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第12話 お兄さん…私、あのね…


 ヤってしまった――


 その上、出してしまった。ゆえに、どうすることもできないのだ。

 神頼みするしかない。

 それと、自分の愚かさを悔いるしかないだろう。


「私は、よかったよ……♡」


 ベッドで仰向けになっている全裸姿の妹は、笑みを見せている。

 この緊急事態がわかっているのだろうか?

 避妊具のコ●ドームすら付けずに、行為に及んでしまったのだ。後々の処理に追われてしまうかもしれない。


 妹と同様に全裸姿の夏央は、一旦、自身のアレを妹の中から取り出す。南由の足元近くで正座したまま、呆然としてしまう。


 体から魂が抜け落ちてしまったかのように――

 終わったという、消失感。

 これからどうすべきだろうか?

 はああー、とため息を吐き、心を現実に引き戻そうとするのだ。


「お兄さん……?」


 全裸姿の南由からの問いかけ。

 彼女は兄である夏央のことを心配しているようで、ベッド上で正座するなり、頬を紅葉させつつ、見つめてくるのだ。


「だ、大丈夫だよ……きっと……」


 南由の話し方的に、事の重要性は何となくは理解しているように思えた。


「だといいな……」


 本当に、何事もあってほしくない。

 嫌な未来風景から視線を逸らすように、脳内を一掃する。


 夏央は右手で頬を叩いた。

 痛い……。


「な、何をしてるの、お兄さん‼」

「いや、すべて、俺が悪かったんだ……すべてな」

「そんなことないですから。私が最初にやろうって……誘ったのは、私ですから」


 南由はたどたどしい言葉を口から漏らす。

 妹は泣きそうな瞳をしている。

 苦しがっている兄の姿を見て、共感しているのだろう。


「悪いのは私なんです。叩くのなら……私にしてくださいッ」


 普段はそこまで声を荒らげることのない妹からのハッキリとしたセリフ。

 夏央は驚きつつ、一旦、深呼吸をした。


「そんなこと、できるわけないだろ」


 夏央は南由の涙で汚れた瞳を見、ベッド上で向き合う。


「でも、そんな、お兄さんの姿を見たくないので。ごめんなさい。私の自分勝手な想いをぶつけてしまって」


 全裸姿の妹は本当に泣き出してしまった。

 先ほどのような瞳を滲ませるような泣き方ではない。

 本気で鳴き声を出し、体を軽く震わせながら泣いているのだ。


「……」


 夏央は妹の泣き顔を見たくなく、顔を背けてしまう。


 こんなの……。

 泣いている南由を見たくて、行為に及んだわけじゃない。

 妹の想いに応えたかったから体を重ねたのである。


「お兄さんは、私のこと嫌いですか?」

「え……」


 夏央は体を硬直させた。


「いや、嫌いなわけないだろ」

「でしたら……今の行為は正解だったと思います……」


 南由の声は次第に小さくなっていく。


「正解? なんで?」

「そういう行為って、好きだからやるんですよね?」

「……そうだけど。俺ら兄妹だぞ? わ、分かってるよな?」

「わかってます。だから……その……」

「なに……?」

「な、なんでもない……ですなら」


 南由は何かを隠すように大人しくなる。


「言いたいことがあるなら、別に言ってもいいよ?」

「……」


 南由は俯き、黙りこくってしまう。


「いいです……本当は言わなくても察してほしかったんですけど」

「ん?」

「いいですからッ、お兄さんなんかッ」

「ど、どうした⁉」


 意味が分からない。

 夏央の脳内が混乱する。


 視界に映る南由は顔を背け、頬を膨らませていた。

 一体、どういうことなんだ?

 考え込むものの、ヒントがないため、サッパリだった。


「お兄さん……わからない?」

「ごめん……本当に。だったら、ヒントは?」

「そんなの、ないですからッ」


 不機嫌さを体全部で表す南由。

 どうしたものかと悩んでいると――


 ドンッ、バン……ガシャ……。


「ん⁉」

「きゃああッ」


 夏央と南由は肩をビクつかせ、背筋が凍りついてしまうように硬直した。


 現在、夜の十一時頃。

 大半の人らが寝静まった時間帯。

 急に、物音が聞こえたら怖い。

 しかも、隣の家とかではなく、すぐ近くなのである。

 多分、自宅二階のどこかの部屋。


「……お、お兄さん? さっきの音って」

「さ、さああ?」


 先ほどまで怒り気味だった妹の表情は次第に強張っていき。そして、全裸のまま、抱き着かれた。

 南由のKカップが、夏央の胸に強く押しけられる。


 互いに服を身に着けていないこともあり、直に感じると、おっぱいの膨らみがハッキリと伝わってくるのだ。


 な、南由の……おっぱい⁉

 まさか、南由は今抱き付いていることをわかっているのか?

 夏央の心臓ははち切れそうだった。


「な、南由……?」

「お、お兄さん……こ、このままでいさせて……」

「……」


 わかっているのか?

 わかっていて、抱き付いていると……。


 まさか、ある程度の恋愛感情があるということなのか?

 さっきの態度は、そんな想いを伝えようとして、理解されなかったら、怒っていたのだろうか?


「……」

「……」


 無言の中。夏央は優しく抱きしめ返してあげ、妹の頭を撫でるように触る。


「……お、お兄さんの……手――」


 南由はゆっくりと落ち着きを取り戻していくのだった。






「それで、ど、どうする?」

「お兄さんに……任せます。でも、嫌な予感がするので、確かめた方がいいかと……」

「だ、だよな」


 行くのか。

 行けばいいのだろうか?


 夏央は迷う。

 こんな真夜中に近い時間帯に、誰かが不法侵入か?

 いや、そんな嫌なことは考えたくない。


 多分、何かが落ちてきたり、倒れてきたりとか、そういうのであってほしいと強く思う。


「……い、行ってくるよ」


 夏央は妹から距離を取り、ベッドから立ち上がる。

 そして、自室の扉を開け、二階の廊下に出たのだ。


「……どっちの方だろ」


 左右を確認した。

 左の方に行けば、二階専用の物置と階段がある。

 右の方に行けば、両親や妹の部屋があるのだ。


 嫌な音は、右側の方から聞こえたはず。

 夏央は、変な意味で心臓をバクバクさせながら、足音を立てずに向かおうとする。


「あ……そういや、南由はどうする? い、一緒に来るか?」


 念のために聞いておく。


「い、いいです……で、でも、早く、帰ってきてくださいね」

「もしかしたら、時間かかるかもしれないけど」

「んッ、じゃ、じゃあ、一緒に行きますッ」


 ベッドの上で縮こまっていた妹は立ち上がる。廊下までやってきたのだ。


「お兄さん、一緒に、い、行きましょう」

「あ、ああ……」


 ヤバいって……。

 南由のおっぱいが背中に強く押し当てられる。

 恐怖心と、エッチな気分の両方に今、板挟みにされている感じだった。


 服を着ていない背に、おっぱいを感じつつ、先へと進む。


 そして――

 ガタン――、バタン……ドン、ドン――……ドタン……。


 近づいていくにつれ、物音が強くなっていく。

 それに、足音まで聞こえるのだ。


 床にくっつけた状態で、すり足で歩いている二人の足音とは確実に違う。

 なんせ、その足音は、焦りながら早歩きしている音だからだ。


「お、お兄さん?」

「しッ、南由、静かに」


 大人しくするように指示を出す。


「……」


 夏央は耳を、扉に近づけた。

 音がするのは、南由の部屋からである。


 多分、ここに――

 夏央は怖かったが、妹を助けるため、真実を知るためにも思いっきり扉を開けた。


「――⁉」


 夏央、南由は、その室内の光景に衝撃を受けた。


 妹の部屋には、不審者の男性が佇んでいたからだ。

 しかも、その不審者は、女性用の下着だけを身に纏った、ガチの下着泥棒系の変態であった。


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