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地獄転生 〜業火の拳で取り戻す失われた記憶と贖いの冒険譚〜  作者: さくさくメロン
第一部 記憶の断片
11/20

11話


火亜流(かある) 本作主人公


赤髪 前髪はセンターから逆上げ 瞳は橙色 目付きが悪い

身体中は古傷だらけ ムッキムキ


亮佐(あきすけ)


金髪 センターパート 火亜流と同い歳くらい


蘭季(らんき)


青髪 ボブ 青肌 1本角の鬼の少女 凛季の姉


豪鎧(ごうがい)


白髪 オールバック 紫肌 2本角 髭いっぱい 霊楽町の長


沙羅紀(さらき)


白髪 結んでる 紫肌 1本角 豪鎧の娘 男勝り






 火亜流、亮佐、蘭季は椅子に座り直し


 向かいに座る豪鎧 そして入口付近に立つ沙羅紀、ゆうき


 話は続く


「ワシや沙羅紀の警備隊でも調査は進めておるのだが一向に犯人の足取りはおろか糸口も掴めてはおらんのだ……もはや行き止まりでな……だが被害は確実に毎夜の如く頻発している……すまないが協力して欲しい」


 蘭季が豪鎧に尋ねる


「怪しい人は本当に1人も居ないんですか? 」


「ウム……夜は警備隊が常に見張りを立て町中を巡回しているし住民の夜間の外出も規制しておる……怪しい者……やはり」


 豪鎧は言い淀む


「心当たりはあるんですね? 」


 それに答えるのは警備隊主任、豪鎧の娘である沙羅紀


「私達が犯人だと疑っているのは獄党会(ごくとうかい)の奴らだ…囚われていた囚人達の中には奴らの仲間が多かった……」


 疑問を投げかける亮佐


「それがなぜ奴らが怪しい事になるんだ? 仲間なのだろう?」


 答えるのは父の豪鎧


「ウム……よくある話だ……獄党会の囚人をワシらが尋問し奴らの悪行が全て暴かれれば困るのは奴らだ……つまり」

「悪事を隠蔽するために口封じ……か」

「ウム……その線が固い」


 ゆうきが思い出したように言う


「たしかあの晩……僕が騒ぎを鎮めに行った時も暴れていたのは獄党会の奴らでした! 」


 火亜流が立ち上がる


「なら決まりだなァ案内しろ直接聞きに行く」


 沙羅紀がそれに驚いたように反応する


「なっ! 馬鹿か! 奴らのアジトに直接乗り込むつもりか? 」

「あ? 当然だろ、その方が手っ取り早ぇ」

「何を考えているんだお前は! 奴ら獄党会は私達警備隊の手練総出でも苦戦する程の腕に覚えのあるゴロツキ集団だぞ! 」

「だったらなんだよ? そいつらが怪しいんだろ? なら全員ぶちのめせばいい」


「な……!? 」


 沙羅紀が困惑した様子で蘭季と亮佐を振り返る


「え〜と……こういう人なんですよね〜この人……はは」

「さすがは単細胞の野蛮人だ、貴様ならそう言うだろうと思っていたところだ」


 火亜流が立ち上がり部屋の扉へ歩く


「んじゃァとりあえずさっさとそいつらのとこに案内しろよ、俺は優しいからなァ……そいつらは今から全員半殺しにしてやるよ」


 豪鎧は沙羅紀に火亜流達の案内を頼む


「ガハハハハッ!! 良い! 大胆不敵! 剛力無双! 気に入ったぞ火亜流とやら! 沙羅紀! 案内してやれい! 」

「しかし父上……」

「火亜流とやら…勝算はあるのだな? 」


 火亜流は扉に手をかけ豪鎧へ振り向き言う


「さァな、やってみねぇと分からねぇがここでグダグダしてるよりマシだろ」

「ウム!!では武運を祈るぞ! 」


 沙羅紀、ゆうきに案内されるまま屋敷を出る3名


 ゆうきは自信なさげに沙羅紀と話す


「隊長……あの人達に任せて大丈夫なんですかね? 獄党会と言えば泣く子も黙る最強の腕っ節を持つと言われるあの"獅子丸(ししまる)" が居るんですよ? 」


 沙羅紀が後ろを振り返り呟く


「そうだな……いずれ獄党会、獅子丸とは決着をつけねばとは思っていたが、まさかいきなりこんな形になるとは……」

「おいてめぇら何をゴチャゴチャ言ってやがる」


 火亜流に忠告するように話す沙羅紀


「お前はどうやら連中の恐ろしさを全く理解していないようだが……奴ら獄党会は盗みや恐喝、暴力沙汰ばかりの極悪人の集まりなんだぞ? 」


 火亜流は全く怯む様子はなく返す


「なら何でそんな連中を町に置いてるんだ? ぶちのめすか殺すかするかして追い出せばいいだろ」


「それが出来れば苦労はしないさ……他の住民に被害を出さず白昼堂々奴らと殺し合いなどそんな真似が出来るか! 」


「けっ……やっぱりてめぇは口だけの女だな」


 火亜流の言葉に足を止めて言い返す沙羅紀


「なっ……なんだと! この際だから言っておいてやる! 私はお前のような野蛮で凶暴な余所者は認めない! 父上が言うから仕方なく案内しているがこの町を守るのは私達の役目なんだ! 」


 沙羅紀の言葉に冷たく返す火亜流


「その役目ってのをてめぇが何一つ果たせてねぇからあのジジイは俺みてぇな余所者を頼るしか無かったんだろ」


「ぐっ…… だ、黙れ黙れ黙れ黙れぇええ! お前に何が分かる! 」


「なんだようるせぇな……大人しく案内出来ねぇのか? 亮佐みてぇな奴だな……」


 後ろを歩く亮佐が反応する


「おい貴様聞こえてるぞ……そんなやかましい女と一緒にするな」


 沙羅紀は顔をしかめ歯を強く噛みながら言う


「ぐっ……ぐぬぬぬう……私は! お前達が嫌いだあああ! 」


 さらに後ろを歩く蘭季がため息混じりに呟く


「はぁ……本当にこの人達は……」


 町を歩いてしばらくして雰囲気が異様な事を察知する火亜流


 人の気配はなく何者かの嫌な視線


「奴らのアジトはあそこだ」


 そこは町の端にある大きな酒場


 周辺に人の気配はなく重苦しい雰囲気を感じる


 その雰囲気に飲まれそうになる一同……1名を除いて…


「んじゃ行くぜ」


 酒場にいつも通りの足取りで向かう火亜流


「お、おい待てまずは作戦を……! 」


 沙羅紀の呼び止める声を無視し酒場の扉を勢い良く蹴り飛ばす火亜流……


 ドオオオンッ!  


「よォ邪魔するぜ」


 ……な……何を……この男……正気か!? 正面から!?


 それに続く亮佐と蘭季


「全く貴様は……ん? 結構人数いるな」


 酒場の中には屈強な身体をした強面の男達が酒瓶を持ってそれぞれ机を囲み、カウンターに腰掛ける


「あ゛? なんだてめぇら……殺されてぇのか? おおん!? 」


 男達はゾロゾロと入口に集まる


「てめぇらに聞きたいことがあんだ、今から答える気がある奴だけ下に伏せろねぇ奴は……来い」


「おうおうおうアンちゃんよォ!! いい度胸してんじゃねーかよお!! 」


 立ち上がり凶悪な人相で火亜流を睨む男達


「おう、来ねぇならこっちから行くぜ」


 獄道術(ごくどうじゅつ) ……迅獄(じんごく)


 ビュンッ…!


「あん!? このガキ……消え……」


 ゴシャァッ!


 火亜流の雷の如き速さの踏み込みに反応することは叶わない


 男の顔面に火亜流の拳が抉りこまれ鈍い音が鳴る


「まず1人……次はてめぇだ」

「こ、こいつうう殺れええ! お前らあ! 生きて返すなああ!!」


 酒瓶を振り下ろす男の右腕……その酒瓶を体勢を僅かに後ろへ逸らして躱しつつ右脚の(かかと)を相手の鳩尾(みぞおち)に抉り込む


「ぐえっっ……! 」


 倒れ込む男に目もくれず敵の集団を見据える火亜流


「2人目……おらどうした? まとめて来いよ」


「このガキいい!! 」 「死ねええ! 」「オラアアア!! 」


 左から回ってくる男が掴みかかろうとしている


 真ん中の男はナイフを取り出す


 右の男はやや遅れながら銃を腰から抜こうとする


 獄道術(ごくどうじゅつ) ……陽炎(かげろう)


 火亜流の動きが陽炎のように揺れる


 空気のように 流れる水のように 立ち上る煙のように


 その揺らめいた動きで1人……2人……すり抜ける


 銃を抜こうとする男の目には前2人の身体をすり抜け突然正面に現れたように映る


「な……! 」


 男の顔面下から左腕の拳を突き上げ男の顎を強打する


 ガコンッッ!!


「グフッ……」


 続く真ん中の男の右から払うようにこちらに切りつけるナイフ……それから遠ざかるように火亜流も右回転で(ひじ)を相手の脇腹に突き刺す


 グシャッ!!


「がはっ……!」


 身体の回転を止めず遠心力をつけたまま男のナイフを即座に奪い後ろの掴みかかろうとしている男の太ももに突き刺す


 グサッ


「ぎゃあああ」


「3……4……5……おら次だ」


 僅か数秒で屈強な男複数を相手取り5人を沈める火亜流


 たじろぎその場で狼狽える男達に思考する時間は与えない


 迅獄……!


 続け様に奥のカウンターを背にする男目がけて加速した身体を押し付ける


 ズドォォンッッ!!


「ゴフッ……」


 カウンターにある酒瓶を横の男の頭上から振り下ろす


 バリィィンッ!!


「があっ……! 」


 その男を蹴り飛ばしさらに後ろの男達に追突させる


 男達にすかさず飛び乗りとどめを刺す


 顔面への打撃、踏みつけ、男達は抵抗する間もなく沈む


「6……7……8……9……あん? 今何人目だ? まぁいいか」


 近くの椅子を片手で持った火亜流、残った数名を見据えて言う


「もう残りはてめぇらだけか……歯ァ食いしばれ、んで死ね」

「ひ、ひいいいいコイツ化け物だあああ! 」


 一部始終を見ていた亮佐、蘭季、沙羅紀、ゆうき


「し……信じられない……あの人数相手に……」

「は、はは……あの人……強すぎる……」


 沙羅紀、ゆうきは火亜流の戦いを信じられないといった様子で立ち尽くしたまま傍観するしかなかった


「わ〜この目でみるまでは信じられなかったけど本当に強いんですね……あの人」


 蘭季の呟きに亮佐が答える


「相変わらず無茶苦茶な奴だ何人か死んだんじゃないか今の」


 皆一様に火亜流の動きに驚きを隠せず酒場の入口に立ち尽くす


 その後ろから現れる1人の男……


 ゆっくりとした歩みで酒場へと近付く


 カラン……カラン


「おいおいおい……! 随分とまあ威勢のいいのがいるなあああ? おお? 」


 一同振り返り男を視界に捉える


 金属バットを引きずりながら頭の右半分を刈り上げ顔面の右側にビッシリと刺青の入った革ジャン姿の男がこちらに向かってくる


「お前は……! 獅子丸! 」


 獅子丸……獄党会のリーダーと呼ばれる男が沙羅紀に声をかける


「おー? 警備隊隊長のお嬢様じゃねーかよおー? なんだついに戦争しに来たかー? 」


「違う! 私達はお前に聞きたいことがあってここに来たんだ」


 沙羅紀の発言に笑いながら返す獅子丸


「聞きたいことだ? おいおい笑わすなよ隊長さんよ〜……うちの子分共をこんだけ可愛がってくれちゃってなぁ……許せねぇよな〜? 」


 酒場から一同を押しのけ火亜流が外に出る


「てめぇがししまるって奴か」

「赤髪の兄さんよ〜あんたが俺の子分共をやってくれちゃった感じか〜? 」

「あぁ弱すぎてびっくりしたぜ、てめぇは違うといいんだがなァ」


 火亜流の前に立つ獅子丸


「なるほどいい面構えだな〜……見ねえ顔だがよそもんか〜? どうだいあんた……獄党会に入って俺様と一緒にこの町を支配しねぇか? 」


「くだらねぇな……さっさと来やがれ俺は"優しい奴"だからな……殺さずに顔面グチャグチャの半殺しで勘弁してやるよ」


 しばしの沈黙が続き先に動いたのは獅子丸


「ウラァ!! 」


 獅子丸が火亜流に金属バットを振り下ろす


「脳天ぶちまけろ!! 」


 火亜流は身体を少しずらして最小限の動きで躱し獅子丸の目に指を突く


 獅子丸は首を横に振って回避する


「っ!……おうおう目突きとはエグイな〜」


 火亜流の目突きを躱したかと思われたその瞬間、火亜流はさらに間合いを詰めて至近距離で獅子丸の髪の毛を掴む


「てめぇはその棒振り回すしか脳がねぇのか? 」


 掴んだ髪の毛を下に引っ張りながら膝蹴りを獅子丸の顔面に打ち上げる


 ゴシャァッ!!


「グハッ……! て、てめぇ」


 ダメージを負い仰け反った獅子丸の胸ぐらをさらに掴みさらに追い討ちの左フック


 それを右腕を曲げガードする獅子丸


 ドガッ


「ぐうううっ……! 」


 そのまま火亜流は跳ね宙を舞い遠心力をつけ空中回転回し蹴りを獅子丸の逆サイドに放ち獅子丸のこめかみに命中する


 ゴシャァッ!!!!


「ゔっっっ……」

 

 地面に倒れる獅子丸 誰の目にも勝負は決したように見えた


「あ、あの獅子丸を……こんなにも容易く……!? 」


 口が開いたまま驚愕する沙羅紀


「立て、終わりじゃねぇだろ」

「う゛ッ……て……てめぇっ……や、やるじゃねぇか……グハッ」


 ゆっくり立ち上がるボロボロの獅子丸


「て、てめぇ……後悔するぜ……俺を本気にさせちまったからなああ! 」


 獅子丸が革ジャンを脱ぎ捨て自身の頭を血が出るほど引っ掻く


「はぁっ……はぁっ……俺様に罪能を……使わせた事……う゛っ……褒めてやるぜ……! 死ね! 」


 沙羅紀が声を上げる


「まずい! 逃げろ! "あれ"をやるつもりだ! 」


 突如、獅子丸の身体に異変が起こる


 目は白目を向き口が裂けたように開き牙が伸びる


 背面がボコボコと音を立てて筋肉が膨れ上がる


 腕、手、足、胴がボコボコと音を立て膨らみ変形する


 体毛が爆発的に増え首周りにその漆黒の毛の厚みが増していく


 獅子丸の罪能 それは "一定時間ライオンと化す"


「グガアアアアアアッッッ!!! 」


 目の前に現れたそれは普通のライオンの倍の体積を誇り牙と爪は通常のライオンとは比べ物にならない程肥大化した


 "漆黒の獅子の怪物"だった


「なるほどなァ……面白ぇ! 」


 沙羅紀が火亜流に駆け寄りその腕を引く


「馬鹿者!! あれ相手に戦うつもりか!? 奴のあの姿は並の亡者すら噛み殺す程の怪物だぞ!! 早く逃げるぞ!! 」

「るせぇな……てめぇは引っ込んでろ」

「なっ……!? 正気か!? 」


 火亜流は沙羅紀を振り払い獅子丸に笑みを向ける


「やっと面白くなってきたとこなんだぜ……邪魔するんじゃねぇ……てめぇは酒場の中に隠れて他のやつを守れ」


 ……この男……あれを目の前にして何故平然としていられる……


 ……何故動じない……!?


「赤髪のォォ!! 逃げずに立ち向かうその勇気は見事だ!!だがお前はもう終わりだァ!!! 」


 獅子丸が言葉を発した事に驚く火亜流


「おっ……その状態喋れんのかお前すげぇな……どうなってんだそれ」

「感心してる場合か! 死にたいのか! 」

「ったくよ……さらきだっけか邪魔すんなって言ってんだろ」

「馬鹿者!! お前の様な者でもみすみす見殺しにする訳にはいかないんだ!! はやくこっちに」


「グガアアアアアアッッッ!!」


 獅子の怪物が火亜流と沙羅紀目がけて飛びつく


 火亜流が沙羅紀を右側に突き飛ばす


「……っ! 」


 間一髪、沙羅紀を跳ね除け回避し火亜流は立ち上がる


「速ぇな……次はこっちから行くぜぇ! 」


 火亜流は獅子の怪物目がけて突っ込み飛び蹴りを繰り出す


 獅子丸は前足の付け根を突き出しそれを受ける


 ガキンッ!!


「!? 」


 こいつ……硬ぇ……皮膚が鉄で出来てんのか!?


 獅子丸は回転し尻尾を火亜流にぶつける


 バギィィンッッ!!


「ぐっ……! 」


 両腕で防御するもその攻撃はまさに"鉄の鞭"


 獅子丸の尻尾を受けた両腕は痺れ感覚が麻痺する


「ガアアッッッ!!」


 再び襲い来る獅子丸に両腕の感覚がないまま火亜流は前身する


「はっはははァァ! いいぜてめぇ! とことんやろうぜぇ!」


 獅子丸が爪で火亜流の上半身を抉ろうとする


 直前、その真下へ滑り込み回避し獅子丸の腹を蹴り上げる


 ドスッッ!!


「ガアッッ……!?」


 予想だにしない反撃に唸りを上げる獅子丸


「ガルルッッ……お前……本当に人間か? 」

「ったりめぇだ……人間やめてんのはてめぇだろ? 」

「ガアアアッッ!! 」


 腹を蹴られたダメージは僅かにしかない


 どれ程の人間であろうと鋼の皮膚に守られた獅子丸の身体を傷付けることは不可能である


 火亜流もそれを重々承知していた


 ……こいつの爪や牙を喰らえば終わり……尻尾であの威力だ……あの図体で突進されるだけでも無傷じゃ済まなねぇ……


 ……対して奴への攻撃はほとんど効いてねぇ……どうする?


 酒場の亮佐、蘭季が飛び出す


「火亜流さん! 加勢します! 」

「おい貴様! 受け取れ! 今からまたアレを渡す! 」


 火亜流が獅子丸を見つめたまま叫ぶ


「ざけんなッ てめぇらは手ぇ出すなッ 引っ込んで見てろ! 」


「なっ……!? 貴様状況が分かってないのか!? 死ぬぞ! 」


「へへっ……状況が分かってねぇのはてめぇらだ、これは俺とこいつの勝負だぜ……だよなァ? 獅子丸よォ」


「ガルルッ…」


 ……腕の感覚が戻ってきた……やれる……!


 ……俺は止まらねぇ……自分が誰か……知るまではなァ!



 ーーふふふーー火亜流ーー力むのではなく伸ばすんだーー


      ーー鋭くーー鋭くねーーふふふーー



 …!?


 ……そうだ


 ………力むのではなく伸ばす



  ーー毎日の指の部位鍛錬ーー血反吐を吐くその鍛錬ーー


   ーーよく耐えたねーーふふふーー準備が整ったーー



 …そう


 ……その技の名は



        ーー獄道術(ごくどうじゅつ)ーー刺獄(しごく)ーー



 火亜流の指がビキビキと音を立てて血管が浮き上がり膨張する


 爪は鋭さを増し指は骨格から禍々しく鋭く変形する


「使わせてもらうぜ……獄道術……」

「グガアアアアアッッ!! 」


 獅子丸が火亜流に突進し右前脚の鋭い爪が襲う


「獄道術……陽炎……! 」


 揺らめいた火亜流の動きに反応が遅れ獅子丸の爪が空を切る


 火亜流は獅子丸の懐に入り指を右前脚付け根目掛けて突く


「ガルルッ! バカがあ!! 効くかよ!! 」


 ブシュッッ!!


 火亜流の指4本が獅子丸の右前脚の付け根に突き刺さる、そしてそのまま引き裂くように腕を振るう


 ブッシャアアアアッッ!!


「ガアッッッ!? 」


 大量の出血に獅子丸が動転する ……バカな……!?


 身体を無理やり動かして回転し尻尾を再び振り回す


 その隙を逃さず火亜流は身体を低く下げ回避した反動から地面を蹴る


「獄道術……迅獄! 」


 目にも止まらぬ速さで獅子丸の顔面へ一直線に指を突く


「獄道術……刺獄! 」


 獅子丸の左目に火亜流の凶器と化した指が突き刺さる


 ブシュッッ!


「ガアアアアアアアッッッ!! 」


 漆黒の獅子の怪物は雄叫びを上げ地面に倒れる


 引き裂かれた右前脚からは大量に出血し左目は機能を停止した獅子丸はもはや立つことすら叶わなかった……


「いい勝負だったぜ獅子丸……」


 亮佐、蘭季、沙羅紀、ゆうきが火亜流の元に駆け寄る


 地に伏した獅子丸を見つめ沙羅紀は自分の目を疑うように呟く


「あ、ありえない……罪能まで使った獅子丸を……1人で……それも素手で……」


 亮佐と蘭季は火亜流の負傷を案じる


「おい貴様……無事なのか? 」

「おう……まだ少し腕が痺れてやがるがなァ……」


「いや〜火亜流さん私感動しました! まさか1人で獄党会を潰しちゃうなんて! 」


「こいつじゃねぇな」

「ん? 何がだ? 」

「通り魔って奴……こいつじゃねぇよ……」


「え……火亜流さん何でそう思うんです〜? 」

「なんとなく……な」


 酒場からゾロゾロと屈強な男達が外に出る


「ああそんな……」「あの獅子丸さんが……」

「あ、ありえねぇ……」 「マジかよ……」


「おう、てめぇら」


 火亜流が男達に向かう


「ひ、ひいいいいい、命だけは助けてくれええ」

「あ? じゃぁ質問に答えろ」

「は、はいいい! ななな何でもお答えしますううう!! 」

「通り魔はてめぇらか? 」


 男達はキョトンとして答える


「へっ……? 通り魔……? い、いえ……違います! 一般人の殺しは獅子丸さんに止められてて……それを破ったら俺達が獅子丸さんに殺されちまいますよ! 」


「だとよ……コイツらは関係ねぇみてぇだな」


 沙羅紀がその会話に割り込む


「なっ待て待てっ! 信用出来るものか! こいつら獄党会は盗みや暴力沙汰を平気で行う極悪人だぞ! 」

「だったらなんだよ、違ぇって言ってんだから違ぇんだろ」


 いつの間にか人間の姿に戻った獅子丸がゆっくり身体を起こしながら火亜流に言う


「うぅ……通り魔だと……俺達も……うぐっ……そいつを探してんだ……仲間を殺しやがった……はぁ……はぁ……」


「もう動けんのかタフだなお前、続きやるか? 」


 地面に手を付き左目を抑えた獅子丸は火亜流を見上げる


「いや……俺様の負けだ……う……へへっ……殺れよ……」

「なァ仲間を殺されたってのは牢屋にいた奴の事か? 」


 火亜流の質問に苦しそうに獅子丸が答える


「はぁっ……はぁ……ああ……そうだ……許さねぇ……通り魔の野郎……絶対……仇を取るって……アイツらに約束したんだ……」


 火亜流は満身創痍で息も絶え絶えの獅子丸を見つめる


 ……約束……か……



    ーー君はーー優しい人になってーー約束だよーー



 ……



「どうしたよ……殺れよ……お前の……勝ちだ」

「仇…取るって約束したんだろ? 」

「あぁ、だが……俺様は……」

「なら取らなきゃなァ……お前強かったぜ、じゃァな」


 何事め無かったかのように立ち去ろうとする火亜流に驚く獅子丸


「お、おい待てよ……! あんた……」


 火亜流は獅子丸に振り返り笑顔で告げる


「またいつでも挑んで来いよ、次は右目も潰してやるからよ」


 そう言うと火亜流は歩き出し酒場を去る


 それを追いかける亮佐と蘭季


「待ってくださいよ〜火亜流さ〜ん! 」


 去っていく火亜流の後ろ姿を残った右目に焼き付ける獅子丸


「何で俺を殺らねぇ……名前……火亜流……か……」


 火亜流と獄党会の戦いが幕を下ろし負傷者を運び出す手配をするゆうきと沙羅紀に集められた警備隊


「隊長! 獄党会一員の病棟への手配! 完了致しました! 」

「……ん? あぁ……ご苦労だった……」

「隊長? どうかされましたか? 」

「いや……それで……そいつらの様子は? 」

「はい! 重症な傷を負った者が何名か居ますが消滅者は0です! 」

「そうか……」

「はい! では失礼します! 」


 警備隊の者が一礼して去ると今日起きたことを沙羅紀は振り返る


 ……火亜流……奴は何者なんだ……あの身のこなし…あの技……


 ……獅子丸を相手取り1歩も引かぬあの豪胆さ……


 ……それに……


 

 今まで出会った事のない種類の人間に沙羅紀は揺さぶられてばかりの1日だった













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