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運命の日

 青海に面した応の国、澄明の港は、その日も変わらず賑わっていた。国下一の港には、大小の商船漁船が入れ替わり立ち替わり常に混雑している。

 ここは澄明市、宣。

 宣は司馬家開祖、司馬省が開いた商業の街だ。東西の交通の要として発展し続け、今も変わらず人や物そしてそれ以外のすべてが集まる一大拠点となっている。

 人はこの地を、全世と呼んだ。

 宣になきものなし。世のすべてがここにある、と。




「おーい、十座!」


 大声で呼ばれて、十座は不機嫌も露わに立ち止まった。

 渋々振り返り、人垣から優に頭二つ分は大きい男が両手を振りまわしながらやってくるのを、仏頂面で出迎えてやる。


地央ちおう、俺は何度も言ったはずだぞ。往来でそんな大声を出すな!」

「あー、すまん、すまん。だが、気にしなけりゃどうという事もなかろう」


 司馬と並び称される宣の名門、円家の二男坊は、気にした風もなく十座の隣に肩を並べた。


「俺は気にする」

「おいおい、天下の司馬の総領がそんな胆の小さいことでどうする。お前も俺様のように、こうしてどんと構えておればいいんだ。そうすりゃ何事も気にならなくなるぞ。いい機会だ。お前、この俺を見習え。そして敬え」

「だから、なぜ俺がお前なんぞを敬わねばならんのだ。お前こそ俺を見習え。地央、お前は少し周りを気にした方がいい」

「冗談じゃねえ。俺はお前と違っていつまでも瑣末なことには拘らん懐の大きい男なんだよ。第一、周りの目など一々気にしていたら、船乗りはつとまらんぞ」

「生憎、俺は船乗りじゃない」

「全く嘆かわしい。宣一の船主のくせに船に乗らんとは」


 もったいないことだと大声で言って、地央は日焼けした顔をくしゃくしゃにして、また笑った。




 穏やかで聡明な司馬の次期当主と豪放で行動力のある円の次男。

 性格も何もかも正反対に見える二人は、幼い頃からの親友同士だった。

 宣の次代を担うに相応しいと誰もが認めた二人の未来は、眼前に広がる青い海原のように洋々たるものであるはずだった。

 その日その瞬間までは。


 運命の歯車は音もなく回りだす。


 この時、司馬十座二十歳。円地央二十一歳。

 空は青く、海もまた青かった。






 港についた二人を待っていたのは、思いもかけぬ知らせ―――訃報だった。


「父上が亡くなられただと!まさか!」


 日頃の冷静さをかなぐり捨てて、十座は叫び声を上げた。怯えきった伝令の男の胸倉を掴んで、勢いよく壁に押し付け詰め寄る。


「今さっき屋敷で話したばかりなんだぞ。つまらん嘘を吐くな!」

「お、おい、落ち着け十座。まず手を放せ。それでは話も満足に聞けん」


 地央が強引に割って入る。


「う、嘘ではありません。しょ、頌景様は・・つい先ほど・・・な、何者かに斬りつけられて・・・・」


 亡くなられたのです、と男はつかえつかえ言った。

 

 司馬家現当主、司馬頌景の横死。すべての悲劇はそこから始まったのだ。


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