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東京タクシー物語  作者: Akira


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3/6

3組目 暑さには勝てない

7月中旬、午後2時。外気温はすでに34度を超えています。アイドリング中の車内だけが、外界と切り離された北極圏のような涼しさを保っていました。

ピコン、と配車アプリの通知。

「……迎車先、そこじゃん」

目と鼻の先、駅ビルの日陰にうずくまるようにして待つ二人組。目的地を確認すると、わずか400メートル先のカフェ。この殺人的な日差しの中では、その距離すら「死の行軍」に見えるのかもしれません。

熱風を遮るシェルター

「お待たせしました」

ドアを開けた瞬間、熱気が津波のように流れ込み、すぐさま彼女たちが滑り込んできました。一人は首筋に冷えたペットボトルを当て、もう一人はハンディファンを最大出力で回しています。

車内のエアコンの 設定温度を「LO」まで一気に下げる。

彼女たちの「ふぅーっ!」という、地獄から生還したような吐息が後部座席から漏れる。

「すみません、本当に近くて……」

「いいえ、この暑さですからね。無理は禁物ですよ」

本音です。この炎天下、フル装備のメイクと完璧な巻き髪をキープしたまま400メートル歩くのは、20代の女性にとって「スポーツ」というより「修行」でしょう。

アスファルトの照り返しを横目に

車を出すと、歩道ではサラリーマンがハンカチで顔を拭いながら、力なく歩いています。

「見て、あの人たち地獄だね……」

「マジでアプリ呼んで正解。1分歩くだけで前髪終わるもん」

バックミラー越しに見る彼女たちは、冷房の吹き出し口を自分たちの方へ向け、まるで砂漠のオアシスを見つけた旅人のような顔をしていました。

1分間の「避暑」終了

「あ、そこの白いオーニング(日よけ)の前で!」

目的地はすぐそこ。カフェのテラス席では、パラソルの下で客がぐったりと座っています。私はできるだけ店の入り口に近く、かつ日陰になる場所に車を寄せました。

「ありがとうございました! 助かったー!」

勢いよくドアが開き、彼女たちは一瞬だけ熱風に顔をしかめましたが、そのまま最短距離でカフェの自動ドアへと吸い込まれていきました。

「……よし、完了」

スマホの画面をタップして、配車完了。

彼女たちにとっては、数百円で買った「美貌の維持」と「熱中症予防」。

私にとっては、この猛暑の中、1分間で完結したもっとも効率の良い一仕事。

彼女たちが去った後、再び設定温度を戻し、私は次の「避暑希望者」を待つために、ゆっくりとアクセルを踏み込みました。


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