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掴み損ねた宝石  作者: 河野 る宇
◆問答
6/13

*緊張、緩和

 ニッセルツ奪還に向けて蒼たちは準備を進める──侵入者の件はこれが済んでからだ。

「ふあ~」

 明朝の天気は曇り、今にも小雨が降り出しそうな鈍色の空を蒼たちは見上げた。

 挑む相手は世界──こちらは10隻も無い。それでも勝たなければ祖国は泡と消えてしまうのだ。


「ほう」

 海岸沿いに来ていたベリルが眼前の巨体に感心するように発した。

 慌ただしい状況だというのに、随分と余裕をかましている。

 これから何か大きな作戦を遂行するようなので侵入者1人に構ってはいられないだろうという推測のもと、彼は余裕ぶっこいているのだ。

 実際、何度か視界に入った兵士がいたがせわしい様子でこちらを向く気配は無かった。

 紺碧の海に横たわる船体に、ベリルは目を細める。紅白に色分けされた巨大な戦艦には特徴的な文様が刻まれ、威容を誇っていた。

「全長は1600ちょいといった処か」

 遠目では正確な長さは解らないが、1kmを越える戦艦など初めて目にする。

「超極兵器ね」

 薄く笑ってつぶやいた。

 本来、その情報は開戦の直前にベルカ内部でもたらされたものであるため、外部の人間が知るよしは無いのだが──仲間の中にハッカーがいて、流したいけど流せない情報をベリルに流す者がいる。

 それだけの信用があるという事で、もちろん流れてきた情報は有効に使わせてもらっている。

 かつての国の名、聖地の名を冠した戦艦は空に昇っていく。それに続くように、3隻の戦艦も上空へと昇る。

 今や戦艦を動かすのは、たった1人の人工生命体。戦艦の能力のみならず、核の力量にも左右されるということか。

 核は副長という形で、戦艦のAIが艦長となる。それぞれに個性的だという話は聞いているが軍に対してはあまり良いイメージはない。

 何故なら、ベリルを核に改良しようとした機関があったからだ。失敗に終わった事で諦めてくれたのだが、彼にとっては苦笑いでしかない。

 戦いのために造られた生命──ベリルは雄大な戦艦たちに目を細めた。

「あの方角はニッセルツか」

 歩兵も積んでいたところを見ると、占領されているのだろう。

 ベルカの戦況はあまり思わしくないと見た。

「ネメシエルの動向次第でニッセルツの奪還は成功するだろう」

 しかし、問題はそのあとにも山積している。

 奪還した土地を守り抜けるのか、そこに資材があっとしても修復にはその土地の分の資材も必要になる。

「クク……」

 ベリルは喉の奥で笑みをこぼした。

 なんだかんだ考えつつも、脳内で戦法をシミュレートする己に笑わずにはいられない。結局は自身も戦いの中で生きているのだから、核となんら変わりない。

 ふと蒼を思い起こし、武運を祈った。


 明朝に発ったネメシエルがコグレに戻ってくる──その勇姿は、勝利の誇りに満たされていた。

 太陽はまだ高く、あおは疲れているにも関わらず基地内を歩き始めた。

 もしも、本当に引き寄せ合うのなら出会うはずだと確証もないままにうろつき、離れた場所にある小さな建物のドアを開く。

「!」

 そこに、目を据わらせたベリルが立っていた。

「よくも見つける」

 溜息を漏らし少女を見下ろす。

 怒りは無いようで、蒼はどうしてだかホッとした。

「あの」

「なんだ」

 険のない物言いで聞き返す。

「あなたは私と同じなんですか?」

 屈託もなく見上げる青い瞳を、ベリルは静かに見つめた。

「軍のデータバンクか」

「はい」

 応えた少女に小さく溜息を吐き出し、外に出て瓦礫に腰を落とす。浮かぶ雲が海に陰影を映して視界を鮮やかに染めた。

 少女はベリルの隣にちょこんと座り、次の言葉を持つ。


 その頃──マックスたちの前に1人の女性が微笑んでいた。

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