第1話 おっぱいがあるところに事件はつきものである
おっぱいはデカい。
だが、妹の魅力はそれだけではなかった。
噂によれば、マ●コのシマリも良いとされているのだ。
それは単なる噂なのか?
噂を広げるということは、それを経験した人がいるということなのだろうか?
確証は持てないが、その妹の兄である日月夏央は日々悩み続けていた。
そんな中、今まさに面倒な事態に直面している。
夏央の視界の先で、実妹の南由が困っているのだ。
夏央は平凡な生活を維持して、楽に過ごしたいだけ。
だが、唯一の肉親である妹を放ってはおけるわけもなく。
助けられるのか……。
いや、助けないといけない。
夏央は内心強く思った。
やはり、南由は大切な存在だ。
単なる兄妹の関係。
恋愛感情を抱いたことはないものの、南由が悲しむ姿は見たくなかった。
夏央は南由がいる場所へと駆け寄る。
そして、妹を苦しめている存在へと睨むような視線を向けたのだ。
夏央と南由。そして、妹をつけ狙う変質者みたいな存在。その三人がいる場所は、街中の裏路地。
夜九時を過ぎた頃合い。
そもそも、高校生が夜に出歩いていること自体おかしいが、今日はたまたま、学校が遅くなり、昇降口でバッタリ、南由と出会った。だから、街中のどこかで食事をしてから帰宅しようとしていた。
丁度、食事を終えた頃。夏央が会計を済ませている直後に南由の姿が見えなくなり、彼女を探す羽目になった。妹は、その不審人物と共に裏路地にいたことがわかり、今に至るのだ。
絶対に南由を傷つけさせたくないと、夏央は妹を背に、不審者から距離を取る。
「はああー、はあー……そろそろ、その子のおっぱいを揉ませてくれ」
「無理だ」
夏央はキッパリと答えた。
普通に考え、脂ぎったTシャツ姿の三十代男性から揉ませろと言われて、素直に妹のおっぱいを揉ませる兄などいない。
断固として拒絶する。
「なんでだ? 俺は揉みたいんだ。お前だって、揉みたいだろ?」
不審人物からの問い。
背には妹がいる。夏央はどう答えればいいのか迷う。
ここで変態チックな返答をしてしまえば、南由から引かれかねない。
言葉選びに迷うところ。
「お、俺は……別に……」
「別にって、なんだよ。その爆乳を揉みたくないとか、おかしいだろ‼ 絶対におかしいッ‼ 爆乳なんだぞ? 歩くだけで激しく揺れるほどのおっぱいを持っている女の子のおっぱいを揉まないのは男としておかしいッ‼」
眼鏡をかけた不審人物は、おっぱいとは何かについて語り始めていた。男の話す言葉すべてが卑猥であり、おかしいのはどう考えても不審者のお前の方だと、夏央は思っていたのだ。
「お前、ムッツリだろ」
「ち、違うから」
夏央は不審者に対し、激しく返答した。
「おっぱいを揉まないとか……だったら、俺が代わりに揉んでやるッ」
視界に映る不審者男性は、急に距離を詰めてくるのだ。五メートルほどの距離があった間は狭まる。
「きゃあああッ」
背後にいる妹の悲鳴。
このままでは危ない。
逃げた方がいいのか?
逃げたとしても、すぐ近くに人はいない。
助けを求めることもできないまま、ひたすら走り続けるのは辛いと思う。
刹那、不審者の拳が近くまで迫ってきていた。
そんな中、夏央は足で不審者の腹の部分を蹴り、対抗する。
不審者は少しだけ怯む。
足元がふらついている。
「お、おっぱいが……」
攻撃を受けても、変態なセリフを吐くなど、真正の変態と感じた。
「ぐ……」
不審者は腹を抱え、少々痛がっている。
奇跡的に急所を突いた足攻撃が成功したのだろうか。
「お兄さん……? 大丈夫……?」
「ああ、大丈夫だ」
相手が怯んでいる間に逃げた方がいいのか?
だろうな。逃げるなら、今しかない。
怯んでいるなら、走ってはこないだろう。
先ほど攻撃を仕掛けてくる時も動くのが遅かったのである。
今の状態的に走って追いかけてこないと思った。
「行くぞ、南由」
「は、はい、お兄さん」
南由と視線が合う。
と同時に、妹のおっぱいが視界に入るのだ。
確かに、妹のおっぱいはデカい。
爆乳と呼べるほどに大きいのだ。
歩くだけで揺れるほどのおっぱいに興味を持つこと。それが世の男性であれば普通だと思う。
けど、夏央は余計な感情を押し殺し、南由の右腕を強く掴み、引っ張るように走り出したのだ。
「お、おいッ、待てよ。俺はまだ、おっぱいを触っていないッ‼ お、おっぱいを揉むまでは諦めがつかないッ」
背後から追いかけてくる不審者は、なぜか、意外にも足が速かったのだ。
それに比べ、夏央と南由は遅い。
なんせ、妹のおっぱいが大きすぎて、少し走るだけでも爆乳が揺れ動き、妹の負担になっているからだ。
これではすぐに追いつかれてしまう。
だがしかし、あともう少しで人がいる通りに出られる。
数メートル先から街中の明かりが見えた。
その光の先までは行きたい。
爆乳の妹を連れて、その光に入りたいと強く思ったのだ。
あと、もう少し……‼
夏央は藁にもすがる思いで、光へと手を差し伸べた。
そして、ようやく光の中へ。
辺りには数人が歩いている。
まだ、九時頃であり、会社帰りのサラリーマンや、客引きのような人らが視界に入るのだ。
「ど、どうしたんですか?」
三十代くらいの男性から心配げに話しかけられる。
「そ、それが、変態に追われているというか、警察を」
と、夏央が爆乳の妹の腕を掴んだまま、訴えたのだ。
「わ、私からもお願いしますッ」
息を切らしながら、南由もハッキリと言った。
「は、はい。わかりました……?」
三十代の男性の口調がおかしい。
彼の視線は今、妹の爆乳へと向けられていた。
優しそうな男性サラリーマンだったとしても、女子高生の爆乳の前では、エロ思考に陥ってしまうようだ。
「え、おっぱい……え、あ、ち、違うんだ。警察な」
そう言いつつ、三十代の男性はスマホを片手に電話する。
その間に、転がるように、不審者の男性が明かりで照らされた街中に入り込んでくるのだ。
「お、おっぱいを――」
不審者男性が四足方向で近づいてくる最中。
自転車の音が聞こえた。
「何してるんですかね? そんなところに集まって。事件ですか?」
三十代男性に電話してもらっているのに、丁度よく警察官が現れたのだ。
これは好都合だと思った。
夏央は事の経緯を話す。
が、警察も男性であり、妹のおっぱいばかりを見て、話を聞いていたのだ。
「わ、分かった。この人が……君の妹さんに変態行為をしていたと」
「はい。そうですッ」
夏央が告げる前に、南由の方が早くに発言したのである。
「わかった。では、ちょっと話を聞かせてもらおうか。あれ? というか、貴方は、以前にも不審者報告を受けていた人ですな」
「え? いや、その事件とは。その前に俺、まだおっぱいを――」
その不審者は未だに妹のおっぱいに未練があるようで、警察に連行されつつも、おっぱいという単語を連呼していたのだ。
周りにいた人らも、問題が解決されたと認識したようで、その場から立ち去っていく。
「兄さん……私の不注意で、こんなことに」
「いや、いいよ。ちゃんと解決したんだしさ……」
と、恰好をつけながら言い切るものの、夏央の視線は南由の爆乳へと惹きつけられていたのだ。
「お兄さん? どこ見てるんですか?」
南由は頬を紅葉させつつも、優しく怒っていた。
夏央は苦笑いをして誤魔化しつつも、南由の右手を握り直し、共に岐路につくのである。
夜の街から立ち去るように、二人は自宅まで向かう。
明日も学校があるのだ。
ここで時間を消費するわけにはいかない。
そんな中、夏央は思う。
平凡に生活したいのに、どうして、面倒ごとに巻き込まれてしまうのかと――