第16話 ねえ、私のエッチな液、舌で舐めてみる?
変態である。
まさしく、それは疑いようがないほどに、今、夏央の瞳に映る彼女は変態だった。
窓ガラスに背を向けていた夏央は逃げるように横へ移動する。
なんて声をかけてあげればいいのか不明であり、誰もいない教室。ただ、変な空気だけが漂っている感じだった。
委員長も変態……だと……⁉
そんなのってないだろ。
さすがに学校関係者には、変態はいないと思い込んでいた。
けど、現に夏央の正面に存在しているのだ。
クラス委員長の理香は、ゆっくりと夏央に近づいてくる。息を少し荒らげている感じであり、隠れヘンタイであることが伺える。
「ねえ、どうして、私から距離を取ろうとするの?」
「だって、急だったからさ」
「急? そうね……私は今まで隠してたわ。変態だってことをね。でも、あまり知られたくなかったの」
「ど、どうして?」
「どうしてって、それは皆にバレたら、委員長としての威厳がなくなっちゃうじゃない」
「そうなのか?」
「そうよ。だからね、二人っきりになった今ね。本音を晒したの。私、夏央になら、本当のことを言ってもいいような気がしたの」
「どういう理由で?」
「だって。夏央って、あまり他人に言わなそうじゃない」
「そうか? 俺って、そう思われているのか?」
「ええ」
理香は興奮気にさらに息を荒くし、自身の指先を舐めていた。
そんな彼女は、涎で濡れ切った指を夏央の方へ見せつけてくる。
「な、なに?」
「舐めてもいいよ」
「え……⁉」
最初、彼女の言っていることがよくわからなかった。
けど、冷静になってよくわかる。
彼女が今まで出会ってきた変態よりも狂っているのだと。
夏央は距離するかのように、理香から遠ざかろうとした。
「ねえ、どうして私から離れるの?」
「お、俺は、掃除があるんで」
「そういって、どうせ、やりたくないんでしょ?」
「んッ……ど、どうしてそれを?」
「私わかってたし。表情的になんとなくね」
「……」
図星を突かれてしまい、言い返しづらい。
「無言になるってことは、そうだってことでしょ? ね?」
いつもよりも口調が柔らかい感じである。
本当に、あの面倒で横暴な態度を見せる委員長なのかと疑いたくなるレベルだ。
むしろ、怖い。
何かされるのではないかという恐怖心と葛藤し、夏央は後ろの扉から教室を出ようとする。
「ダメ、こっちからは出させないし」
急に夏央の前に立ち塞がるように、教室の出入り口前で佇む。
理香はエッチな顔を浮かべ、再び自身の濡れた指を舐め始める。
「はい、新しい私の唾液」
「いいから、俺は忙しいんだ」
「掃除が?」
「あ、ああ」
夏央はハッキリと言い切った。
「真面目そうなこと言っても、さっき逃げようとしてたじゃん? どうせ、掃除をサボりたいんでしょ?」
「い、いや……」
「いやって何? 逃げようとしてたでしょって? だったら、まずは私の指を舐めてよ、ねえ」
理香は近づいてくる。
そして、涎で濡れた指で、夏央の頬を突くのだ。
汚い……。
むしろ、よく平然とした態度で、自身の性癖をぶつけられると思う。
やっぱり、変だよ……委員長はさ。
というか、さっきまでの威厳の良かった委員長は、どこに行ったのだろうか?
本当にキツい。
涎まみれの指先で頬を触られるし。
威圧的な委員長の方が、マシだったと、今になって思う。
本音で言えば、どっちの委員長も嫌だった。
もう、帰りたい。
南由と一緒に、平凡に自宅に帰りたいと、心の奥底で強く感じるのだった。
「じゃあ、ついでに、私の指も舐めて、お願い」
「……」
「ねえ、舐めてよ。私の体にある液体を飲んで♡」
彼女は夏央の頬に押し付けた指を口元へと向かわせていた。
あと、数センチほどで、理香の涎まみれの指が口内に入ってしまう。
い、嫌だ。
できるなら、南由の方がいいと強く念じたが、もう遅い。
「んん――ッ」
「これで、私の液体が入ったね。じゃあ、私に従って」
「んん――ッ⁉」
夏央の口には理香の指が強引に入っている。
指で口を塞がられ、うまく会話できない。
こんなところを誰かに見られてしまったら、色々な意味で危ない。
「んん――ッ」
「なに? ハッキリと言わないとわからないよ?」
「……」
口をまともに使えないのに、意見を言えるわけがない。
あまりにもやり方が強引すぎる。
委員長はS寄りの性格をしているらしい。
確実に意見に従わせようとするところは、委員長らしいと思った。
「ねえ、夏央は変態なの?」
委員長は口から指を離してくれた。
「お、俺は別に」
「変態でしょ?」
「いや……」
「じゃあ、なんの変態?」
「というか、なんで変態という前提なの?」
「だって、夏央って、私が高圧的な発言をしても、素直に言うことを聞いてくれてたじゃない」
「そ、それは……俺が副委員長だからで……」
そもそも、副委員長じゃなかったら、絶対に委員長とは関わらないと思う。
「それだけ?」
「あ、ああ」
夏央は頷いた。
「へえ、私の意見に従っていたし、Mか、なんかかと思ってたわ」
「違うから」
「じゃあ、ドMってことね」
彼女は納得したように頷いていた。
「いや、ドMじゃないし、というか、Mから格上げされてるじゃんか」
「ドMでもないの?」
「そうだよ。俺は普通だよ」
「そう? 私からしたら、普通には見えないけどね」
「いや、普通に見えるだろ」
「……」
委員長は急に静かになった。
「ど、どうした?」
「なんでもないわ。ただ、夏央の下半身を見てただけよ」
「み、見るなって」
夏央は咄嗟に両手で下半身を隠す。
「なんか、勃起してなかった?」
「し、してないッ」
「してない? でも、大きさ的に――」
「いいから、そういうのは、本当にやめてくれ」
「つまんないの」
委員長はまた自身の指を舐めていた。
本当にどうなってんだと思う。
夏央は今、悩んでいることがあった。
それは、委員長が闇サイトを知っているかどうかである。
知っているのであれば、確実に、南由のマ●コを狙っていることになるからだ。
夏央はジーッと理香の様子を伺う。
「変態」
「は⁉」
「だって、私のこと、じろじろと見て、エッチな妄想でもしてたんでしょ?」
「してないよ……話は変わるけどさ。委員長は闇サイトって知ってますかね?」
「闇サイト? 何それ?」
「知らないということですか?」
「ええ……でも、興味があるかも。どんなサイトなの?」
「し、知らない方がいいよ」
夏央はすぐさま拒否した。
余計に話すと面倒になると思ったからだ。
「じゃあ、夏央は闇サイトについて言うか。チ●コを露出するの。どっちがいい?」
「⁉」
「ねえ、どっち?」
「なんで、その二択なんだ」
「だって、闇サイトのことについて知りたいし。それに、下半身を隠すくらいだし、チ●コを見せたくなかったら闇サイトのことを言うと思ってね」
「う……」
やっぱり、厄介な奴だと思った。
さすがに下半身のアレを見せるわけにはいかない。
けど、そうも言っていられないだろう。
そして、夏央は――




