*どこですか
「!」
警戒しながらうろつき回っていたベリルは、空気が変わった事に気がつく──そろそろ本腰を入れてくる頃だとは予想していたため、焦りはない。
逃げているなら大人しく隠れていろと思うのだが、そんな普通の思考は生憎と持ち合わせていない。
「およそ15~20人といった処か」
薄く笑ってつぶやいた。
とか余裕かましている場所は第1乾ドックだ──鍾乳洞を利用したドックはとても広く、1kmを越えるネメシエルが悠々と横たわっていた。
戦艦を優美と例えるのはいささか違和感があるかもしれないが、その言葉に相応しい美しさを持っている。
翼を持つ戦艦が空を舞う姿は、さぞかし雄大だろう。
こんな場所でも外の様子が解るというのは驚きだが、同じ基地内だからなのだろうと結論づけておく。
[蒼副長]
女性の声が少女の脳裏に響いた。
「なんですかネメシエル。今ちょっと忙しいです」
ベリルが見つからず、苛つき気味に応える。
[そのな……副長が探している人物がここにいるんだ]
「へ?」
半ば駆けていた足をぴたりと止めた。
「ベリルですよ?」
[そうだ、そのベリルだ]
どうやって乾ドックに……蒼は唖然としつつ、ネメシエルのいるドックに向かった。
巨大な空間にも拘わらず、肌寒いようなそれでいて感じる閉塞感には独特な空気が漂っていて、鍾乳洞だった事を今も窺わせる。
ベリルは、その威容を静かに見上げた──1kmを越える巨体は近くで見ると、さらに迫力を増して迫り来るようだ。
触れられる距離まで近づき、感触を確かめるようにコン、と軽く指で弾いたあと右手でさする。
「良い機体だ」
わずかに笑みを浮かべ、つぶやいた。
美しい模様だと目を細め、何かを確認するように瞼を閉じる。遠くにいる兵士の気配を探りつつも、雄大なネメシエルを眺めた。
そうして、近づく気配に口角を吊り上げる。
「なにをしているのですかっ?」
少女は、やや荒くなった息を整えながらベリルを見上げた。
「良い艦だ」
褒められてつい顔が緩むが、すぐに切り替えてキリリと口を開く。
「そんなことよりですね」
「探しているのだろう?」
返ってきた言葉に目を丸くした。
「感じる空気が変わった」
つぶやくように発し、天井を見上げる。
「こんなところでよくも解りますね……」と蒼は言いたかったが、そこはぐっとこらえた。
探されている事が解っていてのんびりしているベリルに半ば苛ついたが、焦っても仕方のない状況でもあると思い直し、「心の余裕も大切よね」なんて自分を納得させる。
「!」
ベリルが何かに気がついて、バックポケットから携帯端末を取り出した。
無音で震える端末のアイコンをスライドさせ耳に当てる。
「──そうか、うむ。了解した。こちらはこちらで片付ける、すまんな」
通話を切って端末をバックポケットに仕舞い、蒼に視線を移した。
「お前はここにいると良い」
「どうするんです?」
背中に尋ねると、ベリルは視線だけを向けた。
「そろそろ飽きてきたのでね」
笑って遠ざかっていく。
[なんだろう]
「どうしたんです?」
脳内の声に怪訝な表情を浮かべた。
[いや、なんていうのか。彼がいると]
どうしてだか、心地よかったんだ。
「え?」
少女はベリルの影を見つめた──





