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第21話 私、妹のためなら、協力するよ? 全力でね…


 夏央は、絶望を感じていた。

 今、心苦しく、どうにもならない状況に、現状を受け入れず困惑していた。

 どうしたらいいのだろうか?

 妹の南由のことばかりが脳裏をよぎる。


 そもそも、南由を奪い去っていった人物――偽りの那百合先生は今までの変態とは格が違っていたのだ。

 ただの変態ではなく、実力もあったのである。


「……夏央?」

「いや、もう、終わったんだ……」


 室内にいる夏央は、背後に佇んでいる委員長に対し、ただ、そんなセリフを吐くことしかできなかった。

 何も手に入れることも、守り抜くこともできなかったのである。


 悔しさに襲われてしまった。

 こればかりは、深く考えてもどうにもできないのだろう。

 今は一旦、冷静さを保つ方が先かもしれない。


「えっと……大丈夫なんですかね?」


 委員長が職員室から連れてきた人物。その女性教師が現状確認のために二人へ問う。

 その女性教師は部外者であり、今、何が生じているのか、サッパリわかっていなかったのである。


「すいませんが、もう終わったことなので……先生は戻っても大丈夫ですから……」


 夏央は二人の方を向くと、先生に言った。


 これ以上は、学校とはほぼ関係のない事である。

 南由を連れ去った人物は、一応、学校関係者ではあったが、今は学校とは関係のない存在。


「あ……」


 夏央は言葉を漏らす。


「なに、夏央?」


 委員長が夏央に少しだけ近づき、慎重に伺うような問いかけを行う。


「……委員長にではないんだけど……先生?」

「わ、私ですか?」


 女性教師は突然のことに驚いていた。


「先生には、一つ調べておいてほしいことがありまして。那百合先生がいるかどうかについてなんですが」

「那百合先生? あ、はい……わかりましたけど。今の状況と那百合先生になんの関係が?」

「余計に話すと時間がかかるので。説明は省かせてください。一応、いるかどうかの確認をしてほしいので。そのことについては他の先生にも言っておいてください。多分、この学校にとっても重要なことなので」


 夏央は淡々とすべてを晒すように言った。


「わかったわ。今、どういったことが起こっているのか、よくわからないけど……あと、さっき、ヘリコプターの音が聞こえたんだけど。もしかして、それとも関係があるのかな?」


 女性教師は考え込むような仕草を見せ、聞いてくる。


「……はい」


 夏央は頷くだけで、それ以上、多くを語ることはしなかった。


「えっと。まあ、そういうことですね、先生」


 委員長は、夏央と女性教師の間に入り込むように話を進めていた。


「一応、そういうことにしておきますけど……あまり、変なことには首を突っ込まないようにね。私の方でも、学校周辺で起きたことは、他の教師と一緒に捜査しておくから。それでは気を付けて帰るのよ」


 と、女性教師が背を向け、室内を後に廊下を歩き始めていったのだ。


「先生ー、さっき、変なものがあって、ヘリとか、不審人物がいたんです」


 廊下の方で、さっきの女性教師が、誰かに話しかけられているようだった。

 先ほどの衝撃的なシーンを見かけた人が結構多数いるようだ。






「夏央? ……帰ろ?」

「う、うん……」


 夏央は頷いた。

 それしかできなかった。


 まだ、南由と最後にいた空間に留まっていたいという思いの方が強い。

 嫌だ……まだ、受け入れたくない……。

 南由がどこかへ連れ去られてしまったという情報を上書きしたかった。

 それほど、現実を受け入れたくなかったのだ。


「夏央? 大丈夫? 苦しいのはわかるけど。今は……」

「……わかってるさ……」


 夏央は苦しみの感情を抱きつつ、彼女に見えないところで、左拳を強く握ったのである。


「いつまでも居てもしょうがないから……」

「うん……」

「えっとね。私、協力するよ?」

「……何を?」


 夏央は問う。

 彼女が協力するにしても、多分、やれることはない。

 そう断言できたのだ。


「いいよ。これ以上、委員長には迷惑はかけられないし」

「私やるからッ、やっぱり、夏央の妹との関わりたいし」

「妹が目的?」

「そうじゃないから。まさか、そんなことはね……でも、夏央には結構手伝ってもらってるし。クラスの副委員長としてね。だから、その……手伝いたいっていうか。まあ、そういうこと」


 委員長は素直じゃない。

 けど、委員長が伝えたいところはしっかりとわかった。


「けど、どうなっても知らないよ?」

「じゃあ、一緒に協力してもいいの?」

「自己責任でね」

「ありがと、これで、妹と――」


 委員長は何かを一人で呟いていた。


 まあ、協力してくれるのなら、何かしらの即戦力になるだろう。

 多少の不安を感じつつ、委員長の好意を受け入れたのである。


「今日は帰ろうかな。それと、あのヘリコプターがどこへ向かったのかも調べないといけないし」


 委員長は隣で、頷いてくれた。そして――


「けど、どうやって調べるの?」

「それは――」


 夏央は言おうとしたが、それ以上のことを口にすることをとどまったのである。


「どうしたの?」

「いや……」


 言えなかったのは、藤花のことであるからだ。藤花の家にある軍事系のパソコンがある。それを使えば簡単に調べることは可能。

 けど、それを他人には言わないようにと、忠告されているのだ。


「調べるのは、俺の方でやるから。委員長は必要な時に協力してくれればいいよ」

「えー、それじゃあ。私の意味がないような気がするけど?」


 委員長はつまらなそうに息を吐く。


「私、もっと夏央のために何かをしたいのに……」


 今の委員長は夏央に同情している。

 数分前までは厳しい口調で言ってきたり、変態的な発言をしたりと、何かと情報量の多い言動が目立っていた。

 今の彼女は、委員長らしくないと思ってしまう。


 が、むしろ、普通の言動も見せるのだと、夏央は初めて委員長のことを知れたような気がしたのだ。






 二人は共に、昇降口で外履きに履き替えた後、学校を後にしたのである。

 通学路を歩いている際、二人は無言だった。


 夏央は委員長とこうして一緒に岐路につくのは、初めてだと思う。

 今までにはない経験に多少の戸惑いを感じていたのだ。


「ねえ……夏央? 今日――」


 委員長が何かを話し始めた頃合い。

 背後から車の音が聞こえてくる。

 委員長は話すのをやめ、二人は音のする方へと視線を向けた。


 その乗用車は、黒塗りである。

 もしやと思っていると、比較的後ろの方の窓が開き、そこから顔を出したのは、四野宮藤花だった。


「ねえ、二人が一緒に変えるなんて珍しいわね。帰るだけなら、乗せていくけど」


 と、藤花が話しかけてきたのである。


 これは唯一の希望かもしれない。

 そう思い、夏央は藤花のセリフを受け入れるように頷くのだった。


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