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第9話 こ、これがパソコンなのか⁉ / けど、このパソコンのことについては秘密にしてくださいね


「こ、これは……⁉」


 室内に入ると、機械のようなものが、二人の視界に入る。

 しかしながら、パッと見、パソコンかどうか区別がつかなかった。

 なんせ、パソコンというよりも、装置みたいな機械の類。

 初期型のパソコンを連想させる大きな箱状の機械が、その部屋に存在していたのだ。

「これが私の家のパソコンよ」

「……? えっと、パソコンなの?」

「ええ。昔、戦時中に、軍隊らが使用していたパソコンなの。けど、現代風にアレンジしているから、当時のモノとは違うわ」

「へえぇ……」


 なんだか凄いものだと思った。

 藤花は自称お金持ちというよりも、別の方向性に優れているような気がしてきたのだ。


「これを使って調べてみたら? いい情報が手に入ると思うわ。でも、他の人には言わないでよね、分かった、平民?」

「わ、わかったよ」


 夏央はただ頷くことしかできなかった。


「じゃあ、そこに行って」

「どこ?」

「あっちよ」

「いや、分からないんだけど」


 装置がありすぎて、どこへ行き、どこら辺を操作すればいいのか、さっぱりだった。


「しょうがないわね。こっちに来て」


 刹那、藤花から手首を掴まれる。

 彼女から手を触られること自体、初めての経験。


「はッ……んん、なんでもないから、誤解しないでよね」

「え?」

「私は別に、平民が好きで手を触ったわけじゃないってこと」


 藤花は頬を染めている。

 そこまで恥ずかしいなら、手を触らなければいいのにと思う。


 二人は部屋の奥まで向かった。

 目的地近くにたどり着くと、そこには通常のパソコンよりも二回りほど大きい画面をした機械の箱が、テーブルの上に置かれてあったのだ。


「これがパソコンの本体?」

「ええ、そうよ」


 藤花がそう言うと、手首から手を離してくれる。彼女は夏央の右隣りに佇み、監視するように、パソコン画面と夏央を交互に見やっていた。


「それ以外の装置の方が大きくない? これで調べられるものなの?」

「調べられるわ。そのパソコン近くにあるキーボードを使って」

「これ?」

「ええ」


 巨大な装置に囲まれた環境下。椅子などないことから夏央は立ったまま、テーブルに置かれたキーボードを触り、正面の画面に文字を適当に入力してみた。


 市販で発売されているパソコンのように違和感なく表示される。しかも、ネットニュースサイトも普通に開けることから、なんでも調べられるらしい。


「じゃあ、さっさと、平民が調べたいものを検索したら?」

「そうするよ……」


 夏央はパソコンを操作しようとしたが、手を止めてしまう。


「どうしたのよ、平民?」

「いや、暑いなって思ってさ」

「暑い? そうかしら?」

「暑いって感じないのか?」

「ええ……もしかしたら装置のせいかもね」

「多分、そうかもな」

「でも、しょうがないわ。この部屋にある、そのパソコンの本体を動かすためには必要ですし、排除はできないわ」

「なんか、不便だな」

「しょうがないでしょ。そういう作りなんだから」


 藤花は腕組をして、ため息を吐いていた。


「あれ? そういえば、藤花って、パソコン苦手じゃなかった?」

「ええ、そうよ」

「だとしたら、よく今まで、このパソコンを壊さずに使えたよね」

「それは問題ないわ」

「え?」

「私、このパソコンだけは普通に問題なく使えますから」

「……変わってるな。このパソコン、市販のヤツより、操作が面倒だと思うんだけど」

「そうかしら? むしろ、私からしたら、市販のパソコンの方がジャンクに見えるわ」

「いや、それは言い過ぎだと思うよ」


 夏央はどうしようもなく苦笑いをして、その場を乗り切ろうとした。

 それにしても、装置に囲まれた空間だと、本当に暑い。


「えっとさ、脱いでもいいか」

「へ? ぬ、脱ぐ⁉ ば、馬鹿じゃないの、こんなところで、変な行為だなんて」

「え? 変な行為? どういうこと?」


 夏央は首を傾げた。


「はッ、も、もしかして、そっちじゃない?」

「そっちって?」

「そっちは、そっちの方って意味よ、馬鹿ッ、平民のくせに私をひっかけるなんて」

「い、いや、どういうことだよ。俺はひっかけてもいないし。えっと、そっちのそっちとは?」


 本当に意味不明。


「そっちのそっちは、そっちのそっちってことよッ」

「⁉」


 さらによくわからなくなった。

 もしや、藤花は混乱しているのか?


「いいからッ、今は調べたいものを調べてていいからッ」

「でも、暑いし」

「んん」


 彼女は頬を膨らまして怒っている。しかも、睨んでくるのだ。


「いや、いいです。やっぱり、服は着たままで」

「そういうんだったら、さ、最初っから服を着たままにしておきなさいよね。まったく、平民のくせに、変なことを言うんだから……服を脱ぐとか、エッチな方だと思ったじゃない」

「ん? 何?」

「何でもないからッ」

「い――ッ」


 夏央は彼女から頬を軽く引っ張られた。

 そこまで痛くないが、やめてほしい。


「平民? さっきの私の発言、聞いてないわよね?」

「き、聞いてないです……」

「じゃあ……いいわ」


 ようやく頬から手を離してくれた。

 本当に面倒な奴だと思う。


 それはそうと、夏央はパソコンの画面と向き合うことになった。

 一先ず、変態が集う闇サイトと関連する単語を入力し、検索する。


「……」

「どうかしら? 見つかった?」

「……」

「ねえ、どうなの? 私の発言を無視? 平民の分際で、生意気ね」

「違うって、集中してたんだよ。少し静かに」

「そ、そうなの? じゃあ、しょうがないわね……でも、急に静かになるのも、嫌ですし」

「意外と、寂しがり屋なのか?」

「――ッ、い、意外って、どういう意味です?」


 また、睨まれる。

 余計なことを言ってしまったと、夏央は思うのだった。


「……」


 あれ? 静かになった?

 というか、何もしてこないな。

 どうしたんだ?


 夏央は彼女の方へ視線を向けた。

 彼女は頬を赤らめ、俯いている。


 まさか……図星だったとか?

 夏央は気まずくなり、焦ってしまったことで、機転の利いた言葉を彼女にかけてあげられなかったのだ。


「そうよ。寂しいだけ……って、わ、私、何言ってんだろ。そんなことより、さっさとやれ。暑いんだったら、さっさと調べれば……いいじゃない……」


 彼女の声のトーンが次第に低くなっていく。

 夏央は再び、画面へと視線を向け、考え込む。


「次はこれで調べてみるか……」


 検索したサイトを開いてみると、画面上が少しずつ暗くなっていく。

 怪しい雰囲気が醸し出される。


「もしかして、このサイトが……闇サイト?」


 よくわからないが、カーソルを使って、サイトの下の方まで確認してみる。

 そのサイトには、変態の生態系について書き込まれていたのだ。

 学校のパソコンや、スマホでは調べることができなかった情報だと思う。


「というか、このパソコン、なんか凄いな。なんでも調べられるんだな」

「ええ。そうよ。ダークウェブも簡単に調べられるわ。でも、調べられるからといって、そこにはアクセスしないけどね。あとね、世界の政治家のアカウントも調べようと思えば可能よ」

「ヤバいな、それ」

「さっき言ったじゃない。このパソコンのことは誰にも言わないでって」


 そういうことかと思う。

 色々と恐ろしいパソコンだと、肌で痛感するのだった。


「それで? 無駄話をするようになったということは、見つかったのかしら?」

「まあ、一応は……あとは……ん? パスワード?」


 よくよく見てみると、サイトの右上のところにはパスワード入力する枠があった。


「パスワードか……知らないしな」

「そう。じゃあ、先に進めないってことよね?」

「そうだな。あーあ、あともう少しだったのに」

「残念だったわね。でも、また、来てもいいから」

「え?」

「だから、調べたかったら、私の家に来て良いってこと。でも、その時は、平民一人ね」

「なんで?」

「だって、キアラが来ると、私のお菓子がすぐになくなるからよ」

「南由は?」

「……ま、まあ、そこまでキアラのように……」


 藤花は口をもごもごさせながら、言いづらそうにしている。


「ま、まあ、別にいいわ。平民の妹くらいだったら」

「そっか、ありがとな」

「別に、平民から感謝されても嬉しくないですから……では、今日のところはここで終わりね。あとは、お菓子を食べに行きましょうか」

「そうだな」


 夏央がパソコンから離れると、藤花が装置をシャットダウンさせる。


 二人はまた、巨大な装置の横を通り、何とか部屋から出るのであった。


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