*その青年
「やっぱり嫌なやつでした。副司令と顔は似ていてもぜんぜん違います」
挨拶を終えた少女は、怒りが収まらないのかその足取りにやや勢いがあった。
「戻ってプリン食べます」
──とドアを開くと、そこには見慣れない空間に記憶にある人物が立っていた。
少女はまたもやプレハブの扉を開いたのだ。もちろん、以前のプレハブとは異なる。
「……」
青年はいぶかしげに少女を見下ろすが、彼女だって眉を寄せずにはいられない。
「またお会いしましたね」
「そうだな」
数秒して、居心地が悪そうにしている青年に問いかける。
「あなたは誰ですか?」
少女の瞳は、まっすぐに青年を見上げて離さない。
それに観念したのか、彼は小さく溜息を吐くとパイプ椅子に腰を落とした。
「ベリルという」
「! ベリル、ですか。私は空月・N・蒼と言います」
「そうか」
「まだ答えていませんよ」
立ち去ろうとしたベリルの手首をぐいと掴む。
「何を答えれば良い」
「ぜんぶ」
それにベリルは眉をひそめた。
「あなたは軍人ではありませんよね」
「傭兵をしている」
「! 傭兵?」
答える気になった青年の手首から手を離し、向かいの椅子に腰掛ける。
「マックスに雇われたのですか?」
「? ああ、コグレの司令官か。いいや、ここには別の用件で来た」
「その用件とは?」
問いかけた蒼から視線を外す。
どうやらそれには答えたくないらしい、ますます怪しい。蒼はまるで尋問しているような気分になって、なんとなく険しい雰囲気を作ってみた。
「答えられないのですか」
「先ほどネメシエルと言っていたか」
話を逸らすように青年が口を開く。
「軍の者にしては随分と若く感じていたが」
切った言葉の先は蒼にもすぐ想像がついた。
「そうです」
こちらも同じように言葉を切って返す。