15話
火亜流 本作主人公
赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い
身体中は古傷だらけ ムッキムキ
亮佐
金髪 センターパート 火亜流と同い歳くらい
蘭季
青髪 ボブ 青肌 1本角の鬼の少女 凛季の姉
豪鎧
白髪 オールバック 紫肌 2本角 髭いっぱい 霊楽町の長
沙羅紀
白髪 結んでる 紫肌 1本角 豪鎧の娘 男勝り
獅子丸
頭の右側刈り上げ 顔面の右側に牙を鬣たてがみで囲んだ印の刺青 革ジャン
幽忌
黒と白の斑になった柔らかい髪 可愛い系
火亜流が豪鎧の屋敷へ帰宅する
玄関を開けるとそこへ出迎えたのは
「兄貴ィィィッッッ!!! 」
主人の帰りを一晩中待ち続けた飼い犬のように尻尾をブンブン振り回しながら火亜流に抱きつく獅子丸
そしてそれを陽炎で躱す火亜流
ドガッッ!
玄関の扉に勢い良く顔面から衝突する獅子丸
「ゴフッ……兄貴ィ……酷い……俺ずっと待ってたんスよ」
「おう、ちょっと殺人鬼と殺し合いをな」
「あっははなるほど〜殺人鬼と〜……ん? 」
獅子丸の表情が固まる
……え? 兄貴今何て言った?
「兄貴、えっ……殺人鬼って? 」
「そういやお前には悪い事しちまったなァ……俺が先にアイツをぶちのめしちまった」
獅子丸は状況が上手く飲み込めず火亜流に確認する
「えーっと……ん? えっ……兄貴がつまり殺人鬼を見つけて……ん……ぶちのめした? 」
「見つけたのは沙羅紀だけどな」
「マジすか!? 」
「おう、今から行けば間に合うんじゃねぇのか? 昨日の東門だったっけなァ……」
「俺ちょっと行ってきます!! 」
獅子丸が走りながら屋敷を出ていく
階段を上りながら自身の疲労を確認する
……さすがに疲れたな……
……炎転に落獄絶火……何度も連発は出来そうにねぇな……
……そういやあいつに切られた頬の傷……ん? ……
幽忌の雨貫によって頬に入った傷がいつの間にか無くなり綺麗な状態になっている事に気づく
……? どうなってんだ……?
……とりあえず疲れたぜ……寝るか
火亜流は階段を上がり客室の1つに入るとそのままそこで眠る
※火亜流の夢※
ーーくんーー火亜流くんーー
ーー君はーー優しい人になってーー
……またあんたか……そいつは難しい注文だぜ……
ーー君は強いからーー大丈夫ーー
……わたるの母親を助けられなかった……
ーー強くて優しいーー立派な大人になるのーー
……強くて……優しい……?
ーー火亜流くんならーーきっとなれるーー
……あぁ……なる……なってやる……
ーー約束だよーー
「せ……ん……せい……」
火亜流が薄目を開ける
……夢か……
……またあの夢……
……あの声……恵理って奴の声と同じ……なんだってんだ……
ドタドタドタッ
誰かが階段を上がって来る
バタンッ
現れたのは蘭季だった
「火亜流さん聞きましたよ〜! 」
「おう青いの」
「すぐに来てください! 急ぎで! 」
蘭季は忙しない様子で部屋を出る
状況が分からないまま寝起きの火亜流が蘭季に着いていく
蘭季が向かった先は初日に会合した客間だった
「豪鎧さん! 火亜流さんを連れてきました! 」
部屋を見渡すと
亮佐、獅子丸、沙羅紀、豪鎧、そして警備隊の者が数名揃っていた
「なんだよ、なんかあったのか? 」
豪鎧が火亜流を見て言う
「ウム火亜流よ沙羅紀からお主の活躍は聞いた……此度の件では我が娘、沙羅紀が随分と世話になった」
「別に世話してねぇよ」
「いや火亜流……お主の働きはワシの想像以上であった、町を救った英雄よ」
「よせよ…」
豪鎧の顔つきが厳しくなる
「火亜流……幽忌が消えた……」
「あ? 」
沙羅紀が言う
「火亜流……お前が帰ったあの後すぐに幽忌を病棟に運んだんだ……あの状態では動くことはおろか目覚めるのもしばらくは無理だろうと医者も言っていた……だが……しばらくしてこれを残して奴は病棟から姿を消した」
沙羅紀から手渡された紙を火亜流が受け取る
それは幽忌から火亜流への書き置きだった
そこに書かれていたのは
【また殺ろう火亜流、君を愛している】
「なんだこりゃ……」
客間の皆も分からないといった様子で顔をしかめる
口を開いたのは獅子丸
「ふざけやがって……イカレ野郎め……次会ったら俺様が絶対八つ裂きにしてやる」
蘭季は不安そうに豪鎧に尋ねる
「えっとこれはつまり……まだ解決はしてないって事なんですかね〜? 」
腕を組み怪訝そうな顔をする豪鎧
「ウム……だがあの傷ではしばらく奴も身を潜めるしかなく表には姿を現さんだろう……」
亮佐が前に出て言う
「ふんっ通り魔は俺が潰した、殺人鬼の顔は割れた、この件は解決したも同然だろう? 俺達はいい加減帰らせてもらうぞ」
「ウムそうだな……これ以上お前達の力を当てにしてはワシらの立つ瀬がない、火亜流……亮佐……蘭季……貴殿らには随分と助けられた、この町の長として心から礼を言わせてくれ」
豪鎧が3人に頭を深く下げて礼を述べる
それに続いて沙羅紀、警備隊の者達も皆一様に頭を下げる
「やだな〜あはは……なんだか照れちゃいます〜」
「ふんっ……俺は別にこの町のためにやった訳では無い」
「………」
無言で幽忌の書き置きを見続ける火亜流
「けっ……じゃあここでの用は済んだって訳だ」
「ウム! ここから先はワシらが頑張らねばならん! 火亜流、亮佐、蘭季、またいつでもこの町へ立ち寄ってくれ貴殿ら英雄ならいつでも歓迎するぞ! 」
「おう、気が向いたらな」
豪鎧と火亜流の会話を聞きながら火亜流を見つめる沙羅紀
「それじゃあ帰りましょうか! 兄貴! 」
獅子丸が笑顔で火亜流に声をかける
それをしかめっ面で見る亮佐
「おい貴様ライオン……まさかとは思うが閑慈乃町まで貴様も着いてくる気じゃあるまいな? 」
「当たり前だろ? 俺様の行く道は兄貴の行く道だ! 地獄の何処へだろうと兄貴が行くなら俺様も行くぜ! 」
「なっ……ふざけるな! 貴様のような顔面刺青まみれの獣を恵理先生に近付けるなどこの俺が許さん!! 」
「はあ!? なんスか!? アンタには関係ないだろ! 」
「関係ありまくりだこの忠犬バカが! そこの狂犬だけでなく貴様のような野蛮な生き物がこれ以上増えるなど見過ごせるか! 」
「あはは〜……帰りも賑やかな道中になりそうです〜」
騒がしい様子の客間
言い合いをする亮佐と獅子丸を他所に沙羅紀が火亜流に近付く
「か、火亜流……出立する前に少し話したいのだが……」
「あん? なんだよまだ何か用か? 」
「いや用という程の事ではない……こ、こっちに来てくれ」
火亜流を引っ張り部屋から出る沙羅紀を見ながら優しく目を閉じ微笑む豪鎧
客間を出てすぐの廊下で沙羅紀と火亜流が話す
「なんだよ話って」
火亜流はぶっきらぼうに言葉を投げる
「どうしてもお前に、その……礼を言いたかった」
「礼だァ? んならあのジジイに十分言われたぜもういらねぇよ」
沙羅紀は目を閉じて自分の胸に手を当てる
「いや……そうではないんだ……火亜流……お前は私に大事なことを思い出させてくれた……大事なことを教えてくれた……」
「俺が? 」
霊楽町に来たばかりの時に出会った沙羅紀の表情とは違い沈んだ暗い顔の沙羅紀
「あぁ……私はこれまで自分1人で頑張らねば……と周りを見ることなく一心不乱に走り続けてきた……結果はお前の知る通りあのザマだ」
「………」
「お前がこの町に来なければ……お前と出会わなければ、私は今も自分1人で走っているだけのお飾りの隊長だっただろう……礼を言わせてくれ……火亜流……ありがとう」
火亜流の目を真っ直ぐに見つめ感謝を述べる沙羅紀
「ったく……参ったなァ……俺は別になんもしてねぇよ」
「そんな事は無いさ……何もして来なかったのは私の方だ、周りを見ず1人で走り続けるダメな隊長……そんな事だから隊員であった幽忌の抱える"闇"に私は気付く事すら出来なかった未熟者だ」
……私は私が思っているよりずっと弱かった……
……もっと早くに気が付かなければならなかった……
「なァ沙羅紀」
……火亜流……こいつは私が思うよりずっと先を走っている
……ふ……本当に私は情けない……
「なんだ、火亜流」
……この男に私は追いつけるだろうか……
「教えられたのは俺も同じだぜ、俺は殺そうと向かってくる奴を殺す以外で止める方法なんざ考えた事も無かった」
沙羅紀にとってそれは予想外の言葉だった
火亜流は続ける
「だがお前はそれ以外の方法を持ってた……俺に出来ねぇ事をお前はやろうとしてた……お前が未熟者だってんならそいつは俺も同じだ」
「……」
火亜流の言葉を沙羅紀は噛み締めるように心に刻む、取りこぼさないように忘れないように
……この男は私とは違う、あの強さ……だが……
「へっ……"優しい奴になる"って道のりはやっぱり甘くねぇよなァ……沙羅紀」
……
……本当に変わった奴だ……お前は……
「あぁ……そうだなっ……」
火亜流は真っ直ぐ沙羅紀の目を見つめて笑顔で言う
「なら"競走"だぜ沙羅紀、どっちが先に"優しい奴"になれるか……俺と勝負しようぜっ」
沙羅紀にとって思いもよらない言葉
沙羅紀の顔の雲が晴れていく
……っ
……競走……
………私と……っっ……ふふっ……
沙羅紀の顔にかかっていた霧……自身の不甲斐なさ弱さ……
纏っていた霧が晴れまるで太陽が差したように明るさを取り戻す
「"競走"……ははっあははははっっ競走かっははは……ああ! そうだな競走だなっ火亜流! だが私は負けるつもりはないぞっ」
笑顔が戻った沙羅紀の表情に火亜流もまた笑顔を返す
「へっ……おう、望むところだぜ」
沙羅紀が右手を差し出して握手を求める
「火亜流、本当にありがとう……私はお前と出会えて良かったっ……またなっ」
差し出された手を右手で握り返す火亜流
「おう、またな沙羅紀」
交わした握手……共に足らない者同士で繋いだ約束
……忘れない……私は……自分が誇れる隊長になる……!
客間の扉の裏に背を掛け腕を組み微笑みながら呟く豪鎧
「強くなったな……沙羅紀」
客間から蘭季、そして亮佐と獅子丸が姿を現す
「では皆さん〜! 閑慈乃町へ帰りますよ〜! 」
蘭季が元気良く出立の呼び声をかける
火亜流、亮佐、獅子丸、蘭季は豪鎧の屋敷を後にし東門へ進む
その様子を民家の屋根の上から見つめる1つの影……
「アァッ……火亜流……火亜流……僕の火亜流……ンフフッ……恋しいよ……また……必ず会いに行くからねっ……」
東門に辿り着いた一同を獄党会のゴロツキが綺麗に整列して待っていた
「「「「お勤めご苦労様でした! 組長! 」」」」
亮佐と蘭季、そして火亜流がポカーンとする
「ん? 組長? このライオンの事か? 」
疑問を口にする亮佐に蘭季も頭に? を浮かべる
「さぁ〜? 」
獅子丸が獄党会に向けて別れの挨拶をする
「お前ら……俺様は組長と共に真の男を探す旅に出るぜ……ここの事はお前達に任せたぜ! 俺達 "火炎組" は離れていてもいつも心は1つだ! 」
「はい! 頭! 」「頭もお元気で! 」「頭! 達者で! 」
亮佐が獅子丸に疑問を投げる
「おいライオン……お前達は獄党会……というのでは無かったか? なにやら火炎組とか聞こえたが……」
「そうさ! 俺様達の組織は兄貴を組長として火炎組として生まれ変わったんだ!! 」
嬉々として語る獅子丸を呆れた様子で見る亮佐と蘭季
「いや……それ火亜流さん知ってるんですか〜? 」
「それは当然……あっ……」
獅子丸は出立の準備で忙しく火亜流に組を立ち上げた事、火亜流が組長であるという事を伝え忘れていた
馬車に乗り込もうとする火亜流に亮佐が声をかける
「おい……貴様何やら組長になったらしいが」
「あん? くみちょー? なんだそりゃ」
「いや俺も何がどうなっているのかさっぱり分からんが」
亮佐の話を話半分に聞きながら馬車に乗り込み目を閉じる火亜流
「よく分からねぇが俺は少し寝るぜ……じゃあな」
火炎組を放置し馬車で一眠りする火亜流
それに続き乗り込む亮佐と獅子丸
そして前で馭者となる蘭季
日が落ちる前の夕暮れの中、東門から出立する一同
霊楽町での数々の戦いと思い出を皆一様に思い返し閑慈乃町への帰路を急ぐ
馬車の前部で馬を引く馭者の蘭季がふと亮佐達に話しかける
「そういえば火亜流さんは最後に沙羅紀さんと何を話してたんですかね〜? 」
亮佐は興味無さげな様子で言う
「ふんっ……おそらくはこの野蛮人の出した被害の損害賠償でも求められていたのだろう」
蘭季は何やら楽しそうな様子
「いやいや〜私の読みではあれですね〜2人は"恋仲"になったのでは……と! 」
突然動揺し出す獅子丸
「何だって!? そりゃないぜ……! 俺は絶対そんな事は認めない! あの隊長を俺様が "姐さん" と呼んで慕い敬うなんざ俺様には不可能だ! 」
「いやいや〜別に獅子丸さんが認めなかろうと関係ないとは思いますが……」
それを聞いていた亮佐が得意気に笑う
「ふんっ……ふふははっ! この野蛮人に恋仲の女だと? ありえんな! ないない、あるはずが無い! 見ろこの凶悪な目と腑抜けたバカ面を」
「なっ! おい金髪! 兄貴の悪口は俺様が許さないぜ! 兄貴の顔は超カッコイイっつーのっ!! 」
2人の不毛な言い争いを他所に蘭季は屋敷での沙羅紀を思い返す
「ん〜まあ恋仲ではないとしても〜なんか沙羅紀さんずーっと火亜流さん目で追ってたし〜これはやはり恋の予感……! 」
「ふんっ……くだらん」
「ウンウン、ないっス! 兄貴に恋人なんて俺様が居れば必要ないっス!」
「うわ……貴様まさか……キモッ」
「ンガアッ! 何か言ったッスか!? 」
「こっちに寄るな……貴様は一定の距離を取れ」
そんなやり取りが続く中、火亜流が突然ガバッと起き上がる
「ありゃ〜火亜流さんおはようございます! 」
「……」
無言のまま固まる火亜流を覗き込む亮佐
「おい……貴様寝ぼけているのか? 」
「……やべぇ……」
「兄貴…? 」
一同が火亜流の異様な姿に戸惑う
「おいッ! 青いの! 」
「ひゃっ!? はっはい? どうしたんですか急に……」
「町まで後どれくらいだ!? 」
「へっ……? もう少ししたら見えてくると思いますが……」
「急げェッ! 」
火亜流が叫ぶ
亮佐、獅子丸が火亜流のただならぬ様子を見つめる
「あ……兄貴一体……」
火亜流の頬を汗が伝う
「……匂いだ」
「へっ? 匂い? 」
「クソがッッ……どうなってる……何でこの匂い……間違いねぇ」
蘭季が異変に気付く
「あれ……ちょ……ちょっと待てください……たしかに何か変な匂いが……これは……焦げ臭いような……? 」
亮佐 獅子丸も異変を察知して顔から血の気が引く
「おい……なんだ……この焦げ臭い匂いは……まさか」
ガタンゴトンッ
馬車が小山を超え閑慈乃町を見渡せる道に差し掛かる
火亜流は立ち上がり汗ばんだ額を拭い"それ"を目に映す
亮佐が口を開けたまま"その光景"に言葉を無くす
獅子丸が口を歪ませ驚きと衝撃で立ち尽くす
そして……蘭季が叫ぶ
「イヤアア! 町が……町が燃えてる! 」
一同の目に飛び込んだ信じられない光景
閑慈乃町から出発した時の風景から一転
町は赤く色めき漆黒の雲が至る所からが立ち上り
ゴオオオオと音を立て炎に包まれていた
貴重なお時間を割いて読んで下さりありがとうございます
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