17話
火亜流 本作主人公
赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い
身体中は古傷だらけ ムッキムキ
恵理 本作ヒロイン
黒髪 ゆるふわな感じ タレ目 めちゃ美人 落ち着いた声
スタイル良し 白いシスター的な感じの服 身体にフィットしてる
亮佐
金髪 センターパート 火亜流と同い歳くらい
獅子丸
頭の右側刈り上げ 顔面の右側に牙を鬣たてがみで囲んだ印の刺青 革ジャン
義宗
白髪 眼鏡 白シャツ 柔らかい雰囲気
凛季
赤髪 ツインテール 赤肌 1本角の鬼の少女 蘭季の妹
蘭季
青髪 ボブ 青肌 1本角の鬼の少女 凛季の姉
※少し前の火亜流 亮佐 獅子丸 蘭季※
「イヤアア!! 町が……町が燃えてる!」
蘭季の叫びと共に火亜流が叫ぶ
「獅子丸ゥッッ! 頼む! 」
「……! ……はい! 兄貴! 」
獅子丸が馬車から飛び降りて身体を漆黒の獅子へと変える
「ガアアアアアアアッッ」
すかさず獅子丸の背中に飛び乗る火亜流
亮佐を振り返り火亜流が言う
「先……行くぜ」
亮佐は未だ立ち尽くしていたが火亜流の声にハッとする
「そんな……恵理先生……っ! ……待て……俺も! 」
亮佐が火亜流と獅子丸に手を伸ばすが
獅子丸は火亜流を乗せ隼の如き速度で町へと駆ける
「くっ……蘭季……! 俺達も急ぐぞ……! 」
蘭季が馬に鞭を打ち真剣な表情で呟く
「お願い……無事で居て……義宗……凛季……! 」
飛び出した獅子丸と火亜流
燃え盛る炎と空に舞う黒煙
「獅子丸……! こっちだ……こっちを真っ直ぐ行け! 」
「はいッッ! 」
……死ぬんじゃねぇぞ……
……あんたにはまだ聞きたいことがあんだ……
……俺の過去を知ってるあんたに……死なれてたまるか……
……それに……
獅子丸が何かを視界に捉える
炎を上げる二足歩行の怪物
それを囲む人集り
「兄貴! あれを! 」
獅子丸の言葉に火亜流もそれを視界に映す
全身包帯まみれの亡者……そしてその近くで銃口を向けられる恵理
「"先生"……!」
……間に合えっ……
……守るんだっ……
……今度こそ……
グガアアアアアアアアッ
獅子丸が到着し火亜流は恵理と摩隠の間に立つ
「獅子丸……あっちのバケモン……任していいか? 」
「はい……兄貴……」
銃を向けているふくよかな男を見る
……誰だこいつ……こいつがやったのか……
火亜流が振り向くとボロボロの姿で涙を流す恵理
腹を押さえ血まみれで同じく涙を流す義宗
その光景を目の当たりにした火亜流……何か……抑えきれないドス黒い感情に支配されていく
ビキビキと音が鳴るほど拳を強く……強く握り締める
銃口をこちらに向ける男に低く……冷酷な声で告げる
「やったのは……てめぇか……てめぇを……殺す」
摩隠が一歩後退する
「オッホッホ……おやおや……誰かと思えば外から流れ着いた流れ者」
※場面切り替わり獅子丸※
「ガアアッッ 兄貴に任された俺様が! こいつを殺る! 邪魔だァァお前ら離れろオオッッ」
漆黒の獅子の怪物の突然の乱入により一瞬町の男達は慌てるが人間の声で話すそれを救援と理解する
「父さん……! 父さん……! 」
背中の皮膚が全面剥がれ焼け爛れて煙を上げるわたるの父に必死に呼びかけるわたる
「うう……わたる……逃げるんだ……」
獅子丸が少年を視界に映し周りの男達に叫ぶ
「おい男共ッッ!!そこのガキと死にかけをはやく退かせッッ」
男達がわたるに駆け寄る様子を確認すると敵に視線を戻す獅子丸
「このくそバケモンがァ……てめぇが兄貴の町を燃やしやがったのかァッッ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛か゛か゛か゛あ゛あ゛あ゛」
亡者が獅子丸に首を向ける
……! 来る! まずい後ろにはガキが……!
ボオオオオッッッッッ
亡者の首から炎の渦が放たれ獅子丸を襲う
……ぐっ! ……があッ……
獅子丸は躱さずに前へ前身する
「ガアアアッッ! 火炎組若頭の俺様にィィ!! こんな生っちょろい火が効くかよオオッッッ」
炎を一身に浴びながら突き進み亡者の身体を獅子丸の前右脚の爪が襲う
「抉れろオオオオッッッ! 」
亡者は炎を地面に向けて噴射する
その反動により宙へ高く舞う
「なっ!? 」
そして首から伸びた炎の渦を薄く線のように集約する
それはまるで炎の剣……
首から炎の剣を生やした亡者が回転しながら落下する
ザッッッ!!!
それを横に跳ね回避する獅子丸
が……続けざまに首から伸びた炎の剣を振り回し獅子丸へ向かう首無しの亡者
ブォンッ! ブォンッ!
「こ……こいつッッ! 」
亡者の炎を避け獅子丸も身体を回転させ鉄の鞭ともいえる尻尾を亡者の上半身に叩き付ける
ドガッッ!
「あ゛あ゛あ゛ッ」
獅子丸の尻尾が直撃し亡者の身体が後方の民家に吹き飛ばされる
ドシャアッッ
「か゛ッ」
ダメージを負った様子の亡者にさらに追撃をする獅子丸
亡者は瓦礫の中から立ち上がり首の炎を獅子丸に向けて散弾銃のように放つ
バシュンッバシュンッバシュンッッッ
「グガアッ!」
獅子丸は顔面と右前脚に火の散弾を浴び痛みに顔をしかめる
「痛えなアアアッッッ! 」
それでも止まる事のない獅子丸に亡者が後退しようとする
が後ろは民家の壁
「兄貴に引き裂かれた足の痛みはこんな生易しいもんじゃなかったぜエエエッッ!! 」
獅子丸の爪が亡者の首から上半身を抉り裂く
ザシュンッッッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛」
そして亡者の足に鋭い牙で噛み付く獅子丸
そのまま首を全力で左右に振りながら亡者の身体を地面に強く打ち付けながら走り回る
「オラオラァッッ! 火炎組若頭の獅子丸様のお通りだぜェェ!! 」
亡者にもはや抵抗の余力はなくだらんと垂れ下がって引きずられるその身体を獅子丸は民家の壁に再度振り回し叩き付け続ける
「兄貴と俺様に宿る心の篝火のオオッッ勝ちだアアアッッ! 」
高く上へ跳ねもはや死に体同然の亡者の身体を落下の衝撃により地面に強く叩き付ける
ズガアアアンッッ!
「あ゛っ……あ゛ 」
首から上半身まで爪で引き裂かれ
足には鋭い牙により穴が大きく空き
全身を強く打ち付けられた亡者の身体がズタズタになり地面に転がる
それを観戦していた町の男達が沸き立つ
「やったのか……は……はは! やったー! 」
「亡者を倒したぞー! 」「ライオンの兄ちゃんが勝ったぞ! 」
わたるもそれを見て父に言葉をかける
「父さん! やったよ……! ライオンさんが助けてくれたよ! 」
わたるの父が弱々しい声で呟く
「そ……そうか……わたる……安全な場所へはやく行くんだ」
わたるが泣きながら父の手を握る
「父さんも! 父さんも一緒に逃げなきゃ……! 」
わたるの父が穏やかな顔になる
「父さんな……もう……痛みを感じないんだ……身体中痛くて熱くて苦しかったのに……もう……俺は助からない……わたる……お前だけでも」
「そんな……父さん……ううっ……」
わたるの父が涙を流し優しい笑顔でわたるの頭を撫でる
「わたる……約束……守れなくてごめんな……こんなダメで出来損ないの俺の最後のお願いを……聞いてくれるか……? 」
わたるが父を見つめて頷く
「生きて生きて……生き続けるんだ……そして俺が果たせなかった約束……次の人生へ転生して暖かい家庭を幸せな家族を……お前が作るんだ……強くて勇気のあるお前に……託す」
「うう……父さん……ボク……グズっ……うん……分かった……」
「わたる……ずっと……ずっと……弱い父さんで……すまなかった……母さんに……俺は何も出来なかった……最後にお前を守れて……良かった……」
だらん……と握っていた父の手が地面に生気を無くし落ちる
穏やかな優しい顔で……父の身体が薄く光り……天に昇って行く
わたるがそれを見届け泣きじゃくる
「ううっ……うわあああん……あ”あ”あ”あ”…父さあああん……母さあああん……ううっ……」
わたるの泣き声が燃え盛る炎の中で反響する
※火亜流 恵理 義宗 そして摩隠※
「オッホッホ……あなた1人に何が出来ると言うのですかな? その町長はまもなく消滅……町は既に灰となる運命……ん? 」
火亜流の顔が炎に照らされてその瞳が摩隠に映る
その瞳に光は無く……まるで機械のように無機質な眼差し
……このガキ……なんですかな……この感覚……
……銃を向けているのは私……なのに……私の身体が……
……私の全細胞が……今すぐ逃げろと告げている……
摩隠の銃を持つ手が震える
……私が……この状況で怯えている……?
……このガキのこの目……これはまるで……"あのお方"の……
火亜流が摩隠に向かって歩き出す
「く……来るなああ! 撃つぞお! 」
火亜流は足を止めず摩隠へ歩を進める
「ぐっ……グギギ……し、死になさいい! 」
恵理が叫ぶ
「危ない……! 火亜流さん……! 」
バァァンッッ!
銃弾が放たれる
「ホホ……ば、馬鹿なガキめ……大人しく逃げていれば……おや……? 」
シュゥゥ……
火亜流が左手の刺獄で銃弾を中指と人差し指の間で掴む
「ホッ……? ……ば……!……馬鹿な……」
何事も無かったかのように再度歩き出す火亜流
ザッ……ザッ……ザッ……
その歩みに摩隠は全身の震えが止まらない
「と……とととと止まれえええっっ! ……」
……そうだ……止まらないなら……
摩隠は銃口を火亜流から少しズラして恵理に向ける
「止まらないならその女から先に撃ち殺しますよおおん!? 」
ピタリ……と火亜流の歩みが停止する
無言のまま真っ直ぐ瞬きもせず開いた眼を摩隠から外さない
「オホホホホォォッッ! あなたがいけないんですよおお! 」
バァァンッッ!
恵理に向けて銃を撃つ
恵理はギュッと目を閉じ身体を強ばらせる
が……
シュゥゥ……
放たれた弾丸が命中したのは火亜流の右手
弾丸の速度は秒速400m(時速1440km)
見て躱すことは人間の視力では不可能のそれを火亜流は掴む
無論掴んだ右手は無傷で済むはずもなく弾痕からは出血と焦げるように煙が上がる
「ひ、ひいいい……ば……化け物めええ……」
「獄道術……迅獄」
火亜流の身体があまりの速度に摩隠の視界から消える
かと思われた瞬間、目の前に火亜流から伸びた右手
ボウッ……
先程……弾丸を掴んで負傷した右手から真紅の炎が突然現れる
右手が焼けるような感覚……痛み……熱さ……
だが火亜流はそれを意に介さずその右手をそのまま摩隠の口の中へ突っ込み下唇……下顎を同時に掴む
そのまま下へ……まるで柔らかい紙を引き裂くように
摩隠の下顎を引きちぎる
ベリベリベリッッッ ブシャアアアアッッッッ!
「かっ……!? ……ゴファアッッ」
音を立てて摩隠の肉が引き裂かれ大量に出血する
そのまま最初に弾丸を掴んだ左手の刺獄の中指と人差し指
凶器と化した二槍の鋭い指を摩隠の目に突き刺す
ブシュッッッ
火亜流の刺獄は指の根元まで突き刺さり摩隠の眼球を貫通し奥の三叉神経を引きちぎる
「ケハァッッッ……カフッ……カッ……」
顔の下半分が消失した摩隠の声にならない声
視力と三叉神経を失い顔の感覚は消え失せよろめき藻掻く事しか出来ない摩隠
「カハッ……カハッ……ヒィ……ヒィ……」
ボタボタと血を流しながら彷徨う摩隠にトドメの一撃を加えんとする火亜流を恵理が制止する
「待って……火亜流さんっ」
……無言で恵理に振り返る火亜流
「……っ! ……火亜流さん」
光無き眼の火亜流に恵理は一瞬身を震わせるがすぐに持ち直し火亜流の腕を離さず続ける
「ダメです……火亜流さん……それは……それ以上は……」
「離せ、こいつは殺す」
「私もこの人を許すなんて出来ません……それでも……」
「こいつを生かしてどうなる? こいつが反省するとでも? 」
恵理は言い淀む
……それでも……
……それでも私は……
「チッ……分かったよ……いいから離せ」
火亜流の目がいつもの様子に戻る
そこへ遠くから走りながら叫ぶ亮佐の声
「恵理先生いいいい! ご無事ですかあああ! 」
蘭季と亮佐が現場に到着する
横たわる義宗に蘭季が駆け寄る
「義宗! しっかりして! 義宗! 」
「う……蘭季……みん……なを……早くっ……」
火亜流はわたるに駆け寄る
「わたる……悪ぃ……遅くなった」
涙を流しながら火亜流を見上げるわたる
「ううっ……ヒッグ……火亜流さん……うっ……」
「よく頑張ったな……立てるか? 」
「う、うん……」
わたるの無事を確認し火亜流が教会の中へ走る
そしてそれに続く人間の姿に戻った獅子丸
「ハァ……! 兄貴……! あの亡者は俺が片付けました! 褒めてください! 」
礼拝堂を走り抜ける火亜流と獅子丸
「獅子丸……そいつは後だ……中のガキ共を全員外に運び出す……手ぇ貸せ! 」
「了解です! 兄貴! 一階は俺が! 」
二手に別れて子供達を運び出す火亜流と獅子丸
そして恵理は亮佐と共に町の男達に駆け寄る
炎が燃え移り火傷を負って倒れている者
煙を吸い込み苦しみながら咳をする者
「恵理先生……申し訳ありません! 遅くなりました……早く避難を!! 」
「ダメよ……亮佐くん……! まだ子供達が中にいるの……! 助けないと……! 」
「それは奴らに……あの野蛮人達に任せましょう! 奴らならきっとアイツらを無事に連れ出してくれます! 」
「亮佐くん……ゴホッゴホッ……ハァ……ハァ……」
恵理が咳をしながら倒れ込み、それを亮佐が支える
「恵理先生! しっかり! 」
恵理を抱える亮佐
……火亜流……ガキ共を任せたぞ……お前なら……きっと……
町の住民達が消化活動と避難でごった返しになる
亮佐は恵理先生を運び出す
そして義宗を抱えた蘭季が亮佐の横に並ぶ
「亮佐さん! こっちです! 町の外れにある川に面した使われてない廃屋に! 」
「蘭季っ! 分かった!! 」
蘭季、亮佐が炎の中を駆ける
※炎が燃え盛り灼熱に包まれる教会※
火亜流は二階へ駆け上がり部屋を1つずつ開けて回る
「おい! 逃げ遅れたやつはいねぇか! 」
二階の奥の一室で子供達が固まって泣きながら震えていた
「グズっ……ああ……かーる兄ちゃん……」
「うわああん怖いよおお熱いよおお」
「先生〜! 助けてええ」
火亜流が見つけた子供達……
それは初めてここで目が覚めたあの日……教会を案内してくれた3人の子供達だった……
「てめぇら! 動けるか!? 出るぞ! 」
子供達を立たせ怪我が無いことを確認すると火亜流が1人を背負い2人を両脇に抱えて部屋を出る
「離すんじゃねぇぞッ! 絶対離すな! 」
火亜流が走りながら階段を降りる
「獅子丸ゥゥ! 生きてるかァ! そっちはどうだ!? 」
「兄貴ー! 一階に居たガキは全員運び出しました! 」
教会の入口から聞こえた獅子丸の声
……良しッ……
教会の中から子供達を抱えて連れ出す火亜流
……これで全員か……
「獅子丸……お前のあれは何人まで運び出せる? 」
同じく両脇に抱えた子供達を地面に置き獅子丸が答える
「こんくらいのガキなら10人は楽勝です! 」
自信満々に答えながら獅子丸は漆黒の獅子へと変体する
「良し……ガキ共! こいつの背中に乗れ! わたる! お前もだ」
「うん分かった……! 」「先生〜! 」「うわああん 」
わたるを先頭に子供達は泣きながら獅子丸の背中に乗る
「しっかり掴まってろよ! ガキ共ォ! 」
飛び出す獅子丸に火亜流が叫ぶ
「獅子丸! 亮佐と青いのを追えッッ! 」
「了解しました! 兄貴! 兄貴も早く来てくださいね! 」
獅子丸に子供達を預け火亜流は燃え盛る町を見渡す
「くそが……これじゃここはもう……」
町の男達が必死に消化活動をしているが炎の勢いが弱まる事は無い
火亜流は男達に叫ぶ
「おい、 てめぇらも早く避難しやがれ! 死にてぇのか! 」
町の男がそれぞれ答える
「ここは俺達の帰る場所なんだ! 見捨てられるか! 」
「そうだ! 全員が避難するまで俺はここに残る! 」
「おーい! まだこっちに避難出来てない奴がいる! 」
火亜流は男達の声の一つ……助けを求める声に走り出す
「チッ……! 馬鹿野郎共が……! おいっ! 避難出来てねぇのはどいつだ! 」
「こっちだ! この建物の中に……! 」
建物の中へ走り出す火亜流
「お……おい兄ちゃん!! 危ねえ! 戻れ!! 」
……クソが! ……クソが!
……死なせてたまるか……!
……もう誰も……! ……今度こそ……!
炎の中、階段を駆け上がる
「どこだァッッ! どこにいやがる!! 」
「誰かあああ! 」
……!? ……隣か!
バタンッ!
「おい! 生きてるかァッ! 」
扉を開けるとシーツに包まり座り込む2人の女
火亜流と同じ歳程の女性と…… わたると同じ程の少女
「あぁ……妹を……妹を助けてください!お願いしますっ! 」
火亜流が駆け寄り少女を抱き抱える
苦しそうに呼吸を整えながら息がか細くなっていく少女……
「ぐっ……やべぇ……急がねぇと……おい! あんたもだ! 早く立て! 」
女性が火亜流に痛みを我慢するように苦しそうな声で言う
「私は落ちてきた屋根からこの子を庇って……ぐっ……足が……私の事は良いの! 早く妹を……! 」
火亜流は無理やり女性を引き上げ肩に担ぐ
「黙りやがれェ……絶対……絶対死なせてたまるかよォ……」
「そんな……無茶ですっ……1人で私達を抱えて脱出するなんて」
片手で少女を抱え肩にかけた女性を片手で押さえ
火亜流は扉を蹴る
「ラァァッッ! 」
勢い良く飛び出し階段まで行く……が
既に階段は焼け落ち退路が消え失せている……
ボウウウウッ
ゴォォォォォオオッッ パキッ…パキッ…
建物は既に炎に支配され進路も退路もない
火亜流は振り返り炎の廊下を突き進む
「ウオオオオッッ! 」
廊下の突き当たりにあるガラス窓を蹴りで突き破る
その足にガラスの破片が突き刺さり出血する
窓枠に足をかける
「しっかり掴まれ……歯ァ……食いしばれェ……! 」
火亜流は飛んだ
上空20メートルはあるかと言う建物の二階から
2人の人間を抱えたまま飛び出す
そして落下する
ドスゥゥンッッ
「ぐっ……! 」
足に来る激しい衝撃はそのまま全身へと駆け巡る
刺さったガラス片を抜かないまま2人を地面に下ろす
「おい! てめぇらァ! こいつらを運べぇ! 」
先程の男が走り寄る
「……! ……あれは……! 奇跡だ!! おい兄ちゃん!あんたやったんだな! 」
「早くしろォッ! 運び出せ! 」
火亜流の叫びに周りの者が集まり女達を抱え込む
「あ……あの! ありがとう……あなたの名前を…」
女の声を無視し再び火亜流は走り出す
「ハァ…… ハァ……逃げ遅れた奴ゥッ! 怪我した奴ゥッ! いねぇか! 」
誰かあ……足が挟まって……動けないんだあ……
いやあああ……あなたっ! あなたしっかりしてええ!
ゴホッゴホッ……煙が目に入って……何も……
おーい! こっちで老人が! 誰か来てくれ!
見渡す限りの叫び……唸り……悲痛な助けを呼ぶ声……
「ハァッ……ハァッ……全員だ……全員……助けねぇと……ハァッ……ハァッ……」
足の痛みに口を歪めながら歩き出す
若い男の足を潰している瓦礫に手をかける
「ぐあああああッッ! 今だ! 出ろ! 」
「ハァッ……ありがとうッ……ありがとうッ……」
火亜流は走り出す
倒れ込み動かなくなった丸焦げの男の側で泣き崩れる女性
「おい! 止まるな! そいつはもう……あっちまで走れェ! 」
「あぁ……あなたっ……うう… 」
火亜流は無理やり女性を抱える
「離してっ! 私もあの人と一緒に……! 」
「黙れェ! させるかよ! 生きろ! そいつの分まで……てめぇが生きろ! 」
「うう……っ……あなた……あなたあああ! 」
救助活動をする男達に女性を引き渡す
火亜流の足が痺れ、鈍い痛みと共に感覚が薄れていく……
目を擦り咳き込む男……
助けを求める倒れた老人……
2人を抱え……火亜流が炎の中を進む
「諦めるな……諦めるな……止まるな……ゔっ……」
視界がボヤける……火亜流の顔は煤まみれで黒ずみ
煙を吸い込み意識は朦朧とする
「助けろ……死なすな……絶対……今度こそ……誰も……」
男と老人を救助隊に預ける
「ハァッ……ハァッ……次ィ……」
「おい君……! 君も早く避難するんだ……! そんな身体で……」
「黙れ……! 助けるんだ……守るんだ……誰も……うっ……」
視界が暗転し意識が薄れていく
平衡感覚を失い立っている事もままならない
ドサッ
火亜流の身体が地面に倒れる
「おい……! しっかりするんだ! 誰かああ 」
……ちくしょう……立たねぇと……助けねぇと……
……また失う……もう……あんな気持ちは……あんな苦しみは
……ちくしょうッ……
貴重なお時間を割いて読んで下さりありがとうございます
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