18話
火亜流 本作主人公
赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い
身体中は古傷だらけ ムッキムキ
恵理 本作ヒロイン
黒髪 ゆるふわな感じ タレ目 めちゃ美人 落ち着いた声
スタイル良し 白いシスター的な感じの服 身体にフィットしてる
亮佐
金髪 センターパート 火亜流と同い歳くらい
獅子丸
頭の右側刈り上げ 顔面の右側に牙を鬣たてがみで囲んだ印の刺青 革ジャン
義宗
白髪 眼鏡 白シャツ 柔らかい雰囲気
凛季
赤髪 ツインテール 赤肌 1本角の鬼の少女 蘭季の妹
蘭季
青髪 ボブ 青肌 1本角の鬼の少女 凛季の姉
閑慈乃町炎上から一夜明けて次の日の朝
閑慈乃町に流れる川に面した町から少し離れた場所にある廃屋に怪我人が運び込まれていた
町の炎は鎮静化したがその町並みは以前から一転し死の町となっていた
灰が舞い焦げ臭さはまだ残っており建物や民家は見る影もなく真っ黒に焼け落ち教会は原型を留めているがそのほとんどが全焼していた
朝、目を覚ました恵理が子供達の様子を見に来ていた
「みんな……無事で良かった……本当に良かったっ」
恵理が涙ぐんで子供達の無事を喜ぶ
「かーる兄ちゃんがねっ助けてくれたのっ……」
「火亜流さんが……うんっ……良かった……」
「それからライオンさんがすっごい速くてね! あそこの兄ちゃん! 」
子供達が指さす方向にいた若い男
頭の右半分を刈り上げ顔面の右側にビッシリと刺青の入った革ジャン姿の男
……あの時……火亜流さんと一緒に駆けつけてくれた黒いライオン……彼が……
恵理が立ち上がり獅子丸へ歩み寄る
「あの……すいません、昨夜は本当にありがとうございましたっ」
獅子丸が驚いた様子で恵理を見る
「んおっ! ぇと……ん〜なるほどこれがあの金髪が言ってた女神か……たしかにとんでもねぇ美人だなァッ」
「えっ……いやそんな……」
獅子丸にジロジロと見られ何やら気恥しさを感じる恵理
「火亜流さんとあなたが居なければ子供達は助からなかったかもしれません……本当にありがとうございましたっ」
深々と頭を下げる恵理に困惑する獅子丸
「おいおいよしてくれっての! こんな現場あの金髪に見られたらまたガミガミ言われちまうぜっ……それに俺は兄貴についてきただけだッ」
「兄貴……? ですか……? 」
獅子丸が得意げに鼻を擦りながら言う
「おうよ! 火亜流の兄貴! 俺様が目指す最高最強の男の中の男だぜっ! 」
……火亜流さんが……
「ふふっ……知りませんでしたっ火亜流さんが霊楽町でお友達を作っていただなんて……」
獅子丸が顔を赤くしてジタバタとする
「ちょっ! ちょちょっ! よせよ〜友達だなんてそんな……お、俺様は兄貴の1番の弟分なんだぜ! 」
恵理がキョトンとして首を傾げる
「弟分……? ふふっ……火亜流さんに弟が出来たんですねっ……なんだか私も嬉しいですっ」
獅子丸は心が穏やかになっていくような不思議な感覚に包まれる
これほどの優しい笑顔で話しかけられたことなどなかった獅子丸にとって何とも言えない感覚だった
「女神様に聖女様ね〜……大袈裟だと思ってたがなるほど……」
「どうかされましたか? 」
「んやっそれより兄貴はまだ目が覚めねぇみたいで心配だぜ 」
恵理も胸に手を当て心配そうに目を細める
「火亜流さんなら……きっと大丈夫ですよっ……信じましょう」
「ンガッ! そうだな! 兄貴が簡単にくたばるわけがねえや! 」
……それよりも今心配なのは……
……蘭季ちゃん……
「それでは私は蘭季ちゃんのところへ行ってまいりますので……また」
「おう! 気をつけてな! 聖女様! 」
……昨夜あの後……義宗さんから凛季ちゃんの事を聞いてからずっと誰とも話そうとしない蘭季ちゃん……
蘭季を探して廃屋をさまよっていると外の川辺で座り込む蘭季を発見する
……今はそっとしておくべきかしら……ううん……
恵理は座り込む蘭季の元へ行く
「おはよう……蘭季ちゃん……」
「……」
……蘭季ちゃん……
「聖女様……」
昨夜からずっと黙り込んでいた蘭季がようやく口を開く
「! ……うん……どうしたの? 」
蘭季の目に光はなく、いつもの元気ある声とはかけ離れたように暗い声と表情
「なんで凛季が……死ななきゃいけなかったのかなぁ……」
「……蘭季ちゃん……」
「凛季ったらね……いっつもパトロールほったらかしで遊びに行ったり……義宗にくっついてばっかで仕事しなかったり……」
座り込んでゆっくり話す蘭季の肩に優しく手をかけ
隣に座る恵理
「でもね……いっつも言ってたの……私が義宗を……町を……みんなを守るんだって……この町とみんなが大好きだって……」
「うん……そうだね……」
蘭季の瞳から大粒の涙が零れる
「うっ……なんで…なんで凛季が……グズっ……うう……あんなにこの町が大好きだった凛季が……居なくならなくちゃいけないのかなあ……うう……」
「蘭季ちゃん……! 」
恵理が蘭季を抱きしめる
小さく……肩を震わせ啜り泣く蘭季の身体と心を包むように
蘭季を抱きしめ囁く
「凛季ちゃんがね……私と義宗さんを……身体を張って守ってくれたの……亡者に1人で立ち向かって……凛季ちゃんが私達を守ってくれたの……」
「うう……うん……グズ……ヒッグッ……ううう……凛季……ヤダよぉぉ……私を置いて行かないでよお……グズっ……うう……うわあああんッッ……凛季ぃ……凛季いい……ウワアアアアアンッッ」
恵理の胸の中で泣きじゃくる蘭季
いつでも凛季と蘭季は一緒だった
2人で1つ……無くてはならない……半身同然の存在
もう戻っては来ない……大切な半身を失った蘭季
打ちのめされる非情な現実に……蘭季はただ……泣き崩れる
……蘭季ちゃん……
……私は本当に……誰も助けられない……祈るだけで……何も出来ない……
……あんなに小さな子が犠牲になるなんて……酷すぎる……
恵理は自身の力のなさと目の前の現実に悲しみの表情を浮かべる
……その様子を廃屋の影から壁に背をかけ腕を組み見守っていた亮佐……
ドタドタと荒い足音と共に獅子丸が恵理を呼ぶ
「お〜い! 聖女様〜! 兄貴が目を覚ましたぜ!! 」
……火亜流さんが……?
蘭季が恵理を見上げて恵理の腕を軽く外して言う
「ううっ……聖女様……私は大丈夫ですからっ……行ってあげてください……」
「蘭季ちゃん……」
悲しみに満ちた表情で涙を零す蘭季を放ってはおけない……
が……蘭季がそれを拒む
「凛季がこの町を守るため命をかけて戦ったんです……私はそんな凛季の意志を……絶対に無駄になんてしない……いつまでもクヨクヨなんてしてられません……でも今だけは今日だけは……このまま……少し1人にしてください……」
固い決意と悲しみの表情で蘭季は恵理から離れる
「分かったわ……じゃあ……私行くねっ……蘭季ちゃん……私はいつでも力になるから……1人で抱え込まないでね」
「グズっ……はいっ……聖女様……ありがとう」
立ち去る恵理
※廃屋の一室で目を覚ます火亜流※
「う……ここは……」
……俺は……あの炎の中で……そうだ足を……ガラスで
……ん?
火亜流は起き上がり負傷した足を眺める
が、そこに切り傷はひとつも残っていなかった……代わりにある火傷の痕……
……そういやあの時……アイツが撃った銃の弾を掴んだ時も気付いたら傷が無くなってやがった……
……それだけじゃねぇ……俺はこっちに来てすぐにあの甲冑野郎にもぶった斬られた……ありゃ間違いなく致命傷のはずだった
……どうなってんだ俺の身体……
バタンッ!
勢い良く扉が開き獅子丸と恵理が部屋に入ってくる
「兄貴ぃ! 俺心配で心配でっ! 」
火亜流に飛び付く獅子丸
ドガッ
獅子丸の顔面に火亜流の出した足が激突する
「うぐっ……兄貴ィ……」
ドサッ 獅子丸が倒れる
火亜流は少しだけ笑みをこぼす
「へっ……よォ……獅子丸……お前は怪我はねぇのか? 」
獅子丸が立ち上がり元気よく火亜流に身体を見せつける
「はい! 俺はこの通り無傷です! 」
火亜流が少し安堵したように呟く
「へへっ……やっぱりタフだなァ……お前は」
「兄貴程じゃありませんよ! 」
火亜流が獅子丸から視線を逸らし窓の外を見ながらうわずった声でハッキリしない口調で言う
「あぁ……まぁなんだ……お前の……アレだ……おかげでな……ほんの少し……助かった……みてぇな感じっつうか……」
火亜流の言葉に獅子丸が目を輝かせ尻尾を扇風機の如く回転させながら嬉々としている
「兄貴!? えっ……なんスか! もっとハッキリ! もっと分かりやすく! もっと俺を必要としてる感全開でもっかいお願いします! 」
火亜流が頭を掻きながら目を閉じ吐き捨てるように言う
「アァッ! うるせぇ! もう言わねぇよ」
恵理がその様子を微笑みながら見ている
「ふふっ……おふたりは仲がとても良いんですねっ」
火亜流はぶっきらぼうに返す
「なわけねぇだろ……こいつが言うから仕方なく使ってやってるだけだ……」
恵理が火亜流に近付いて心配そうにする
「本当にお怪我はないんですか? 倒れたと聞いてとても心配しました……」
……全くこいつは……いつも何か心配してやがるな……
「おう……少し腹が空いたくれぇだな……」
「あはは……それは良かったです……火亜流さんっあの」
何かを伝えようとモジモジする恵理
……なんだ?
「火亜流さん……! 助けてくれてありがとうございますっ」
「………」
深々と火亜流に頭を下げる恵理
「助けてねぇよ俺らがもっと早く着いてりゃあんな事には……」
恵理は首を横に振る
「そんな事はありません……私だけではなく子供達も……火亜流さんと獅子丸さんが助け出してくれたと聞いてます……2人になんて感謝したらいいか……」
恵理の言葉に火亜流は下を向く
「感謝なんざいらねぇよ……んなもんされるためにやったんじゃねぇ……それにまた俺は……全員を助けられなかった……」
……そうだ……何人か既に助からない状態の奴だっていた…
……そいつらを無視して生きてるやつを何人かは無理やり連れ出した……
……何が"優しい奴"になるだ……俺の力じゃ……結局……
「結局俺に出来るのはぶちのめして殺すだけ……あのデブ野郎だって俺は……」
恵理が火亜流の手を握る
「火亜流さん……私は……凛季ちゃんに守られるだけ、火亜流さん達に助けられるだけで結局あの状況で誰も私の手で救うことは出来ませんでした……」
恵理は悲しみに満ちた瞳で火亜流の手を握ったまま続ける
「火亜流さん……あなたのこの手は……子供達の命……その他のたくさんの命……あなたはかけがえのないものを守り救ったんです」
火亜流は下を向いたまま呟く
「俺の手が…… 」
恵理が静かに頷く
「はい……そうですよ……摩隠さんの時だって……止まってくれたじゃないですか……私の声を……ちゃんと聞いてくれた……」
「俺は……」
ドタドタッ…
……誰かが階段を上がってくる……なんだ……何人いる?
部屋に入ってきたのは燃え盛る建物から飛び降りて助け出した女性だった
「お前……たしか……」
「あっ……ああ良かった……! 私……どうしてもあなたにお礼を言わなきゃって……! 」
自分の事はいいからと妹を助けるようにと懇願してきた女性
目に涙を浮かべ、地べたに頭をつけ、まるで土下座のように火亜流に礼を述べる
「ありがとうございますっ! あなたが居なければ私達姉妹は助かりませんでした! 本当にありがとうございますっ……」
その様子に火亜流はひどく動揺する
「お、おい……んだよいきなり……頭上げろよ……」
「いいえっ! どうこのご恩を返せばよいか……」
そして新たに部屋に入ってくるもう1人の人物
「あ、あんたは……」
瓦礫に足を潰され身動きが取れなくなっていた男
男が火亜流の傍により両膝を付き祈るように火亜流に感謝の言葉を尽くす
「ぐっ……ありがとうっ、君が助けてくれなければ僕はあのまま消滅していた……僕は罪を償って先に転生した妻と必ずまた次の人生でも添い遂げると誓いを立てた……君が居なければ……僕は……本当にありがとうっ」
……俺が……
来客は途切れない、次に入ってきたのは焼け死んだ夫の傍らで泣き崩れていた女性
「あんたまで……」
女性は暗い表情ではあるが火亜流に微笑み感謝を述べる
「どうしても君にお礼を言いたくてね……生きることを諦めた私にあの時のあの言葉」
『生きろ!! そいつの分まで……てめぇが生きろ!』
「あの人の分まで私は生きなきゃいけないわ……助けられたこの命を大切に生きなきゃいけない……あの人の分まで……私を助けてくれてありがとう」
……俺の言葉なんか……
続けて入って来たのは倒れる前に助け出した男と老人
「あんたら…」
男が火亜流に頭を下げる
「俺は逃げ遅れた人を助け出さなければ、と必死に町を走り回って結果君に助けられてしまった……迷惑をかけてすまなかった! そしてありがとうっ……! 」
……やめろ……俺なんか……
老人が火亜流の元へ歩み寄る
「お若い人よ……ありがとう……婆さんを探し出すまでは消滅する訳にはいかないんじゃ……こんな老いぼれを必死に助け出してくれたこの恩……絶対に忘れはせん……」
……もうよしてくれ……恩なんざ……俺に……
……なんだってんだ……こいつら……
……揃いも揃ってよ……俺にありがとうなんざ……
……こいつらの為じゃない俺はただあの女の言葉を……
ーーお願いーー君はーー優しい人になってーー
……俺は自分が誰か知るために……
……ただそれだけのために……
恵理が再び火亜流の手を握り優しく声をかける
「火亜流さん……これが火亜流さんの守ったかけがえのないもの……この方達の未来をあなたはこの手で助けたんです……全てを助ける事は出来なくても……今は火亜流さんが救ったこの方達の言葉をしっかり聞いて受け入れてあげてください、お願い……」
……俺がこいつらの未来を……?
……助けた…? 救った…?
火亜流は部屋にいる自身が助け出した者達を見渡す
涙を流し頭を下げる女
祈るように感謝する男
生きることを決意した女
自身の力不足を痛感する男
救われたことを忘れないと誓う老人
……俺が守った……かけがえのないもの……
……なんだよこれ……
……感謝されるなんざ……
……そんなもん別に求めてるわけじゃない……
……でも少し……そう少しだけ……
……悪くねぇ気分だ……
貴重なお時間を割いて読んで下さりありがとうございます
お気軽に感想やいいね下さい!
ご指摘や御要望もぜひぜひ!