2話
火亜流 本作主人公
赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い
身体中は古傷だらけ ムッキムキ
※火亜流を送った後の獅亞罹※
「ふんふんふ〜ん〜 記憶喪失のカールくんか〜 目つきは悪いけどかなりのイケメンだったなぁ〜〜 ……ん? 」
案内を終えた獅亞罹は椅子に座り直し上機嫌な面持ちで先程の青年の事を思い返していると背後に気配を感じた
振り返るとそこにはよく見知った顔の人物がいた
「うふふ……ごきげんよう獅亞罹」
「げっ艶冥……」
艶冥
4本角の "鬼神七柱" が1人
かつては地上に蔓延る亡者の討伐を生業としていた、今は獄卒見習いの指導に当たっている
白と紫の長い髪を上品に巻いていて艶めいた高級感のある紫色の着物はどこか優雅さと余裕さを感じさせる
「げっとは何よ失礼ね 」
「ちょっと艶冥〜アンタ何勝手に人ん家ノックもせず入ってきてんのよ! 」
獅亞罹の言葉に落ち着いた様子で返す艶冥
「私もちょうど今案内を終えたところなのよ 」
「案内ィ〜〜? そんなこと言ってどうせまたその醜い脂肪の塊を武器に罪人相手に色仕掛けでもしてたんでしょ〜〜 あ〜ヤダヤダ 」
艶冥は落ち着き払った態度を崩さずに返す
「うっふふふ……ごめんなさいね貴方と違って豊満で魅力的な身体をしてしまっていて」
「キィィィィッ!! な、何よっ! 喧嘩売りに来たわけ!? 」
悔しさを表情に全面に出しながら近付く獅亞罹を無視して口を開く艶冥
「はぁ……それなのに、それなのに……聞いてよ獅亞罹! あの子ったら酷いの! 私が説明ほったらかしにして服脱いで全裸で迫って可愛がってあげようと思ったら『僕……生きてる女の人に興味ないんだよね』 とか言って私を拒絶したのよ!? 信じられないわ! 」
その発言に思わずツッコミを入れる獅亞罹
「いや信じられないのはアンタの行動の方だケド!? 」
何をやってんのこの色情狂は……
「それにしてもあの歳であれだけの人数を殺めた"殺人鬼"だなんて…全く近頃の子ったら……」
「艶冥がそんなに参るなんて珍しいね〜」
艶冥はヤレヤレと言った風に呟く
「全く地獄の行く先が思いやられるわ……それで? 貴方の方はどうだったのかしら 」
獅亞罹は火亜流の事を思い返し言う
「いやそれがね〜なんとまさかの記憶喪失くんでパニクちゃったよ〜自分の名前以外はな〜んにも覚えてなかったのっ! 」
記憶喪失……という単語に反応する艶冥
「あらそれは確かに珍しいわね、そういえば何年か前にうちの獄卒見習いの子達が同じように自分の名前しか覚えてないって人を案内したらしいけれどそれ以外には聞いたことがない事例ね…」
「へ〜こういうこともあるにはあるんだね〜 」
「可哀想にねぇ……それだと自分の罪を償うなんて相当難しいはずよ……その子たちの "罪能" がいい方向に導いてくれると良いけれど……」
艶冥の話に頷く獅亞罹
「本当にね〜罪能がね〜うんうん罪能が……ん?……あれ」
獅亞罹の表情が停止する
「獅亞罹? どうかしたの? 」
「ね、ねぇ艶冥……"罪能"ってアレよねっ……やっぱり案内役として説明する時は必須事項の……アレよね? 」
突如表情からいつもの笑顔が消え去る獅亞罹を不思議そうに見つめる艶冥
「急にどうしたの? そんな何か重大な見落としを今更発見したけれど既に手遅れで詰みました みたいな顔しちゃって」
獅亞罹の顔から生気が抜けていく
「い、いやァ〜別にィ〜? ちょっと気になって〜? 艶冥は罪能の説明はちゃんとしたのかな〜みたいな??? 」
艶冥は要領を得ない質問に疑問を浮かべるように答える
「そんなの当たり前でしょう? 罪が重ければ重い程その贖罪の道は計り知れない長旅になるわ1000年2000年あっても足らない人だっているのよ? だからその人の罪に応じてその罪を贖うのに助けになるよう地獄門を通った者には異能の力 "罪能"が刻まれるんじゃないの」
艶冥の説明に焦りを隠しきれない獅亞罹
「そ、そそそそそうよね、じょ……常識よね!! 」
艶冥が続ける
「とは言っても本来善行や徳を積むための力のはずがいつの間にか私利私欲に溺れて地獄でも悪辣の限りを尽くすようになったり自らの罪能が暴走して制御出来ない状態になってしまったり、罪と罪能が大きければ大きい程にその魂が背負う業は深くなるわ」
「ウンウンウンウンウンウンシッテルシッテルシッテルヨ」
獅亞罹は口を歪ませながら頷いている……
「そんな大事なことを説明しないまま地獄に送り出すマヌケなんているわけないじゃないの」
……マヌケ……
「ダ、ダヨネー!? いるわけないヨネー!? 」
「ちょっと獅亞罹、貴方まさか……」
「ハハハ〜ヤダな〜〜マママママサカ〜〜そんなわけないじゃない〜〜っ 」
獅亞罹の額から大量の汗が流れ出しその視点は焦点があっていない
「ハハハ〜……」
遠くを見つめて青ざめる獅亞罹
「はぁ……やったわね貴方……」
「ハイ 完全に忘れてマシタ 」
下を見ながら呟く獅亞罹に艶冥は追い討ちをかける
「どうするの貴方……その彼、罪能なしにもしも厄災級の亡者とでも出くわしたら……消滅は免れないわよ」
艶冥の言葉に楽観的に返す獅亞罹
「ハハハ〜そんな運悪くいきなり強い亡者と遭遇するなんてナイナイ〜ナイヨネ〜……?」
自身の過ちに対し希望的観測で語る獅亞罹に呆れ顔の艶冥
「貴方ねぇ…この地獄には鬼神にすら手に余る厄災級の亡者がまだ確認されてるだけで5匹は居るのよ………特に無差別に人を襲うタイプの"夜叉"と"娥娥姫"なんか罪人にとっては驚異でしかないわ」
"厄災級の亡者"
亡者の中でも特殊な個体に付けられるそれは複数の鬼が相手でも処理する事はおろか太刀打ちする事も出来ない程の怪物である
「夜叉か〜かなり昔からいる奴よね? 1度アタシも戦ってみたいのよね〜〜」
「私の教え子が何人もあの夜叉にやられてるのよ…いくら貴方でもおそらく無傷とはいかないんじゃないかしら? 」
「かもね〜遭遇したいな〜〜 亡者狩りなんてもう全然やってないんだもんっ 刺激が欲しいよ〜」
……本気の獅亞罹と夜叉の勝負……たしかに私も興味はあるけれど
「それより貴方、案内した彼のことはどうするの? 」
「い、いや〜きっとカールくんなら大丈夫っ! うん! 大丈夫! 」
「貴方に案内役は向いてないわね…」
鬼神2人の会話は続く……
一方その頃
※場面変わって武者に襲われた火亜流※
「上等だてめぇッ! やれるもんならやってみやがれ相手してやるよッ! 」
それから僅か数分後、そこには全力疾走で木々を掻き分け走る火亜流の姿があった
「はあっ はあっ はっはははは! まともにてめぇなんか相手するわけねぇだろイカレバカがあ!! 」
重い甲冑を身にまとい手には刀、片やこちらは身軽な軽装に素手、走れば追いつかれるはずはないと短絡的な考えだった
振り返ってみるとそこには数メートル後ろを離れることなく追い付いてくる武者の姿があった。
「なあ!? どうなってんだよお前ぇえくそっ! 」
「な゛り な゛りぃぃあ な゛り゛ませぬうう゛と゛のぉお゛」
……こいつ完全に正気じゃねぇッ! つかその身体で何でそんな速く走れんだこいつは!?
甲冑姿でありながらその走る速度は全力疾走の火亜流に追いつく勢いだった
絶対絶命かと思われたその時、木々の向こう側に光が反射した何かを見つける……それは川だった
……川か……へへっ助かったぜッ さすがに水場じゃお前が不利だろ……
足が膝まで浸かるほどの川、流れはそんなに速くはない
火亜流は勢いに任せて跳ぶ
足を止めんな! 止めたら殺られるッ! こんな訳の分かんねぇ場所であんなイカレ野郎に殺られてたまるかよッ!
息つく暇もなく川の流れの抵抗を身体に感じながら前に進む
ここを超えさえすりゃァ………
川を超え振り返る、奴が川の中心の方から雄叫びを上げながらこっちに向かって走ってくる
「かかったなバカがァ! くたばれイカレ野郎ッ」
……水場じゃどんな足運びだろうが機敏に動いて躱すなんざ出来っこねぇぜ!
「死ねやあああッ! 」
火亜流は足元にある石を拾って全力で投石する
武者は足を止めない、刀を持った右片腕のみを上に掲げ視認すら出来ない速度で振り下ろす
シュインッ
空を裂き石を斬る音、一瞬聴こえたそれは美しさと残酷さを感じさせる無慈悲な音だった
「んなッ……ありえねえ! こいつ石を斬りやがった!? 」
「わ゛わか゛け゛んはお゛お゛んと゛ののた゛めにぃ゛」
「くそがああッ 」
一投二投続け様に投げる、が……
シュインッ スパァン
手首の捻り腰の捻り
いずれも武者に斬り伏せられる
……こいつはマジでやべぇ! 想像以上のバケモンじゃねぇかこのイカレ野郎……!
「な゛せ゛わわ゛た゛し゛は あ゛あ な゛せ゛」
「1人でやってろ! イカレ野郎があっ! 」
投石をやめ再び走り出す
武者も川から上がり再び命懸けの鬼ごっこが始まる
……考えろっ考えろっ! 何かねーか!? ありゃマジのバケモンだ殺らねーと殺られるッ
「ま ま゛も゛ら ら゛ね゛は゛ま もる゛わ゛か゛き き゛」
ヒュンッ
な……! っぶねぇ!
頭上を刀が掠める、ギリギリのところで躱すが既に奴の間合い
「やられっぱなしってなァ、 気に入らねぇなァァ! 」
二撃目の追撃を加えようとする武者の足を払う
バランスを崩し武者の体制が傾く
「ざまあねぇなァ!」
武者に拳を振るおうと振りかぶる……が
即座に左手を地面につけ身体を回転させ下から斬り上げる武者
「ぐぅッ……!」
それを間一髪、身体を仰け反らせ回避に成功
「へへっ……危ねぇ……」
「う゛う゛う゛く゛く゛」
「てめぇのその殺意よォ、マジにやべぇよ……こうやって面ァ見合わせてるだけで身震いがするぜ……」
武者の重心が僅かに下がり構えが変化する
互いに"敵"から視線は逸らさない
「でも何でだろうなァ……やべぇ奴にこんだけ殺意向けられてるってのに頭ん中はやけに冷静で、まるで何度もこんな場面に遭遇したみてぇに落ち着いてるぜ」
武者は右片腕だけで振っていた刀に左手を支えるように添え左肩をこちらに突き出す形で刀の剣先を俺に向ける。
「い゛さ゛し゛し゛んし゛ょ゛う゛に゛」
奴の顔は黒いモヤモヤで見えない、だが肌で感じる……こいつは本気になったんだ
先程までより更に色濃く深くドス黒い闘気……
「はは、すげぇなお前……」
一か八かやるしかねぇか、ビビってる場合じゃねえ
「行くぜイカレ野郎」
……一歩でも動けばその瞬間首が飛ぶことを奴の放つ殺気が物語っている……それでも俺は、俺は……
「自分が何者なのか、俺はそれを知りてぇ」
……俺にどんな罪があるのか、俺にどんな後悔があるのか……
「そいつを知るまではよォ 無様だろうがなんだろうが俺は止まれねぇッ 」
武者に向かって一直線に駆け出す火亜流
今見るべきもの、感じるべきものは武者の刀でも奴の身体でもないそのただならぬ殺意の塊だ
……見逃すな殺意の揺らぎを、見逃すな殺意の膨張を、奴が発するそれは必ず俺の全身を叩き震わせる……それが合図になる。
……奴の周りを漂うドス黒い殺意の闘気……
……僅かに揺らぎ俺に向くッ! ここだ、来る!
瞬間 脳裏によぎる何者かの声 その声は甘く とろける様な どこか不安さを感じさせる男の声
ーーふふふーー火亜流ーー君はやはり物覚えがいいーー
ーーそうーー肝心なのはーー呼吸と筋肉の緩急ーー
ーーその技の名はーー
ーー獄道術ーー陽炎ーー
……っ……
身体が、肉体の細胞が何かを思い出す 呼吸と筋肉の緩急……
……そう、それは確かこんな風に……
火亜流の身体が陽炎の如く揺らめく
もはや音すらなく光すら遅れる武者の剣先…
見て躱すことは不可能の神速の斬撃、修羅を生きたであろう武者の神業は同じく修羅を生きたであろう男の本能に躱される。
シュキィンッ!
敵の姿はない 斬ったのは空気
「っ゛!?」
武者の動きがこの時初めて感じた動揺によって一瞬停止する
"確実に斬った"己が誇る最速の剣技、防ぐこと避けること皆無の神速の剣は揺らめいた標的の残像のみを斬ったのだった
後ろに気配、反撃……ではなく後ろへと足を進める敵の息遣い
武者をすり抜け火亜流は走る
「避けた、避けたぜ! はは! やってやったぜ! 」
……あの時一瞬思い出した男の声……身体が覚えていたあの技……
……あの声は誰だ……あの技はなんだ……いやそれを考えるのは後だ
……止まるな……止まるなッ!! 今しかねぇ!!
足にうまく力が入らねぇッ…… 関係ねぇ動け!
向かう先は先程飛び込んだ川……その先に確かに見えた先のない道。
滝だ
高さは!? 落下の衝撃は!? 助かる見込みは!?
「はッ! 今はゴチャゴチャと考える時間じゃねえなァ 」
火亜流はただひたすらに足を動かし力の限り助走をつけて飛んだ
「く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「なっ!?」
火亜流が滝に飛び込んで間もなくすぐ武者も飛んだ……いつの間に追いつかれたのか……
空中で振り下ろされる刀 躱す術はない
肩、鎖骨、心臓、にヒヤリと冷たい線が入るような感覚
と思えば今度はじんわりとした温かさと鋭い痛みが走る
ブッシャアアアアアアアアアア
目の前の景色が自身の血で染まる
…あぁ……斬られちまったのか……くそ
ーー君は強いからーー大丈夫ーー
……またあんたか……誰なんだ
ーー君はーー優しい人になってーー
……悪ぃなァ……そいつは叶いそうにねぇや……やられちまった
ーー約束だよーー
……やく……そく……?
……ダメだ……意識が……
……ボワッ……
……あったけぇ……火?……この火は……なん……
ザッパアアアン!
1日に2度も高所からの落下を味わったその男 火亜流
意識は本流の流れと共に飲み込まれ深い眠りにつく。
貴重なお時間を割いて読んで下さりありがとうございます
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1日1話を目標に頑張って続けていきます!