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第13話 お、俺はへ、変態じゃない‼ それに怪しくもないッ‼


 外の明かりだけで照らされた妹の部屋。

 薄暗い環境だが、誰がどこにいるかは、なんとなくわかる。


「だ、だれ……」


 という、セリフが、夏央の口から洩れた。

 妹の部屋には、女性の下着だけを身に纏う変質者が佇んでいたからである。


 衝撃的過ぎて、それ以外の言葉を発することができなかった。

 背後にいる南由も、自分の部屋に変質者がいることに困惑している様子。


 そもそも、どんな手段で侵入したのだろうか?

 本当に意味不明である。

 二人が驚いていると、妹の部屋にいた不審人物の仕草が次第に挙動不審になっていく。


「……えっと、誰……ですかね?」


 夏央は脳内での処理が追い付かなくなり、逆に冷静に対応し始める。


「……⁉」


 女性用の下着を身に纏う不審者も冷静さを取り戻し、南由のタンスから距離を取り、後ずさっていた。


「ちょっと、待てよ。君はどうして、ここにいるんだよ。どうやって入った?」


 夏央は妹の下着を手にしたまま逃げ出そうとする、不審人物を引き留めようとする。

 捕まえ、警察につき渡す目的もあった。


「そ、そんなのどうだって……」


 暗くてわからないものの、声質的に男性。しかも、若い声であり、おおよそ、二十代か、はたまた夏央と同世代のようにも思える。


「いや、に、逃げんなよ」


 夏央は妹の部屋に入り、割られた窓ガラスから逃げようとしていた。

 もしや、窓から……でも、ここ、二階だぞ?


 普通に考えればおかしいことだ。

 ある程度の身体能力がなければ、上ってはこられないだろう。


「に、逃げてないし」

「いや、今、窓の方に向かおうとしてただろ」

「それは、お前が部屋に入ってきたからで」

「は? ここの部屋は南由の部屋なんだけど?」

「だから?」

「……他人の家ってわかってるの?」

「……女の子の下着がある場所は、俺の敷地内みたいなものだ。だから、不法侵入じゃないし、俺は他人の敷地に入ってる実感もないけどな」


 その不審者は、色々と支離滅裂でめちゃくちゃな発言をしている。

 頭がどうにかなってそうだ。

 不法侵入している時点で、まともな奴ではないことは明白。

 そう断言できるほどだ。


 夏央は、どうにかして捕まえたかった。

 また、今回のように南由の部屋に入ってこられても怖いからだ。


「君は……」


 夏央はふと思う。

 もしや、変態だとすれば、闇サイトを見て不審者になった可能性だってある。何かしらの情報を握ってそうだと思い、そのことを話題にした。


「君はさ、闇サイトに感化されて、この部屋に来たのか?」

「は? 闇、サイト?」

「ああ、変態が集うサイトというべきか」

「……なんだそれ……けど、そんな名前、どっかで聞いたことはあるような」


 変質者の動きが鈍くなった。


「そんなことを聞いてどうするつもりだ?」

「……俺、知りたかったんだ。そのサイトについてさ」

「サイトについて知る? 俺は何も知らないし、何も言えないが? なんだよ、そのサイト。変態が集うサイトってことは、変態らがネット上でやり取りをしているのか?」

「そこまでは俺も知らないけど。でも、君が知らないってことは、ただの変態なのか?」

「へ、変態じゃないッ、俺はトレジャーハンターだッ‼ 女の子の下着という名の秘宝を手にするためのハンターなんだよ。そこら辺の変態と一緒にしないでくれ」

「……恰好つけて言ってるけど。それ、相当ヤバい発言だからな」


 夏央も引き美味だった。


「あの……お兄さん。早く捕まえて」


 扉の方から小さく、怯えた口調で言う南由の姿があった。


「はッ、そ、そうだったな」


 夏央は変態と出会い。変態は皆、闇サイトに精通していると思い、深く話し込んでしまっていたのだ。

 危ない。本当の目的を忘れるところだった。


「というか、俺はここで」

「ちょっと待てッ」


 夏央は、逃げ出そうとする変態の手を掴もうとするものの、丁度よく足を滑らせ、尻餅をついてしまう。

 何かの布のようなものを踏んづけてしまった感触があった。


「い、イテテテ……な、なんだよ……」


 夏央が確認のために、布のようなものを拾い上げる。


「……布? ……って、これ、南由のパンツ⁉」


 南由のおっぱいはデカく魅力的。パンツは大人びた仕様であり、妹の下着なのに、鼻息が荒くなってしまう。


「な、なにしてるんですか、お兄さん⁉」

「あ、ごめん。そういうつもりじゃなくて。不可抗力で、床に落ちてたんだ」


 変態が妹のタンスを荒らしまくったことで、下着の類が床に散乱しているのである。


「私のパンツもそうですけど……それより警察ですよね」

「そ、そうだな……スマホは――って⁉」


 今頃になって気づく。


 夏央は、南由と同様、衣服を身に着けていないことに。

 ゆえに、スマホを入れるポケットさえもなく、警察に通報するための手段を持ち合わせていないのだ。


「ど、どうするんですか⁉」

「そ、それは、その、スマホを取りに戻る……そんな時間もないか」


 夏央は慌てまくる。

 一応、床から立ち上がり、辺りを見渡す。


 変態は、部屋の外に設置されたベランダに出ているのだ。

 不審者はそこからジャンプでもすれば、容易に逃げられるだろう。


「おい、待てって。だからさ」

「ふッ、待てと言われて、待つトレジャーハンターなどいないさ。必要なものはすべて手に入ったことだ。逃げるに決まっているだろ」


 ベランダの壁に足を上げようとした直後、夏央が強引に変態の腰の部分を触る。


「んッ、な、なにを、す、するッ」


 急に触られたことで、変態はくすぐったいようで変な声を出す。

 油断した今、夏央は変態をもう一度、妹の部屋へと引きずり込んだのである。


 南由には申し訳ないが、しょうがない。

 許してくれ。

 と、内心、強く思った。


「それよりさ、南由。スマホで警察に」

「は、はい、わ、わかりましたッ」


 全裸姿の南由はスマホがあるところまで走って移動していた。






「それで、覚悟はできてるんだろうな」

「……いや、それより、俺のコレクションを」

「これ、私のなんですけど」


 自宅内の夏央の部屋。

 夏央と南由は、パジャマで裸体を隠している。


 二人の視線の先には、紐で体を縛り付けられた女性用の下着を身に纏う変態が正座をしていた。

 未だに、盗んだ下着を自分のものだと言い張る始末だ。


「それに、これ……私のお気に入りだったのに」


 南由は悲しげに言う。


 そんな妹の姿は見たくない。

 だから、夏央は、その変態をさらに強く睨んだ。


「お、俺は悪くない。そこに下着があるのが悪いんだよ」

「君、意味不明な発言はやめた方がいいよ」

「そ、そうです。私の下着を盗むなんて……お兄さんにだったらいいですけど」

「ん? なんて?」

「きゃあ、な、なんでもないです……本当にッ」

「んッ」


 夏央は妹から頬を叩かれてしまう。

 痛い……。


 それから十分後、自宅に警察官の方々が駆けつけてきたのであった。


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