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ある芸能人夫人の肖像
これは、家・血・宿命と向き合った女性と一族の長い戦いの物語である。
ある芸能人夫人の肖像
-「負ける戦をしてはならない」-
これは、家・血・宿命と向き合った女性と一族の長い戦いの物語である。
900年以上続く武家の家系に生まれ、幼い頃からの夢である作家となり、芸能界のサラブレッドと呼ばれる俳優松本麻斗と結婚した穐山萌子。華やかで誰からもうらやましがられた、まさにおとぎ話のヒロインにふさわしい彼女の実像は、血塗られた宿命に翻弄されたものであった。古めかしい家というものから離れたがり、それとは逆方向に生きてきた萌子であったが、やがて彼女の夫が愛人をもち、亡き祖父の言葉から、彼らと自分は敵同士の家系に生まれていたと知る。
一番遠ざけたかったものに囲まれ、それと向き合わねばならなくなった萌子は、「負ける戦をしてはならない」という先祖代々の家訓とともに、否応なしに戦いぬくことになる。萌子はその戦いを、先祖ゆかりの地である岩藤郷と、出生時の候補の名前を合わせた「岩藤錫子」という人間に託して語るのであった。