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地獄転生 〜業火の拳で取り戻す失われた記憶と贖いの冒険譚〜  作者: さくさくメロン
第一部 記憶の断片
3/20

3話


 火亜流かある 本作主人公


 赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い

 身体中は古傷だらけ ムッキムキ









 閑慈乃町(ならくのちょう)


 ここは町の端に位置する寂れた教会


 その景観はお世辞にも綺麗と呼べるものではなかった


 石造りの外壁は劣化が進み屋根にそびえる十字架塔は真っ直ぐ立っておらず斜めになっており窓絵にはヒビが入っていた。


 朝日が差し込み始め鳥たちのさえずりが日の出を迎える頃1人の女性が礼拝堂に足を運びそこで祈りを捧げる


 シスターを連想させるような白い衣服を身に纏い綺麗な黒髪から覗くその目は優しさと思いやりに満ちていた


「今日も1日みんなが元気に健やかに学びを得られますように」


 ドンドンドンッ! ……誰かが教会の扉を叩く


「聖女様! こんなに朝早くにすいません! 」


 町に住む男が息切れを起こしながら焦った様子で扉を開く


「おはようございます、あらどうかされましたか」


 聖女様……と呼ばれた女が振り返る


「それが大変なんです!町の外れにある川の辺に人が倒れてるって子供たちが騒いでまして…若いの集めてとりあえず引き上げてみたんですが意識がないみたいで…」


 男の言葉に女は驚いたように返す


「っ! 分かりましたではこちらに運んで下さい使っていない部屋はいくつかありますから」

「すいません助かりますっ聖女様! 」


 急いだ様子で外へ走る男とすれ違うように子供たちが礼拝堂に駆け寄る


「せんせー! 」「せんせいー!」「先生ー!」

「はいみんなおはよう、話は聞いたわみんなが見つけてくれたの?」


 幼い女の子が後ろにひっそり佇んで下を向いている少年を指さして言う


「わたるくんが見つけたの! 」


 わたる、と呼ばれた少年は目を伏せて小さな声で喋る


「橋を……歩いてたら………見つけたから………そ、それで…」


 ゆっくり少年に近付き体勢を落とし目線を合わせ頭に手を当て優しく撫でる


「わたるくんありがとうねあなたのおかげよ 」


 優しい笑みで少年を包む


「う…うん…」


 自信無さげに下を向きながら少年は答える


「聖女様! 失礼します! 」


 先程の男と町の男数人が項垂(うなだ)れる青年を両脇から抱え込み教会に運ぶ


「みなさんこちらに! 寝かせられるベッドがありますのでそこまでお願い致します」


 そう案内しながらふと女は項垂れる青年に目を向ける


 ……え……


 ……燃えるような赤い髪、その髪を私はいつかどこかで撫でたような



    ーーけっ何が地獄だよーー俺にとっちゃァなーー


 

     ーーこの島こそがーー地獄そのものだぜーー

 


 ズキンッ


 頭が鳴る



      ーーえんまァ?ーーくっだらねえーー



 幼くボロボロの姿、少年の逆立つ赤い髪を風が撫でる


「君は……んっ……」


 聖女様と呼ばれる女性は頭を抑え膝を着く


「聖女様!? 大丈夫ですか!? 」「せんせー!? 」「せんせいどうしたの!? 」


 子供たちと町の男たちが心配そうに駆け寄る


「い、いえなんでもありません……大丈夫です……ベッドはそちらです、お願いします」


 膝を着き頭を抱える女に金髪の若い男が走り寄る


「"恵里(えり)先生"! 」


 恵理……と呼ばれた女を男が支える


「あっ亮佐(あきすけ)くん……大丈夫よ……先生は大丈夫だからはやくあの人を、寝かせてあげて……」


 亮佐(あきすけ)と呼ばれる金髪の青年はそれでも恵里(えり)から離れず言う


「俺はあんなどこの誰かも分からない奴よりあなたが大事だ! 」


 亮佐は心配そうに恵理を見つめて言う


「ダメよ亮佐くん……そんなこと言っちゃ……ちょっと頭痛がするだけだから……先生は大丈夫だからっ……」


 恵理の言葉に目を閉じ渋々了承する亮佐


「分かりました……でも恵里先生もすぐに休んで下さい」


 亮佐に支えられながらゆっくりと立ち上がる恵理


「分かったわ……楽になったらすぐ授業始めるから……」

「なっ! ダメです恵里先生! 今日は1日休んで下さい! 」

「で、でも……」

「いいえダメです! ガキ共! みんな今日は授業無しだ! 先生を休ませるんだ! 」

「せんせぇだいじょうぶー? 」「ぼくたち今日は庭で遊んでるよー!」


 子供達が恵理を心配そうに見上げる


「ご、ごめんねみんな……すぐに先生……良くなるから」


 覚束無い足取りでいつも寝泊まりしている部屋へと歩く恵理


「あきすけ兄ちゃん!せんせぇどこか悪いのー?」


 子供達の心配する声に目を細め恵理の背中を見つめながら返す亮佐


「あの人はいつも自分のことほったらかしで周りのために頑張る人だからな……疲れが溜まっているんだろう……」


 そう言って亮佐は項垂れた赤髪の青年を運び出し男をベッドに寝かす


「なんだこいつの着てる服……ボロボロの布じゃねーか血だらけだしまるで何かに斬られたみたいに裂けてんな」


 青年自身から出血している様子はなかったがその身体には肩から胸にかけて火傷の線のようなものがあった。


 それだけじゃない、男の身体はまるで凶器のように鍛えられておりその全身にはありとあらゆる箇所に古傷が存在している


「なんだこれは……こいつもどうやらいろいろ訳ありみたいだな……危ないヤツかもしれないしガキ共や恵里先生に危害を加えないとも限らない、俺が見張るしかないか……」


 ここは幼くして1度目の人生を終了した子供達を集め保護しながら文字の読み書きや最低限の教養を身に付けられるように古い教会を利用した施設である


 そこで日夜子供達のために身を粉にしながら働く1人の女性をいつしか閑慈乃町に住む者達は聖女様、と呼ぶようになっていた


 "恵理" 彼女もまた自身の名前以外何も覚えていない記憶喪失の状態であった



 ※恵理の部屋※



 ベッドに腰掛けあの青年を思い出す


「彼は一体……私は……んっ……」


 ……私は彼を知っている……? 何も思い出せない……

 

 ……この地獄で出会えるかもしれない1度目の人生の私を知る人物……

 

 ……ようやく出会えたのね……


 ……自分の罪……後悔……この数年間いつも心にずっと存在している "何かを果たせなかった後悔"

 

 ……心に導かれるままたくさんの人達の力にならなければ、助けにならなければ、と……これまで私自身を探していた


 ……それでも私の中にある後悔の念を払うことは出来なかった


「教えて……君は……私は……一体誰なの……? 」


 夜は更け一日が終わり朝日が教会を照らす



 ※火亜流が寝かされた部屋※



 夢の中で声が響く



    ーー君の名前はーー今日からーー火亜流ーー



    ーーゆっくり休んでねーー火亜流くんーー



 ……俺の名前…… そうかあんたが……俺の名前を……


 ……俺は誰なんだ……あんたが知ってるのか……教えてくれ


 ……俺は一体……


『く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』

 

 突如襲いくる甲冑の亡者の叫びが頭に響きはっと目が覚める


「ッッ! ぐわァッ! 」


 火亜流は勢い良く起き上がる


 ベッドの上……見覚えのない部屋……


 身にまとっていた布は無くなっていた

 

「はぁ……はぁっ……なんだ夢かよ……どこだここは……」


 扉が開き金髪の青年が火亜流に声をかける


「ようやくお目覚めかさっそくだがこいつに着替えたら出ていけ」

「んぁ?」


 そう言って金髪の青年は火亜流に黒いTシャツを投げつける


「誰だてめぇ……ここに俺を運んだのはてめぇか? 」

「ふんっ……ああそうだ、感謝してくれていい 」 


 ……俺は助かったのか……? なぜ……?


 ……そうだ傷は……っ……ない?


 火亜流は自分の肩から胸にかけて手でなぞる


 ……俺はたしかにあのバケモンに斬られたはず……どうなってやがる……


「おい……俺は何で生きてる? 傷は……」

「傷? 何を言ってる? その火傷の跡のことか? 」


 ……火傷……?……っ……


 肩から胸にかけて(うね)った蛇のような火傷の線が入っている


 ……んだこりゃ……


「その火傷、その身体中の古傷……お前がどこの誰かなんてこの俺にはどうでもいい事だ、動けるなら早くここから出て行ってくれ」


 金髪の青年は火亜流を睨みつけ酷く警戒している様子


「なァ…ここはどこだよ、なんで俺は助かった? 」

「おい貴様……聞こえなかったのか? 俺は今すぐ出ていけと言ったんだ」


 ……さっきからコイツ……やたら俺に敵意むき出しだなコイツが俺を助けたんじゃねぇのか……?

 

「あぁ出て行ってやるよ、でもなァ……今の状況が訳分かんねぇんだ……ここがどこでどうやって助かったか分かりゃァすぐにでも消えてやるよ」


 金髪の青年は腕を組み、はぁ……と一息入れると部屋の壁に背をつける


「貴様がどうやって助かったかは知らん、ここのガキ共が川岸で倒れてる貴様を見つけてこの教会に大人を呼んで運んだ、あとあの汚いボロ布は捨てた……以上だ」


「教会……」


 ……なんで生きてるかは分からねぇがとりあえず俺は助かった訳だ


 ……寝起きでいきなりこいつに噛みつかれても面倒だ……


 ……出て行くとするか

 

「よく分からねぇが世話んなったな、服はもらってくぜ 」

「ふんっ……」


 タタタタ……タッタッタッ……


 誰かが急ぎ足でここへ来る足音


「あ! あぁ……良かったっ! 目が覚めたのですね! 」


 扉に手をかけ息切れしながら目の前に現れる女……


 黒い髪、穏やかな目、透明な何かで全てを包むような声


 女が目に入った瞬間、何かが頭で暴れ回る



  ーー火亜流くんーー火亜流くんーー火亜流くんーー



 ……!!? 


 ズキンッ! ビキビキッ…


「んぐっ……がっ……頭が……! 」


 その声は地獄に来てからずっと火亜流の頭の中で繰り返されていた声……


「あの……大丈夫ですか? まだお身体が……」


 そう言い火亜流に近付こうとする恵理を金髪の青年が止める


「ダメですっ! 恵理先生! こんな得体の知れない男に近付いちゃ……危険だ! 」

「あ、亮佐くん……」


 火亜流は頭を押さえながら苦しそうに言う


「ぐあ……! て、てめぇ……誰だ……俺を知ってんのか!? てめぇ……くっ……俺は誰なんだ………知ってるなら教えやがれ……」


 "恵理(えり)" "亮佐(あきすけ)"


 両名が驚いた様子で頭を抱える火亜流を見つめる……


「……っ! そんな、まさか君も……? 」

「貴様っ……」


 火亜流は恵理を見て片目を強く瞑り痛みに耐えながら言う


「くそがっ! 頭が痛ぇ……女ァ……てめぇはなんなんだ……何で俺の頭ん中に出てきやがる……」


 火亜流に手を伸ばし近付こうとする恵理を亮佐が制止する


「恵理先生……今はコイツから離れて下さい、俺がコイツを落ち着かせます……」


 恵理は必死そうに亮佐に返す


「出来ませんっ! やっと……やっと見つけた"私"の手がかりなんです……! 」

「恵理先生……」

「私はきっと……彼を知っています……そして彼もおそらくは……」


 亮佐は恵理に振り返り動揺する


「そんなっ……こんな野蛮そうな奴が恵理先生のことを!?俺には信じられません! 」


 火亜流はいまだ苦しそうにしている


「ぐっ……頭が鳴り止まねぇ……てめぇは……一体……」


 亮佐がそれを見て恵理の肩を掴み後退させる


「恵理先生! とりあえず今はコイツから離れましょう、この様子じゃコイツだってまともに話なんか出来ません」


 恵理は悲しそうな表情を浮かべる


「……っ……分かったわ……彼が落ち着いたらまた話しましょう……」


 恵理は扉から物寂しげにこちらに一瞥をくれ部屋を後にする


 亮佐が扉を閉め火亜流に向かう


「貴様……そんなまさか……こんな奴が恵理先生がずっと探していた"知り合い" だというのか……」


 亮佐も動揺を隠し切れない様子で火亜流に投げ掛ける


「おい貴様……貴様も自分が分からないのか……? 」

「ぐっ……俺は自分の名前以外の事が何も思いだせねぇ……」

「恵理先生と同じ……か」

「……? ……ぁんだって? 」


 亮佐が目を細め怪訝そうな顔で言う


「恵理先生も……貴様と同じく名前以外は覚えていない記憶喪失なんだ」

「んな……! 」


 ……あの女も、記憶がねぇだと!?


 ……それじゃァ……結局何も分からねぇままか……

 

 ……くそっ……


「貴様に1つ忠告しておく」


 亮佐が顔を強ばらせて告げる


「貴様が恵理先生の何であったとしても……もしあの人に危害を加えたり危険な目に合わせる様なことがあれば俺は貴様を殺す 」


 覚悟と冷酷さを合わせたその言葉その視線が火亜流に突き刺さる


「けっ……てめぇに俺が殺れるとは思ぇねえがな」

「……試してみるか?」


 亮佐が腰の後ろ側に差しているだろう"それ"にゆっくり手を添える……


 身体の重心から何かを隠し持っていることは最初から分かっていた、腰の傾き……重心の揺らぎ……間合いを測る視線の軸からして得物はおそらく刃渡り20〜30cm程のナイフ……いやマチェットか


「その得物で俺を殺るか? いいぜ……来いよ 朝の軽い運動だ…相手してやるよ こんくれぇの頭痛でちょうどいいハンデだ 」


 亮佐は恵理の悲しげな表情を思い返す


『やっと見つけた"私"の手がかりなんです……!』


「ふんっ……貴様をここで切り刻んだところであの人が喜ぶわけが無い……俺はあの人の悲しむ顔が見たい訳じゃない」


 腰の"それ"から手を離し火亜流から視線を外さないまま言う


「だが忘れるな……あの人に危害を加えるなら俺は躊躇なく貴様を殺す……いいな? 」


 火亜流は真剣な眼差しの亮佐に返す


「あぁ、覚えておいてやるよ……」


 ふんっ…と緊張が解けたように亮佐が火亜流に言う


「俺は"亮佐(あきすけ)"だ、貴様の行動言動は常にこの俺が監視しているからな… …貴様の名前は? 」


 ……亮佐……か……


 ……こいつの言葉……さっきの殺意……あれは本気だった……


 ……それにこの亮佐とかいう野郎……強ぇな……


「俺は火亜流(かある)だ」


 亮佐は火亜流を見下ろすように冷たい視線を向け告げる


「火亜流……いいか、恵理先生が記憶を取り戻し満足するまでは貴様はここに居てもいい、だがくれぐれも問題は起こすなよ……分かったか? 」


 ぶっきらぼうに返す火亜流


「別に好き好んで問題を起こすつもりはねぇよ」

「ふんっ……どうだかな……俺は恵理先生とこれから街の食料分配所に行く…貴様はここで大人しくしていろ」


 そう吐き捨て亮佐は部屋を出る


「ったく……なんだあの野郎は……」


 静かさを取り戻した部屋で収まりつつある頭痛


 ……あの恵理とかいう女も記憶喪失……俺と同じ……か


『1度目の人生で刻まれた縁ってのは不思議な力があるからね〜〜こっちでも探せばすぐ出会えると思うよ〜っ』


 獅亞罹の言葉を思い出す


 ……縁……か……あの女と俺にどんな縁があるってんだ……


「ちょっとおさないでよっ」「わっおまえこそ!」「あっ」


 扉が開き子供達がなだれ込んで倒れる


「んだ、てめぇら…」


「ひっ……ひい! 」「おまえがおすからっ! 」「かお怖いよーっ」


「そういや亮佐って奴が言ってたな……ここのガキ共が俺を川で見つけたって」


 子供達の好奇心旺盛な眼差しが火亜流に一斉に向いている


「おい何ジロジロ見てんだ」

「わーおこった! 」「たべられる!? 」「ひいっ 」


 子供達の視線に困惑する火亜流


「ん、いや……別に怒ってはねぇよ、それよりおめぇらが俺を見つけたんだってなァ」

「見つけたのは"わたるくん"だよ! 」


 一人の少女が火亜流を見上げてそう言った


「わたる? 」

「うん! いっつもみんなと遊ばずに1人でいる子! 」

「こっちこっちー! 兄ちゃん! 」


 子供達が火亜流の腕や服を掴み外に連れ出そうとする


「お、おいおい俺は外に出ていいのかよ……あの亮佐ってのが噛み付いてくるんじゃねぇのか 」

「あきすけ兄ちゃん? 優しいから大丈夫だろ! 」

「うんうん!あきすけお兄ちゃんはみんなのお兄ちゃんだから大丈夫! 」


 あの野郎が優しい……?


「おれたちがここを案内したげるよ! 」「ほらこっちこっちー! 」


 子供達に手を引かれ半ば強引に連れ出された火亜流


「あっおい……ったく俺は知らねぇからな! 」








 貴重なお時間を割いて読んで下さりありがとうございます


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