情報は全身に行き渡った」

 起き上がったベリルが何度、尋ねても何のチップだったか男は話さなかった。

 ただひと言、

「永遠は素晴らしいと思うかい?」

 これから確かめろという意味だったのかは解らない。その男は、あせて艶の無くなった髪をかき上げてベリルに笑みを見せるだけだった。

 そのチップがなんだったのか知るのは、さほど遅くはなかった。

 とある依頼で戦闘になったとき、負った傷の回復速度に眉をひそめる。あれから食欲が無くなったことは気付いていたが、代謝速度まで変化していた事に驚いた。

 それから、いくつか自分で調べてみた結果に唖然とする。

「状態を維持し続けるシステム」

「維持?」

 髪は伸びず、過酷な環境にさえ即座に適応する。水中にだってボンベ無しで潜れるだろう。

「漂う分子を利用し、損失部分は構築される」

 どういうプログラムだったのかも、今となっては知るよしもない。

 そうしてベリルは不死となった──ここまで話して蒼を見下ろすと、不思議な顔をしていた。

「……」

 やはり解っていないなと眉をひそめ、腰にある小さなポーチから何かを取り出し蒼に差し出した。

「?」

 それは、キャンディの包み。開いてみると、

「チョコキャンディ?」

「基地のあちこちにあったのでね」

「! 作ったんですか? どこで」

「厨房で」

 しれっと応えたが、深夜に忍び込んで何を作っているんだ。

 食欲は無くなっても食べる楽しみはある訳で、基本的にベリルは料理好きである。食べてくれる人がいるなら喜んで料理する。

 彼はそこかしこに置いてあるチョコレートを目にし、暇つぶしに厨房に侵入して飴を作ったという訳だ。

 溶けやすい状態で持ち運ぶのを避ける意味もあった。

 甘い香りに刺激され、少女はブラウンの小さな塊を口に放り込んだ。

「! おいしいです」

「そうか」

 嬉しそうにコロコロと口の中で転がす蒼に笑みを浮かべ、ポーチからいくつか飴の包みを取り出す。

「まだあ──」

 言い終わらないうちに素早く手が伸びて、手のひらの飴が消えた。

 目を丸くしたベリルには目もくれず、次の飴を口に入れる準備をする。

「なにかおかしいですか?」

 喉の奥から笑みをこぼしたベリルに、蒼はキョトンとした。

「いや。久しく見なかったのでね」

「?」

 追っ手が厳しく、誰かに料理を作る事が出来ない状態の中で少女の笑みはベリルには喜ばしい。

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