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賢者の館.9


 その後地図を探す4人であったが中々見つけることができない。

少し疲れが出始めた3人を見つめるイオリの耳にふと何処からか声がきこえてくる。


『こっちーーー』


 イオリは声の主を探すため顔を上げて辺りを見回す。


『こっち』


 再びイオリの耳に声が届く。その声はガラスのような澄んだ綺麗な女性の声だ。今度は先ほどよりもはっきりとした声だった。

 声がした方に足を向かわせるとそこには初めてこの場所に来た日に見た大きな絵画があった。

 相変わらず絵画の中にいる白いドレスの女性は少し悲しそうな顔でこちらのことを見つめている。そんな女性をイオリはただ見つめる。

 アルバートは他の場所も探そうかと辺りを見渡すと視線の先にイオリがジッと壁を見上げているのを見つける。


「イオリ、何か気になる物でもあるのかい?」


 アルバートはイオリの方へと近づくとイオリの見つめている物へと目を向ける。


「女性の絵?これがどうかしたのかい?」


 アルバートがイオリに向かって質問を投げかけるがイオリは絵画を見つめたまま何も答えない。

 アルバートは不思議に思いながらも絵画へと目をやる。


「(...?何かあるのか?。)」


「何かあったの?」


 絵画を見つめるイオリとアルバートのそばへへレイラは近寄る。


「イオリがこの絵が気になるみたいで。」


 アルバートがレイラにそう説明するとレイラも2人と同じように絵画を見上げる。


「この絵がどうしたのーー

ってあれ?この絵ちょっと変じゃない?」


 レイラは絵画を見上げたまま、イオリとアルバートの2人にそう投げかける。

 レイラに言われた2人は不思議そうにレイラの方へと顔を向ける。


「おーい、お前らちゃんと探してんのかよ?」


 気が付けば自分以外が地図探しの手を止めて、一つの絵画に集まっているではないか。そんな3人の元にエリオットは呆れながら近づいた。


「レイラ、どこが変なんだい?」

「えっとー」


 エリオットは3人と同じように飾られている絵画を見上げる。

 しかし一見普通の絵画で何もおかしな点はないように見える。


「はぁ?どこが変なんだよ。フッツーの絵だろ。

どうせ、レイラの勘違いだろ。」


 そう言うとエリオットはため息を吐きながらバカにしたような目でレイラの方を見てやる。


「勘違いじゃないわよ!」

「まぁまぁ、落ち着きなよ2人とも。

で、どこが変なんだい?」


 アルバートはエリオットの言葉で怒るレイラをなんとか宥めながら、相も変わらずこの2人は相性があまり良くないなと心の中で少しため息を吐きそうになってしまう。

 アルバートはもう一度壁の絵画を見上げる。エリオットの言う通り、自分の目にも可笑しなところは見当たらない。


「ム〜〜。

だってこの絵の女の人って花嫁さんでしょ?だったらおかしいもの。」

「?」


 レイラにそう言われて見るがやはりアルバートには可笑しな点は見つからず首を傾げてしまう。

 そして、そんなアルバートを見ながらイオリも同じように首を傾げる。


「花嫁だったら何がおかしいんだよ?テキトー言うのはやめろよ。」

「だーかーらー!!

花嫁さんなのに"ベール"も被って無いし、"金属のアクセサリー"も付けてないし、“フェリキスの花のコサージュ“も身につけて無いし。おかしいでしょ⁉︎」


 馬鹿にしたように口出ししかしてこないエリオットを黙らせるようにレイラは絵画に向かって指を差し大きな声で叫んだ。

 確かに絵の中の女性は白いドレスを身に纏っているだけでレイラの言う物は身につけてはいない。


「言われてみれば!従姉妹のユース姉さんの結婚式の時もその3つの物を身につけていたよ!」

「アルってばそうでしょ!花嫁はその3つの装飾品を身につけるのがこの国では常識なのよ。」


 自身の言葉に納得したアルバートの姿を見たレイラは得意そうに腰に手を当てて、先ほどから自分をバカにしてきたエリオットの方へと視線を送る。

 エリオットはそんな視線に気づくと嫌そうな表情をしレイラから顔を背けた。


「何も知らない男子諸君に教えてあげましょう!

花嫁は結婚式の時に3つの装飾品を身につけるの。


ひとつ、友から送られるフェリキスの花のコサージュ。

ふたつ、家族から送られるベール。

みっつ、相手から送られる金属製のアクセサリー。


結婚式の時にこの3つを身につけると、その花嫁は一生幸せに暮らしていけるっていう伝承なのよ。

はぁ、いつか私もこんな素敵な花嫁になれるかしら、、、。」


 説明を終えたレイラは自身の将来の花嫁衣装を妄想しながら顎に両手を添えて、うっとりとした表情を見せる。


「誰もオメーのことを嫁になんか貰わねぇだろ。」


 エリオットはそんな様子のレイラを見て、鼻で笑いながら小さな声でそう呟いた。


「何か言った?」

「いーえ、何も?」


「、、、。」


 エリオットとレイラの2人が睨み合っている間にもアルバートは絵の中の女性を見つめ、何か考え込んでいるようだ。


「まぁ、だから何だって話だし。さっさと地図探しを再開しよーぜ。」


「いや、もしかしたらこれは何かのヒントかもしれない!」


 エリオットはそう言うと地図をもう一度探すために踵を返そうとした。

 しかし、そんなエリオットを止めるようにアルバートは声を上げた。


「いやいや、こんなのただの絵だせ?地図とは何にも関係ないだろ。」


「エリオット、ここは賢者様の屋敷だよ。何か仕掛けがある筈さ!」


 思ってもいない発言にエリオットはアルバートの方へと振り返るとアルバートは瞳を輝かせ、なぜか嬉しそうな表情をしている。

 エリオットは普段のアルバートをとても賢い人間で同年代より大人びた奴だと思っている。しかし殊更に賢者のこととなると彼は年相応、それ以下の歳の少年のようになってしまうのである。

 そんな普段とは違う様子のアルバートにエリオットは毎回呆れてしまうしかないのである。


「でもアル、何をどうするのよ?エリオットの言う通り、私もこれは地図には何も関係ないと思うわ。」


 レイラはアルバートに対してそう訴える。エリオットの言うとおり何か仕掛けがあったとしても、地図には何も関係ないようにしか思えない。


「うーん、、。」


 レイラとエリオットの2人が呆れた様子でアルバートのことを見つめている。見つめられているアルバート本人は顎に手を添えて考え込んでいる。





「“足りない物を用意してあげる。“」



 ふとイオリが絵の女性を見つめながらそう呟いた。イオリの言葉を聞いたアルバートはそれだと言わんばかりにイオリを見る。


「なるほど!イオリの言うとおり、足りない物を僕たちが用意してあげたら良いんだよ!」


 正解を見つけたかのように目を輝かせるアルバートを見たエリオットとレイラはこの時ばかりは考えが一致してしまった。

 そして2人は眉を寄せて同時に口を開けると


「「はぁ?」」


 2人のハモった声が部屋の中に響き渡るのであった。



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