第17話 あの人はおかしいよ…もはや、S過ぎて怖い
今いるのは学校である。
副委員長としての業務を終え、夏央は自身の机の前で帰宅する準備を整えていた。
「これで、終わりでいいんですよね?」
「んー、どうしようかな……」
「悩むことってあるんですかね?」
「ちょっとね。だって、夏央って、私のこと、知っちゃったでしょ?」
夏央の前に佇む、クラス委員長の理香。
「……それは委員長が」
「でも、夏央は知ったわよね?」
「……はい……」
理香に圧倒され、しぶしぶと頷く夏央。
「それと、さっきの話だけど、闇サイトのこと、教えてくれてありがとね♡ 後で調べておくから」
「はい……」
夏央はあまりよろしくない返事を返した。
やはり、ズボンを下ろして、露出することなんてことはできなかった。だから、素直に闇サイトのことについて説明してしまったのである。
しょうがないというべきか。逆に下半身を露出した方がよかったのだろうか?
それは定かではないが、見せないという選択肢で間違いはなかったと思う。いや、そう思いたい。
夏央は自分なりに解釈した後、通学用のリュックを手にすると、それを背負った。
「ねえ、ちょっと待って」
突然、理香から引き留められる。
「え? どうしてですか?」
今から帰る気満々であった。
妹の由奈が待っているからだ。
余計に時間を奪われたくないのである。
「じゃあ、用事があるんで帰りますね」
「用事って何?」
「妹と一緒に帰る用事っていうか」
「そうなんだ。ねえ、その妹はどうなの?」
クラス委員長の理香は咄嗟に距離をつめてくるのだ。
「ねえ、どうなの?」
顔が怖い。
変態かどうかについて聞かれているのだが、その話し方が怖かった。
執拗な感じであり、変態ということに興味がありすぎる彼女から距離を取ってしまう。
「なに? どうして離れようとするの? 私は夏央の妹が変態かどうかについて聞いているんだけど?」
「へ、変態ではないと思うよ」
「そうなの?」
「う、うん……多分、委員長の期待には応えられないと思うけど」
「ふーん、そうなんだ」
委員長は一人で考え込んでいる。
「ね、じゃあ、妹と合わせてよ」
「え⁉」
そのセリフに嫌な予感しかしない。
夏央は引き気味に、嫌な顔をしてしまう。
「なに、ダメなの? もしかして、隠し事があるから、関わらせたくないだけなんでしょ?」
「ち、違うよ……」
委員長とは関わらせたくない。
南由が、こんなS寄りの理香と接点を持ってしまったら、変な性癖を押し付けられ、色々と毒されそうで嫌だった。
「まあ、兎に角、今日はさ。急ぐから」
夏央は咄嗟に背を向け、勢いよく教室を後にしようとした。
「ダメッ、通せんぼするし」
「なんで、そんなに……だったら、前の方の扉から」
「ダメッ」
サッと、素早い凄きで教壇近くの扉も塞いでくるのだ。
出口があるのに、出られない状況に陥っていた。
なんで、出させてくれないんだよ。
夏央は内心で思う。
どうしようもならない状況に、焦る。
ここで足止めされたくないという思いが募っていく。
「私も連れて行ってよ。いいでしょ? お願い、夏央の妹に会いたいの♡」
彼女はニヤニヤして、息を荒くしている。
確実に、毒牙に侵そうとする表情だ。
これは不味い……。
どうにかして、上手い事、教室を出ないといけない。
悩みこんでいても拉致があかないというのもわかっている。
正面を見れば、出入り口を塞ぐように佇む彼女が距離をつめてくるのだ。
「ねえ、私に妹を――」
「えっと、あッ、そうだ。あっちの方に、妹のパンツが」
「え? ど、どこ、どこにあるの?」
夏央の言葉に強く反応する。夏央が指さす先へと彼女は視線を向け、そちらの方へと激しく近づいていく。
「どこなの?」
委員長のことだ。パンツとか、変態な言葉に反応すると思っていたが、ここまで効果的とは。
上手い事、脱出ができそうだ。
教室の出入り口には、道を塞ぐものなんてない。
脱出を試みようとする。
リュックを背負った状態で廊下に出た。
「え、ちょっと、もしかして、嘘? ねえ、夏央? もしや、妹のパンツがあるってのは嘘なの?」
「あ、あるわけないでしょ。普通に考えて」
夏央は好戦的に言った。
そもそも、妹のパンツがそこらへんにあったのなら、おかしい。
パンツには飛ぶ能力もないからだ。
けど、多少の時間稼ぎができた感じであり、廊下にいる夏央は咄嗟に、走る。
一年生がいる教室へと急いで向かい、南由との接触を試みようとした。
「待って、夏央。私に――」
え⁉
ふと、背後を振り向けば、勢いよく迫ってくる委員長の姿があった。
何が何でも妹と接触を図りたいのだろう。
もはや、妖怪のように思えてきた。
おかしいよ、あの人は。
夏央は一年生の教室まで走った。
そこに到着するなり、教室内をチラッと確認する。
しかし、南由の姿はない。
「待ってよ、夏央ー」
委員長の勢いは止まることを知らない。
さらに距離をつめてくる。
南由が教室にいないのなら、別のところへ移動するしかない。
「んッ」
再び走ろうとするが、夏央は転びそうになった。
ちょっと、待ってて……こんな時にさ。
態勢が崩れ、立ち直せない。
夏央はそのまま廊下に転んでしまった。
そして――
悲劇は起きた。
「夏央、捕まえたから。はあー、はああー……、私から逃げるなんて、いい度胸してるじゃない。調教した方がよさそうね♡」
委員長の理香は、息を切らしつつ、廊下で仰向けになっている夏央の体に騎乗するような態勢で覆いかぶさっている。
「もしかして、私の涎だけじゃ。嫌なの? もっと色々な液体を飲ませたら、従ってくれる?」
「そ、そういう問題じゃないよ」
というか、なんで今日に限って、誰も廊下にいないんだよ、と思う。
普段なら先生くらい居るはずだ。
今日はエッチなやり取りや放課後の掃除があったから、少々帰宅するのが遅くなってしまった。
それが原因なのかもしれない。
あともう少し早ければ、誰かは居たかもしれないと考えると、心苦しくなった。
「ねえ、私のどこの液体飲みたい? 母乳? それとも、マ●汁の方?」
「い、いや」
「もしかして、あっち系の液体?」
「そういう意味じゃないよ」
助けてほしい。
夏央は強く念じた。
刹那、何か音がする。
僅かだが、遠くの部屋から南由の声が聞こえたような気がしたのだ。
「じゃあ、服を脱ぐから」
「いや、いいから。じゃなくてさ、それより、南由が近くの部屋にいるんだ」
「近くに?」
「うん。南由の声が聞こえたんだ。だから、俺と一緒に来れば、関わらせてあげるから」
「本当? 嘘じゃない?」
「ああ」
夏央はハッキリと言い切った。
「まあ、いいわ」
委員長はその場に立ち上がる。ようやく夏央も解放された感じになり。廊下で仰向けになっていた夏央も、態勢を整えるように立ち上がった。
「で、どこにいるのかな?」
嬉しそうな口調の理香。
「こっちだと思うよ。来てよ……」
南由とは関わらせたくなかったが、仕方なく理香を、声のする方へと導いてあげるのだった。




