賢者の館.10
「だーかーらー、この絵の女性にベールとコサージュとアクセサリーを用意してあげたら良いんだよ!」
アルバートは改めてそう言うと2人を見る。しかし、エリオットとレイラはなんというか渋い表情をしている。アルバートはそんな2人の様子にも気がつかない。
「そうと決まれば探しに行こう!」
アルバートは元気な声でそういうと再び部屋の中を探しにイオリの手を引っ張る。
「いや、でも、、、。アル。」
「辞めとけよレイラ。ああなったら何言っても聞かないぜ。」
何かを言おうとして口籠もるレイラをエリオットは制止し、アルバートを呆れた様子で見つめる。
こうなってしまったら何を言ってもアルバートを止めることは出来ない。一見優しい穏やかそうに見える友は案外頑固なのである。
今は何を言っても無駄なためとりあえず彼の言う通りに動く他ない。エリオットはとりあえず頑固な友の後を追った。
「そうね、、。」
そんなエリオットの姿を見たレイラは同じように諦めた表情をしたかと思うとため息を付きながら3人の後を追うのであった。
ーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ、とりあえず必要な3つの物を探そう。」
「"ベール"、"金属のアクセサリー"、“フェリキスの花のコサージュ“、、。」
「そんな物この屋敷にあるかぁ?」
エリオットは呆れたように声を上げる。なぜなら先ほど部屋を見て回ったときにその3つがある様子はなかったからである。
「、、、フェリキスの花のコサージュはなんとかなると思うわ。」
レイラは少し考えた様子を見せた後にゆっくりと3人へ話しかける。
「本当かい⁉︎」
レイラの言葉を聞いた聞いたアルバートは嬉しそうな表情を見せる。そんな様子のアルバートを見てレイラはしっかりと頷く。その表情はとても自信があるように見える。
「ええ、当てがあるから大丈夫よ。
でも、残りの2つはどうしよう、、。」
「おい、テメェ。俺らよりこの屋敷に居るんだから何かしらねぇのかよ?」
エリオットはイオリの方を見て、乱暴な口調でイオリへと問いただした。
イオリはそう言われたがよく分からずに頭を傾げしてしまう。
「ちょっと!もう少し優しく言えないの?
ごめんねイオリ。」
「フン。」
レイラはエリオットのイオリに対するきつい態度に苦言を呈するとイオリへと優しく話しかける。
そんなレイラの言葉を無視するようにエリオットはそっぽを向く。
「大丈夫。」
イオリ自身はあまりエリオットの態度を気にする様子はない。そんなイオリの様子にレイラは少し安堵を覚えた。
「何か薄めの綺麗な布とかこの屋敷で見たことない?」
イオリはレイラにそう言われて少し考えてみる。そして一つ思い出したかのように声を上げた。
「あ」
「何か心当たりあったかい⁈」
「本当⁈」
アルバートとレイラは何か心当たりのあるイオリの様子を見て嬉しそうに顔を近づける。
「うん、あっち。」
イオリは頷くとある場所を指差した。イオリが指を指した方へ3人が顔を向けるとそこには初めてイオリと出会った寝室の扉が目に入る。
「寝室にあるの?」
「まさか布団だなんて言うんじゃねーだろな。」
イオリはレイラのその問いに答えるわけでもなく、1人寝室へと足を向かっていく。
そんな様子にアルバートとレイラは顔を見合わせるとどちらからともなくイオリの後をついて行く。
そんな中エリオットは不機嫌そうにイオリを見るががそんなエリオットを黙らせるかのようにレイラは鋭い視線で睨みつける。
睨みつけられたエリオットは口を塞ぎ仕方なく3人の後を追うのであった。
4人は寝室へとたどり着いた。
そしてイオリは迷いのない足取りで目的の場所へと向かうとある場所の前で立ち止まる。そこは大きな全身鏡の前であった。
イオリは3人の方を向き指をさす。
「これ。」
イオリが指すその先は全身鏡ではなく、それを覆う布であった。
「これかい?」
「はぁ?こんなんベールじゃねえだろ。」
エリオットはイオリに向けて怒りの声を上げる。目の前の布は鏡を覆うための布だ。自分たちが求めているものとは明らかに違う。
アルバートは目的とは違う物を出されてしまい、エリオットと同じではないが少し困惑してしまった。
「イオリ、僕達が探しているのはベールだよ?
これはただの布ーー
「いいえ、これ使えるかも。」
アルバートの声を遮るようにレイラは声を上げると鏡を覆う布へと手を伸ばし布をじっくりと観察する。
レイラの手にある布は透けるような素材で周りにはレースがあしらわれている。そしてよく観察すると小さな星が散りばめられたかのようにキラキラと輝いている。
「いやいや、鏡を覆うための布だぜ?ベールになんかならないだろ。」
「いいえ、むしろすっごく綺麗でピッタリ!すごいわ、イオリ!」
「わっ」
エリオットは少し嘲笑うかのように言葉を発する。しかし、そんなエリオットの言葉を否定しレイラは嬉しそうにイオリへと抱きつく。
急に抱きつかれたイオリはお人形のようにじっとしてレイラのされるがままになっている。
「あっごめんね。つい、、。」
ついはしゃいで抱きついてしまったレイラは少し恥ずかしそうにしながらイオリから身体を離すとイオリへと謝る。
「よし!じゃあ後はアクセサリーだけだね。」
「本当にこれでいけんのかよ?」
アルバートはそう言うとウキウキした様子で寝室から足を遠ざける。そしてあとを追うようにして他の3人も寝室から出る。
4人がいなくなり静かになったあとの寝室では暗闇の中でキラリと鏡が輝いていたのであった。