5話
火亜流 本作主人公
赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い
身体中は古傷だらけ ムッキムキ
恵理 本作ヒロイン
黒髪 ゆるふわな感じ タレ目 めちゃ美人 落ち着いた声
スタイル良し 白いシスター的な感じの服 身体にフィットしてる
亮佐
金髪 センターパート 火亜流と同い歳くらい
食堂に荷物を置き辺りを見回す火亜流
初めて来た場所のはずだ……教室もこの食堂も、それなのに
ずっと心が締め付けられるような、胸が苦しくなるようなこの感覚はなんなんだ……
食堂に亮佐が入ってくる
「ふ、ふんっ俺だって別にそれくらいの荷物は片手で持てるんだからなっ……いいか! あまりいい気になるんじゃないぞ! 」
何を言ってるんだこいつは……荷物持ったくらいでいい気になる奴なんかいるのか?
「なってねぇよ 」
「そうだ貴様、ここに居続けるつもりなら俺に"罪能"を見せろ」
……?
「あ? なんだそりゃ……? ざいのー? んなもん持ってねぇよ」
亮佐はまた眉間に皺を寄せて怒る
「おぃぃ俺は温厚で誠実な男だが……貴様の冗談にいちいち構ってやるほど俺も暇じゃないんだよ……いいから早く見せろ」
「だから持ってねぇって言ってんだろ 」
「持ってない訳がないだろ! ……おい貴様まさかそれも恵理先生と同じなのか……?」
「お前さっきから変だぜ? どうした? 」
「チッ……もういい……部屋に戻って大人しくしていろ」
「てめぇの指図は受けねぇよ」
「なっ……おい待て貴様! 」
食堂を出て行く火亜流を追いかける亮佐
庭に生えている木の下に立ち止まり目を閉じる火亜流
「おい……貴様何をしている」
「ちょっとお前は黙ってろ 」
亮佐の言葉に冷たく返す火亜流
……今はこいつに構ってる暇はねぇ……
……あの時、あのバケモンの攻撃を躱したあの技……
……絶対絶命の状況で聞こえたあの"男の声" ……
「陽炎……たしかこんな感じだったか? 」
火亜流が木の周りを目を閉じながら歩く
火亜流の足取りは緩やかでいて靱やか……それを黙って見続ける亮佐……
……なんだこいつ木の周りをグルグルと……ん?……
火亜流の歩く姿がゆらり……ゆらり……とまるで陽炎の如く揺らめいて見える
目を擦り瞬きをせずに再度見つめる
ゆらり、ゆらりと揺らめいている……煙のように陽炎のように
「気のせいじゃない……なんだこれは……貴様、何者なんだ……」
「ふぅ……なるほどな、これが陽炎……"獄道術"ってやつか」
亮佐が火亜流に近付く
「おい……今のはなんだ……それは、どうなってる? 」
「さァな……俺にもさっぱりだ、ここに来てから分からねぇことだらけだぜ……」
これがこの男の罪能……? なのか、いや違う……こいつはただ歩いていただけだ……
「どうやら俺は獄道術って技を使えるみてぇだ……とりあえず今出来るのはこれくらいだがな」
「獄道術だと……? 聞いたことがないぞ、そんなもの……」
教室の方から何やら視線を感じて目を向ける
こちらを見ていた恵理と目が合う
気付いた恵理はすぐさま火亜流から目を逸らし授業を再開する
ーー優しい人になってーー
「なァ……亮佐」
「なんだ」
「"優しい"ってのはよォ……どうやってなりゃあいいんだ」
「……は?」
口を大きく開けポカーンとした様子でこちらを見る亮佐
「プッ……プハッ……! プハハハハハ!! おっお前がっ? 」
「てめぇ、何笑ってやがる……」
亮佐が吹き出す
「アハハハハハハハ!! だって貴様っっ……プッ……貴様みたいのから1番遠いだろそいつは……プププッ…そっその悪人面で……や、優しいって……プハハハハハッ!!! 」
笑い出す亮佐に不機嫌そうに火亜流が言う
「この野郎……いいから答えやがれ」
「やめとけやめとけ、プププッ……貴様には絶対無理だ……プッ」
「なんだとてめぇ……」
亮佐が落ち着きを取り戻し口を開く
「優しいってのはあれだ……まさに恵理先生のような女神にしか体現する事の出来ない"慈しみの心"ってやつだな」
「いつくしみ? こころ? 小難しい言葉を使うんじゃねぇ」
ふんっと一息入れ教室の恵理を指す亮佐
「あの清らかな眼差しの恵理先生を見ろ! あれが聖女様と呼ばれる思いやりの権化……まさしく優しいの究極だ 」
教室から子供達を穏やかな眼差しで見つめる恵理を見る
「慈しみ……思いやり……それが優しい……か」
「プッ……貴様……ハハッ……やめろ笑わすなっ……その顔に1番似合わない言葉だぞっ……プッ……」
再び笑い出す亮佐に拳を強く握りしめる火亜流
「上等だぜやってやるよ……! あんな女に出来ることが俺に出来ねぇ訳がねぇぜ」
……優しい人になれだァ……? 頭ん中でいつもいつも同じことばっか言ってきやがって……見てろ
「亮佐……具体的にあの女は普段何してやがる」
「あの女ではない" 恵理先生" だ! 」
「その先生とやらはどうやって優しいって技を極めたんだ」
火亜流の言葉に亮佐が答える
「ふんっ……貴様が恵理先生のようになれるとは思えんが、そうだな……あの人は常に自分の事より周りのために行動しているな……困ってる人や悩んでる人は放ってはおけず誰彼構わず助けようとする」
亮佐の言葉に火亜流がニヤリと笑う
「困ってる奴、悩んでる奴を見つけりゃいいんだな? 」
「まぁそうなるな……」
「そうと決まりゃァ簡単だぜ」
教室から庭に出た恵理がこちらに向かって歩いてくる
「2人ともこんなところで何をしているんですか? 午前中の授業が終わったので昼食にしようと思うのですが良かったら火亜流さんもご一緒に……」
恵理に向かい拳を突き出す火亜流
「てめぇ恵理とか言ったな……いいか見てやがれ! すぐにでも俺は優しさってやつを極めて、てめぇなんざ軽く追い越してやるぜ! 」
「き、貴様! 恵理先生に対してなんだその言葉遣いは!? 」
「困ってる奴をどうにかすりゃいいんだろ楽勝だぜ! 」
そう言って火亜流は庭を出て教会から走り去る
「お、おい何処に行く貴様! 」
「ええと……亮佐くん、火亜流さんは急にどうしちゃったのかしら……? 」
恵理の質問に亮佐も困惑した様子で答える
「いやあそれが俺にもさっぱりで……"優しい"はなんだと聞かれたのでとりあえず恵理先生の事を少し話したんですが……」
「とにかく火亜流さんを追いかけましょう! 心配ですっ」
「あっ! 恵理先生! 待って下さい! 」
教会から走り去って行った火亜流を追いかける恵理と亮佐
火亜流の姿はすぐに見つかった
火亜流は教会から出てすぐの脇道に歩く荷物を持った老人をじっと観察していた
「へへっ……! さっそく出やがったな……」
杖を着きながら首に巻いた風呂敷を重そうに背中で支え歩く老人の前に火亜流が立ちはだかる
「よォ……そこの死にかけのジジイ……命が惜しけりゃァその荷物をこっちに渡しな……へへっ……」
「ヒッ……ヒイイイイイ! だ、誰かお助けをぉぉぉぉ……」
老人は杖を離し地面に腰から倒れ込みゆっくり後ろへ後ずさる
……ん? なんだこのジジイ急に荷物を地面に置いて頭を抱えてうずくまり出して……
「お、おいジジイ……俺はその荷物を……」
「き、貴様ァァァ! 何をしているゥゥ! 」
亮佐が全力疾走で駆けつけ老人を庇うように火亜流と老人の間に入り込む
「亮佐か、いや俺はこのジジイの荷物をだな……」
「ついに本性を現したな! この悪魔め! 貴様この老人に何をしようとしていた!? 」
「あ、悪魔だァ? 俺はただ……」
そこに恵理も遅れて老人の側へ駆け寄る
「はぁ……はぁ……2人ともどうしたんですかっ……あ、お爺さん大丈夫ですか? 何かあったのでしょうか……」
亮佐か左手で恵理と老人を庇うようにして叫ぶ
「恵理先生! その老人を連れて今すぐ離れて下さい! この悪魔がとうとう町の住民の殺戮を開始したようです! 」
「ヒイ……お助けを……命だけは命だけはご勘弁をぉ……」
老人は震えながら祈るように地に頭を伏せる
「お爺さん……もう大丈夫ですから……」
恵理は老人の背中を手で優しく擦りながら火亜流を不安げな表情で見つめる……
「ま、待てよ亮佐てめぇなんか誤解してるぜ俺はこの死にかけのジジイの荷物を運んでやろうとしただけだ」
あたふたする火亜流……亮佐は聞く耳を持たず火亜流を糾弾する
「信じられるか貴様ァ! 獲物を前にした悪魔のようなあの不気味な笑顔はなんだァ!! 老人を襲っているようにしか見えなかったぞ!! それが貴様の本性なんだな!! 」
「いやだから俺は……」
恵理が亮佐をなだめるように言う
「亮佐くん落ち着いて……きっと誤解よ……彼がそんなことするはずないわ……そうよね火亜流さん……話を聞かせて……ね? 」
恵理の不安そうな表情の目に戸惑いながらも火亜流は答える
「俺はあんたが……困ってる人を助けてるって聞いたから……そんでとりあえずこのジジイの荷物を運んでやろうと近づいただけだ」
亮佐は腰の得物に手を添えたまま反対の手で老人と恵理を庇うようにしたまま火亜流を睨む
「別にこのジジイを襲うつもりも殺すつもりもねぇよ……」
「そうよねっ良かった……うんっ信じるわ」
恵理はホッとした表情になり老人を支えながら起こす
「ごめんなさいねお爺さん……どこかお怪我はありませんか? 」
「ぃぇぇ……ちょっとワシもびっくりしてしまいまして……ホホッ……すいませんなぁお嬢さん……」
「フフ…良いんですよ、あっお荷物お持ちしますよっどちらまで行かれるのですか? 」
火亜流は恵理が老人を支えながら話してる姿から目が離せない
……これが優しいってやつなのか? ……
……俺のやった事は優しいとは違うのか? ……
……分からねぇ……
亮佐が得物から手を離しため息をつく
「はぁ……全く貴様は……紛らわしい真似を」
「お前が勝手に誤解したんだろうが」
「なんだと? あんな場面誰が見ても貴様が老人に襲い掛かる絵面にしか見えないだろう」
「なっ……違ぇって言ってんだろ! 」
「ふんっ……ではあれを見ろ」
老人の荷物を持ちながら老人と楽しそうに会話を弾ませ歩く恵理の姿
「あれが優しい、というものだ……貴様のような野蛮人が到底真似出来るはずはない」
「……」
老人を3人で見送り教会へと戻る途中の道中
恵理は火亜流を見つめながら聞く
「えっと火亜流さんはどうしてあんな事を……? 」
亮佐が恵理の方に首を傾げ火亜流を指さし言う
「ふんっ……恵理先生! こいつは正真正銘のアホなんですよ聞くだけ無駄です! 」
「ケッ……好き放題言いやがってよォ、てめぇがいちいち頭ん中でうるせぇからだろうが……」
恵理は火亜流の言った言葉に疑問を浮かべる
「私が火亜流さんの頭の中で……ですか? 」
「何を言っている貴様……頭がおかしいのか? 」
要領を得ない様子の2人に火亜流が説明するように言う
「チッ……うるせぇよその女の声が頭ん中でたまにしてくんだよ、俺に……優しい奴になれってよォ……」
「私が火亜流さんにそんなことを……? 」
考え込む恵理に亮佐が寄り言う
「気にしちゃダメです恵理先生! 所詮は悪魔の戯言っ 」
「誰が悪魔だァ……てめぇこの野郎」
「ふんっ貴様以外に居ないだろう鏡を見て自分の凶悪な面をよく見ることだな」
言い争いをする火亜流と亮佐の間に入る恵理
「こらっ! 2人共仲良くしなきゃダメよっ 亮佐くんもそんな風な言い方は良くないわよ」
亮佐が言い淀む
「ぐっ……いやしかしですね恵理先生……こいつのこの目付きを見てください!こんな極悪人を絵に書いたような奴が優しい人間になんてなれる訳ありませんよ! 」
「私はそうは思わないよ…」
……まただ……この変な感じ……
「どんな人でもね……自分を変えたいと思う強い意志さえあれば……」
……この女の目……この女の声……
「きっと良い方向に……なりたい自分に変わることが出来るわ……」
……何かが染みるような……何かが広がっていくような……じんわりと染みるこの"何か"は一体……
「私はこの地獄に来て自分の名前以外は何も分からなくて自分の"罪能" も"後悔" も……私がどんな人間だったかも分からなくて最初は怖かった……でもたくさんの人に出会って私も変われたの」
……罪能……またそれか、そいつは一体……
「だから火亜流さんも……きっとなれるよ"優しい人"に」
……っ……
ーーなれるよーー火亜流くんならーー
ーーきっとなれるーー
脳裏にまた恵理の声が響く
……あんたは一体なんなんだ……
貴重なお時間を割いて読んで下さりありがとうございます
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