第10話 南由の過去 / 妹の体に何もなければいいんだけど…
「お兄さん? お菓子、美味しかったですね」
「そうだな……」
妹の隣を歩き、岐路につく夏央は戸惑いがちに頷いた。
本当のことを言えば、殆ど何も食っていないのが正しい。
藤花と一緒にパソコンがあるところから、大きなリビングに戻った頃には、最初、沢山あったお菓子は一割くらいしか残っていなかったからだ。
本当に、キアラには困ったものだと思う。
できる事なら、藤花の家のお菓子を食べてみたかった。
残念な気分になる。
「あの果物とかもよかったんですよ」
妹の南由は楽し気に話してくれる。
キアラと一緒にお菓子を食べていたらしいが、キアラのように暴飲暴食していたわけではなかった。
でも、南由が嬉しそうな笑みを見せてくれるだけでいい。
この頃、嫌な経験の方が多かったのだ。
結果として、南由が元気になってくれれば、今のところ、なんでもよくなってきたのである。
そんなこんなで、気づけば、自宅近くまで辿り着いていた。
「そういえば、お兄さんは夕食何にしますか?」
「ん? 夕食? いや、さっき食べてきたばかりじゃないか?」
「そうなんですけど……お菓子とご飯は違うというか。別腹なんです」
「そんなのない言って」
「んん、お兄さんのケチ。なんで、そういうことを言うのかなぁ」
南由からそっぽを向かれてしまう。
これはよくない傾向だ。
「ご、ごめん……さっきの発言は無しだ。なんでもなかったんだよ。本当なんだ、冗談というか、そういう感じというか」
夏央は焦った感じに、誤解を解こうと必死だった。
やはり、実妹である南由から距離を置かれるのは、色々と困る。
今後、どんな変態が、南由を襲ってくるのかわからないのだ。
ある程度の距離感がないと、いざという時、南由を助けることができない。
「ふふふ、そんなのわかってますから」
「え? 本当に、許してくれるのか?」
「はい、私もちょっとだけ、お兄さんに仕返ししただけです」
そういう南由は、指先で夏央の頬を軽くつつくように触る。
「これで、仕返し成功ってことで、この話は終わりですから」
南由はやるべきことをやった感じに背を見せ、軽く走って、自宅の敷地内へと向かっていくのだった。
南由の奴……。おちょくられただけかよ……。
夏央はため息を吐きつつも笑みを見せた。
実妹のことは好きだ。
恋愛的な意味ではない。兄妹として、好きだった。
けど、この頃、南由の仕草を見るだけで、なぜか、ドキッとするのだ。
「……この感情って……まさかな。そんな感情じゃないよな」
夏央は自身の胸に手を当て、今、心に感じている、その想いを確認していた。
ないな……。
多分、妹が変態に絡まれないかで、ドキッとしただけだろうと、夏央は結論付けたのだった。
夏央も妹を追いかけるように、自宅へと向かうのである。
「ただいま」
夏央は玄関の扉を開けた。
すると、玄関先で靴を脱ぎ終わった妹とバッタリと視線が合う。
「私、今日ご飯を作りますから。お兄さんはゆっくりとしていてくださいねッ」
南由からの優しいセリフ。
妹は昔と比べて、元気になった方だと思う。
夏央はそう感じたのだ。
その間に、南由はキッチンの方へと姿を消していた。
「……」
玄関で靴を脱いだ夏央は昔のことについて考え込んでいた。
南由は昔、病気がちだったからだ。
小学生の頃から何かをする度に体調を崩し、病院送りになることがしばしば。
そもそも、生まれつき、体が弱かった。
だから、両親が仕事で忙しい時は、付き切りで看病をしていたこともあるほどだ。
あの頃と比べ、肉付きが良くなった方だと思う。
「……おっぱいだけじゃなくて……太腿も……んッ、な、何考えてるんだ、俺はッ」
夏央は一度、咳払いをして、正気を取り戻そうとした。
なぜ、血の繋がった妹に対して、エロい目を向けてしまうのだろうか?
そこまで意識しているわけじゃない。
なのに……。
夏央は自身の右手で、自分の右頬を強く叩いた。
「痛ッ……」
痛いのは明白。
南由に対する、嫌らしい感情をたたき直したのだ。
「お兄さん? どうしたんですか?」
キッチンの入口からエプロン姿の妹が顔を出す。
「え、いや、なんでもないよ。うん、なんでもね」
「でしたらいいですけど。この頃、大変なことが多かったので、ゆっくりしてもいいですからね」
「ああ……ありがとな」
夏央は妹の親切心に頼ろうと思った。
今は体を休めた方がいいのだろう。
多分、妹に対して、エッチな想いを抱いてしまうのは、この頃、変態ばかりに絡まれることが多かったからだと思った。
リビングへと向かう夏央。
そこのソファに腰を下ろし、疲れをとるように、大きなため息を吐いたのだ。
そういやと思う。
南由が中学生になってからも、体調を崩すことが多かったということだ。
妹が小学五年生の頃、体の弱さは改善されたはずだった。
そう……はずだったのだ。
けど、南由が中学二年生になった頃合い。
多分、五月だった気がする。
そこから夏休みの終わりになるまで、謎の病気に侵され、南由は病院での生活を余儀なくされたのだ。
夏央は当時、中学三年生。同じ学校だったこともあり。毎日のように、その病院に通い詰めたのである。
南由が病院に入院してから一か月後の六月辺り。
妹の胸が大きくなり始めたのである。
元々、南由のおっぱいは、Aカップという、相当控えめな膨らみ具合だった。
だがしかし、その膨らむ速度は尋常じゃなかったのだ。
病院の医者なども意味が分からないといった感じ首を傾げていた。
病院で生活し、謎の病気の治療期間中に、AからEカップへ成長したのである。
Eカップらは、さすがに大きくはならなかった。
病院の医者も、多分成長期だろうということで、そこまで気にしなくなっていたのだ。
南由自身も、おっぱいの大きさについては気にする様子はなかった。
治療が終わって、病院から解放されたという達成感の方が強かったのだろう。
それからというもの、南由は病気になることはなかった。
夏央もそれだけで嬉しかったと、高校生二年生になった今でも、昨日のように振り返ってしまうほどだ。
南由が病気でなければいい。
今では、南由のおっぱいは、確か……K……カップだったかな?
この前の身体検査の診断結果の用紙をこっそりと見てしまったのだ。二度見、いや、三度見したことで鮮明に覚えている。確か、おっぱいの大きさはKカップで間違いないだろう。もしかしたら、また成長しているかもしれない。
南由のおっぱいの成長は早いと思う。
このまま大人になったら、どれだけ大きくなるのだろうか?
色々な意味で不安になってきたのである。
そして、同時に、夏央の下半身も反応し始めてきたのであった。
「お兄さん? ご飯が出来ましたよ」
「え、ああ、そうか」
夏央は過去を振り返るのをやめ、キッチンの方から向かってきた妹へ視線を向けた。
そこにいる南由は、トレーの上に野菜マシマシのみそ汁を乗せ、持ってきたのだ。
「お兄さん。これが今日の夕ご飯ですからね」
「夕ご飯か? というか、まだ、夜の六時少し前だけど?」
「いいんです。早く食べて、学校の課題とか色々とやってしまいましょう」
「そ、そうだな」
南由は、ソファ前にあるテーブルに野菜マシマシのみそ汁を二つ置く。そして、妹は夏央の右隣に腰を下ろしたのだ。
南由の得意料理の一つ――野菜マシマシのみそ汁。もはや、みそ汁というよりも、とあるラーメン屋の具材のようである。
「いただきます」
南由は元気よく、明るく言う。
夏央も“いただきます”と言い、テーブルに置かれた料理を一緒に食べることにした。
味は普通に美味しい。
問題なく食べられる。
だがしかし、量が尋常じゃないくらい多い。それが最大の欠点だ。
南由はどうして、ここまでの量を体に入れても太らないのだろうか?
疑問を抱きつつ、夏央はみそ汁の器を持ちながら、横目で妹の豊満なおっぱいを見た。
もしかして……やっぱり、おっぱいにいってるのか。
――と、内心、思うのだった。




