「異世界人の君にはわからないか」と言われたのでブチ切れました
私、水野つむぎは5年前、高校の帰り道に突然異世界召喚された。
「陛下、成功いたしました!!」
「うっ……」
騒がしい声で目が覚めた。
周りを見渡すと、丈の長いマントのようなものを羽織った人たちや、頭に冠をのせたきらびやかな格好のおじさんが私の周りに立っていた。
初めは何が起きたのか訳がわからずとても混乱して取り乱した。
「我が国を立て直すためにそなたの手を貸して欲しい」と冠をかぶったおじさんに手を差し出されたけれど「そんなの自分たちで頑張ってよ!」と言い返して断った。
冠のおじさんは一瞬しかめっ面したけれど「そなたが元の世界に戻るためには我らの協力なしでは帰れない」と言われ、私は一人ではどうにもできないことに気づいて抵抗するのを止めた。
国の立て直しの手伝いが終われば元の世界に帰すという約束を取り付け、仕方なく協力する事にした。
まずは本当に私が聖女なのかを調べるため神具を使い、魔力検査を受ける事になった。
あれこれ揉めた手前、自分に魔力がなかったらどうしようとドキドキしたが、私には規格外の光属性の魔力があることがわかり、聖女と判定された。この結果に部屋にいた冠おじさんとマントを着た人たちは皆とても喜んでいた。
その後、この国について冠おじさんの隣に立っていた人から説明を聞いた。
私が想像していた以上に国の状況は深刻だった。瘴気が各地で広がり作物が育たず農地が壊滅的な被害受けていた。それによって飢餓や疫病が発生し、いくら対策をしても追いつかない状況だという。
そんな話を聞き、私が背負うには問題があまりにも大きすぎて本当にこの状況をどうにかできるのか不安でしかなかった。
翌日からは魔法を使う練習とこちらの世界や国についての勉強が始まった。
初めは多少の余裕があったけれど、魔法が使えるようになってくると休憩時間が短くなり、一日でも早く瘴気が発生している所へ行って浄化するため、毎日魔力量が尽きる限界まで魔法の訓練をさせられた。
自分の部屋と魔法訓練所、講義を受ける部屋の往復するだけの生活が続き、18歳の私にはとても辛かった。
そんなこんなで3ヶ月が経ち、一番偉い魔法使いのおじさんに私の魔法が本格的に活動しても良いレベルになったと認められ、いよいよ浄化の旅に出発することになった。旅の同行者は護衛騎士、魔法使い、侍女それぞれ一人ずつと少人数だった。
私はずっと缶詰状態で生活していたから、王宮から出れば少しは解放感を味わえるんじゃないかと思っていたけれど、ここからが本当の地獄の始まりだった。
国内の瘴気が蔓延している村や町をひたすら巡って土地を浄化し、病人を癒やした。
旅では野営することが多く、時には魔物に襲われた事も一度や二度ではなく、慣れない旅に逃げ出したくなった。
元の世界へ帰るためには頑張るしかないと何度も自分に言い聞かせ、朝から夜までとにかく必死に働き続けた。
その結果3年で国の瘴気は浄化され、土地は回復し、光魔法の効果なのか土地は以前よりも作物がよく育ち、人々は元気になり、国も豊かになっていった。
浄化の旅を終えて王宮に戻った私は肉体的にも精神的にも疲れ切っており、ベッドから起き上がるのもやっとの程だった。
そんな私のお見舞いにいつも来てくれたのがこの国の第二王子セルジュだった。
彼は私の働きを労い、体調を気遣い、優しい言葉をかけてくれた。過酷な環境で長い間頑張ってきた私には彼の温かい言葉や気遣いが疲れ切った心にじんわりと染み込んでいった。
セルジュと言葉を交わすようになり、彼との距離が縮まるまでそう時間はかからなかった。体調が回復した頃にはすっかり心を開いて何でも話すくらい私は彼と仲良くなっていた。
体調が良くなり元気になった私は、国との約束ではもう帰っても良いことになっていた。でも、セルジュと離れたくないという思いもあり、帰ることをズルズルと言い出せずにいた。
「帰りたくないな」
セルジュとのお茶中につい心の声をもらしてしまい、私は慌てて取り消そうとしたが、彼に「つむぎに帰って欲しくない。ずっとそばに居て欲しい」と言われ、彼で心がいっぱいになっていた私はすぐにOKしてしまった。
その後トントン拍子で婚約の話がまとまり、神殿で婚約の儀式を執り行い、正式にセルジュの婚約者になった。
婚約後は王太子の補佐をするセルジュを支えるために彼の仕事を手伝うようになり、今ではすっかり王宮生活に馴染み、国を支える一人として生活していた。
***
ある日、私はセルジュに頼まれた資料を探しに様々な国の記録を保管している部屋に来ていた。
(えぇっと、セルに頼まれた資料は……ん?)
探していた棚の中に一冊だけかなり年季の入った本に目が止まった。
手に取ってみとる表紙には「聖女について」とあり、パラパラとページをめくると、小難しい事がびっしりと書かれてあった。
「読みづらいわ」
本を読むことをあきらめて閉じようとしたが、ある一文が目に入り手が止まった。
「聖女の存在は国を守り繁栄させると古より言い伝えられており、国が管理すると定める」
(聖女を国が管理って、何これ?)
「あっ」
読んでいた資料から紙切れが一枚床に落ちる。拾い上げて読んでみるとそこには『聖女召喚は他の召喚術と同様に呼び出すのみである』と書かれていた。
「呼び出すのみって、つまり、帰る方法はない?」
私にはあまりにも衝撃的な内容に目まいがした。フラフラと歩き出し、気づくとセルの執務室の前まで来ていた。
(あれはかなり古い記録資料だった。何かの切れ端みたいな紙だったし、きっと何かの間違いよ)
紙切れの事をセルに確認しようと思い、扉を開けようとしたがほんの少し開いており、部屋の中から男性の声が聞こえてきた。
「お前がここまで聖女と上手くやっている事に感心している」
低く冷たさを感じるこの声は王太子だ。
「私はただやるべき事をやっただけですよ。兄上」
「聖女が城に戻って来た時、帰りたいなどと言い出したらどうしようかと俺は内心ヒヤヒヤしていた。召喚した時だってかなり取り乱していたと父上たちから聞いただろ?元の国へ帰る方法などないのだから、本当騒がれなくて良かった」
(待って、嘘でしょ……あの資料に書いていたことは本当だったの?)
「結婚まであと少しだ。それまで頑張ってくれよ」
「えぇ、抜かりな――」
――バンッ!!「今の話、どういうことですか!?」
私は乱暴に扉を開けた。二人は私が扉の外で話を聞いていた事に全く気づいていなかったようで、驚いた顔をして固まっていた。
「セル、今の話は本当なの!?」
「それは……」
しばらく沈黙が続いたが、王太子が話し始めた。
「国をどうにかしなければならなかったんだ。帰れないなどと言えば、君は俺達を助けてくれなかっただろ?」
そんなの当たり前だろう。突然知らない世界に来て「二度と帰れない」なんて言われたら、大人しく従う訳がない。
「みんなで私のことを騙していたのですね!!」
「つむぎ、そんな言い方しないでくれ。君は帰りたくないと言ったじゃないか。僕たちはもうすぐ結婚するだろ?ここは前向きに考えてくれないかな」
「そうだ。君は王族と結婚できるんだぞ?不満なんてないだろう」
もう怒りを通り越して呆れてしまう。
「セルジュ、私はあなたが好きでずっと一緒にいたいと思ったから帰らないと決めたの。それなのに、あなたにとって私との結婚は王子としてのお仕事の一つだったのね」
彼は何も言い返せないのか、困ったような顔で私を見つめている。
「セルジュは国のためにやっているのだ。別に非難されることではないだろう?」
開き直って何か問題あるか?という顔をして話すその王太子の態度に腹が立った。
「私の気持ちはどうなるのですか?」
「セルジュの事が好きなのだろ?問題ないじゃないか」
「問題大ありです。先程のお二人の会話を聞いて、好きだった気持ちはきれいに消えて無くなってしまいましたから」
「ならばこれは政略結婚だと思えばいい。そういう夫婦の形なんて珍しくないだろ?あぁ、そういえば君が住んでいた国では政略結婚は少数だと言っていたか。まぁ、異世界人の君にはわからないか」
「このクズ野郎共が……」
つい心の声が口から漏れてしまう。
「何だと?」
「そうですね。私は全くわからないです!!」
私は猛ダッシュで自分の部屋に戻った。怒りや悲しみ、色んな感情が一気にあふれ出て目から涙が止まらない。
「本当、ばっかみたい!」
クローゼットの扉を勢いよく開け、召喚された時に背負っていた通学用リュックと履いていたスニーカーを奥から引っ張り出し、着替えなど最低限の荷物を詰め込んでいく。
――ドン、ドン!「つむぎ、開けてくれ!」
セルジュの声が扉の外から聞こえてくる。勢いよく執務室を飛び出した私を追いかけて来たのだろう。魔法で扉を開けられないようにしておいたのは正解だった。
私は急いで動きやすい服に着替え、靴を履き替え、自分に浮遊魔法をかけて部屋の窓から飛び降りた。
地上に着地してからは身体強化と私を認識できなくなる魔法もかけ、全力で走って城の外に出た。
後ろから叫ぶ声が聞こえてきたような気がするけど、もうこんな国なんてどうでもいい。私はとにかくこの国から逃げ出したいという一心で走って走って走りまくった。
王都を抜け出した後は森の中を突き進んだ。森に入ってからは防御魔法も自分にかけ、そのお陰で魔物と出会っても魔物を跳ね返してくれたから足を止めずに進む事ができた。
食べ物は木の実や果物を取って食べ、なんとかしのいだ。
いつも部屋に常備していたポーションも持ってきていたので、魔力切れを起こさずに2日ほどかけて国境近くまで自力でたどり着くことができた。
私は近くの山の高台まで登り、王宮がある方角を向いた。
「私だって、やられっぱなしじゃないんだからー!!」
浄化の旅が終わってから魔法を全く使っていなかったけれど、第二王子との婚約が決まってからは彼の役に立ちたいという思いがあって魔法の訓練をこっそり再開していた。
今ではこき使われていた頃よりも魔法の扱い方が格段に上手くなり、習得するのが激ムズだと言われていたある魔法も使えるようになっていた。
「ふふっ、これは興味本位で習得したものだったけれど、まさか使う日が来るなんてね」
私は空に向かって両手を上げて全力で叫んだ。
「ぜーんぶ元に戻ってしまえーっ!!!」
手のひらから膨大な魔力が放出されていくのを感じる。放たれた魔法が光の粒となり、輝きながら空いっぱいに広がっていく。
「これでこの国とはおさらばよ!」
***
私は魔法をぶっ放した後、即刻国を出るつもりだったが、思っていた以上に魔力消費が激しくポーションを飲んでも回復が間に合わず、その場に倒れてしまった。
目が覚めた時には知らない部屋におり、もしや捕まったのでは!?と警戒したが、隣国の辺境伯に保護されていた。
辺境伯領から空が異常に輝いているのが見え、緊急事態が起きたと思い、国境を越えて様子を見に来ていたらしい。そこに倒れている私を発見したという。
辺境伯には聖女であることは隠し、家族に奴隷のように働かせられていたから逃げてる最中だったと伝えると、辺境伯領では、私のような訳ありで保護が必要な人は、住む場所や生活するための支援を受けることができると教えてくれた。
なので、しばらくはここでお世話になることにした。
仕事も紹介してもらい、文字の読み書きと計算ができるならと宿屋で働くことになった。
私の仕事は部屋の掃除やベッドメイキングで、なるべく目立たないものを選んだ。
光魔法が使えるから掃除は全く苦ではなかった。住む場所もただで提供してもらい、生活の目処が立つまでいろんな支援が受けられ、仕事も見つかって満足である。
そうして宿屋で働きながら一ヶ月が経った頃、元いた国の噂がちらほら聞こえ始めてきた。
どうやら隣国ではまた瘴気が発生し、魔物があふれ、土地も荒れ、病気も蔓延しているらしいと。私が今いる国では人の出入りを制限し、国境周辺の守りも強化しているのだとか。
(自国の問題は自分たちで解決するべきよね)
さらに1年が経つと元いた国の国民たちは生活が立ち行かなくなっていき、反乱が起こり、国を治めていた王族は引きずり降ろされたとの噂が私の耳に届いた。
(まぁ、自業自得でしょ)
私はというと、宿屋にいつも長期滞在する常連客の薬師のおばあちゃんに「アンタが掃除する部屋はきれいだ」とお褒めの言葉をいただき、「私の仕事を手伝わないか?」とお誘いを受け、引き受けることにした。
保護してくれた辺境伯には感謝しているが、元いた国が辺境伯領に近いのも気になっていた。
だから、どうにかここから離れられないものかと考えていたので、ちょうど良いタイミングだった。
雇ってくれた宿屋の主人に仕事を辞めることを伝え、薬師のおばあちゃんに同行し、彼女が住んでいる辺境伯領よりもずっと南にある子爵領の町へ移り住んだ。
その後は、薬師の助手としておばあちゃんの元に住み込みで働き始めた。
仕事場の掃除や薬を作る道具の洗浄、最近では薬草採取や下処理も少しずつ覚えて手伝っている。
「つむぎが下処理した薬草は状態がとてもいい」と褒めてもうらうこともあるけれど、聖女であることがバレないように気をつけながら、仕事をしている。
私が今やっている仕事は地味だ。光魔法を使えばもっといい仕事を見つけられるし、今よりもいい生活ができるだろう。でもその代償があまりにも大きすぎるし、光魔法を使ってあんな目に遭うのはもう二度とごめんだ。
だから私は今日もコツコツとおばあちゃんの仕事を手伝い、休憩時間に食べるはちみつマフィンとハーブティーを楽しみに仕事を頑張っている。
おばあちゃんが作るはちみつマフィンはほんの少し塩気があり、甘さとのバランスがちょうど良く、ハーブティーとの組み合わせが最高なのだ。これが今見つけた私の小さな幸せだ。
この先どうなるのかはわからない。でも少しずつ小さな幸せを一つ、また一つと見つけていきたい。
誤字報告ありがとうございます!
感想ありがとうございます!




