夢の倦怠感
∞∞∞∞∞
「―――うっ。」
ベッドに身をまかしたまま目だけをあける。
すると見慣れた天井が目に映る。
昔の夢を見た。
思い出すと苦しい夢。
そして大切な人を失った夢。
「なんで今頃‥‥。」
ため息をついてベッドから身を起こし、顔を洗い服を着替える。
上着には金のラインが袖口、胸元にあり左胸には学校の紋様がある。
スカートはプリーツの膝上。靴下はニーソックスの黒。ブーツを履けば膝上より下が見えなくなる。
鏡に向かい合い姿を覗き込む。
(酷い顔……)
私の嫌いな緑の瞳は光を宿してはいるものの、自身の疲労を映し出すかのように疲れきって見えた。
顔色も、お世辞にも良いとも言えない。
朝はいつもこうだ。
低体温のせいもあるのだろうが、一番の問題と言えば不眠症が関係しているのだろう。
自分の腰まであろうかと思われる髪を手に取ってみる。
いつ見ても変な色だ。
一見エメラルドグリーンにも見える髪だが、グリーンでもないのだ。
色合いは緑系統のものと水色系統を混ぜ合わせたような髪。
かと言っても水色でもない。
そんな髪をヤケクソ気味にブラシで梳いて背に流す。癖のあるウェーブのかかった髪なので髪を結ったりするのは当の昔に諦めた。
めんどくさいから。
身支度を済ますとテーブルに移動する。
手早く朝食になりそうな物を口にし、鞄を掴んで部屋を出た。
まだ皆は起きていない時間だが、構わず寮を出た。
外は薄暗く、あまり日はさしていない。
けれど私は行くべき場所―――
―――学校に向かう。
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誰一人外を出歩いていない。
それだけを見れば、なんとも寂しい町並みに見える。
昼間になれば人で賑わう華やかな街だとは到底思えない静けさだ。
レイラの通う学校まではそれほど距離がない。
学校に着くと、校門前で門に付いている校章に手を触れる。
すると今まで堅く閉じた門が光りを発し開いていく。
その隙間からレイラはスルリと中に滑りこむ。
すると門は何事もなかったかのように閉まった。
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校内は基本土足だ。
大理石の廊下を歩み仕事が溜まってあるだろう生徒会室へと足を進めた。
まだ明け方近くで、外も暗い。そのせいか行く先々には魔法で燈された明かりがついている。
いくつもの角を曲がり、そこにやっとたどり着く。
ドアを開くと馴染みある音がキィと鳴る。
生徒会室に足を踏み入ると、机に書類が積み上げられていた。
予想はしていたけれど‥‥‥
ここまでくると尋常じゃない。
「……やっぱり。」
ため息を付いて椅子に座る。
手早く書類に目を通すとリーリアン祭のことだった。
しばらくそれに目を通す。
リーリアンとはこの世界でもっとも偉大かつ有名な魔女の名。フルネームでリーリアン・マージェットと言う。
そしてリーリアン蔡と名付けられたその日は、彼女の命日とも言える日で、彼女を弔うために盛大に行われる。
この学校は由緒ある魔法学校なので、それまた盛大におこなわれる。
また、近年まで一般公開されていなかったのだが、その日だけは特別に魔力を持つ者なら立ち入ることを許可されている。当然、興味があるのだろう、訪れる人は多い。
私は来賓のことや出店の許可、クラスの出し物のことなど、全てのことを任せられている。
「―――ん?ダンス?3日目の最終日ねぇ。できないこともないけど‥‥‥。議会で決めましょうか。」
目を通していた書類には生徒などの意見案が記されいる。
もう少しで生徒が登校してくる頃だ。
レイラは書類を机の上に戻し席を立つ。
薄暗かった室内のカーテンを引き、開けると優しい光りが室内に入り込んできた。
「今日も一日頑張りますか」
自分に言い聞かせるように呟き、気合いをいれる。
今日もまた、長い一日が始まった。
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では今月の予算案はこれでいいでしょうか?と 尋ねる声が何かの壁を隔てたように、酷く朧げに聞こえる。
いつものことだ。
「ええ、いいわ。じゃあ、次は文化祭のことについてよ。一応は私が書類に目を通したけど、確認のため目は通してね。それと、出店は昨年と同じ所プラス、全校生徒のこの前採った好きなお菓子屋アンケート結果No.1だった“クルール”の出店を出していただく、ということでいいかしら?」
皆はそれぞれの反応を返してくれる。
それじゃあ、私はこの案を校長に伝えてくるわ。と言って私は席を立った。
「ああ、書類、ちゃんと目を通しとくように。帰って来るまでにね〜。」
ドアを閉め際に身を乗り出して皆に念を押す。
当然のように他事をしようとししていた2名に、私が帰ったら書類無しで内容を言ってもらうわよ、と。
返信をちゃっかり聞いてからドアを閉め、校長室に向かって私は歩きだした。
今は放課後なので、校舎に残っている生徒はほとんどいない。ここは学校とは名ばかりの組織集団だ。
しかしそんな組織だろうが何だろうが、学業もある訳なのだが、やはり訓練も受けなければならない。
もちろんそんな集団に、普通の学校のような部活動らしきモノはもちろん無い。
そのかわり、放課後にトレーニング室で身体を鍛えたり、闘ったりする。
それは組織からその人に合った任務を出されるため、それを遂行するために鍛えるのだ。
もちろん闘いの中でペアーを組んだりする義務はないけれど、ペアーを組むと効率よく任務をこなせれる。
そのペアーや仲間とトレーニングするのだが、寮や校内を使い練習する生徒が主だ。
何故これほどまでに闘いと関連付けたことをしているかというと―――――
理由は簡単。
―――――この学校は闘いを主とし、それを生業としている。
隠密行動を取り各国の内情を調べあげたり、地方を襲う魔物の討伐などに命じられたりなど様々だが、命の危険とはいつも表裏一体なのだ。
その仕事をするさいに、ペアーを作るか作らないかはその人しだい。
学校を、組織を卒業してからペアーを作る人もいれば、一生作らない人もいると聞く。 それもあれば逆もあるわけで、幼い頃からいる人もいる。
それは、親が勝手に決めたりした相手だとか、両者の同意の元なった者たちだ。
もちろん私はそんな人いない。
作るつもりもない。
私は足をピタッと止めた。
(着いた。)
校長室は校舎の一番片隅にある。
普通なら学校の中心地にあるべきなのだろうとは思うが、なにせここの校長は変わり者だ。
コンコン
控え目にノックを打つ。
「校長先生?失礼します。」
静かだが良く透き通る声。
返信がないので、勝手に扉を開けさせてもらう。
室内を見渡す。
奥にある机の向かい側左右のソファーに校長と青年が座っていた。
いち早くドアの所で退室するべきかと迷って立ち尽くした私に気が付いたのは青年だった。
彼の濃いブルーの瞳がこちらを見つめる。
濃いだけではなく奥の深いようなそんな色。
(懐かしい……)
どうしてか、そんなことを思った。
そういえばルーベもこんな瞳をしていた。