第1話:出会い
この物語は先生♂×生徒♀の恋愛小説です。
苦手な方やご理解いただけない方は閲覧なさらないようお願いします。
この物語は作者の実体験を元にした願望溢れるフィクションです。
登場人物の名前ならびに学校や建物の名前や設定などはすべて架空のものです。
出会い。それは6月初旬の事だった。
【第1話:出会い】
「おはようございまーす。」
「佐々木さん、おはよー!」
私は佐々木真琴。桜咲中学の1年生。
成績はまぁまぁ良い方らしく、小テストなんかでも音楽だけはいつも満点。
部活は吹奏楽部でトランペットを吹いている。
今週は風紀委員の当番なので、朝の挨拶運動の為に、こうして校門に立っていた。
ピンポンパンポーン♪
「全校生徒のみなさん、おはようございます。本日は臨時の全校集会を行いますので、体育館に集合して下さい。」
ピンポンパンポーン♪
「佐々木、もう行って良いぞ。」
横に立って居た生活指導の立花先生(40才・男・社会教諭)にそう言われ、委員腕章を預けて、そのまま体育館へ移動した。
「佐々木さん、お疲れ!」
体育館へ行くと、同じクラスの土井さんが声をかけて来た。
この元気溢れる明るいだけが取り柄の女の子は土井あゆみ。
彼女は同じ吹奏楽部でフルートを吹いている。
中学からの知り合いだが、この1ヶ月程でとても仲良くなった。
「ホント朝は辛いよー。集会のお陰で早く終わったけど。」
私は疲れ顔を見せて愚痴ってみせた。
「でも、好きでやってるんでしょ?」
土井さん、図星だよ…。
風紀委員になったのも立候補だが、本音は先生方に気に入られたいが為だ。
生活指導の立花先生も怒ったら怖いけど、味方にしておけば無敵だもん。
「図星?」
「うん。」
2人で笑い合っていると、担任の河内先生(36才・女・英語教諭)が来た。
「おはようございまーす。」
「おはよう。そろそろ整列してね。」
「はーい。」
2人で声を揃えて挨拶した。
わらわらと並んで河内先生が点呼をとり終わると、立花先生が体育館の舞台にマイクを持って上がっていた。
「静かに!」
どうやら集会が始まるようだ。
体育館が静まり返った。
「今日は、離任式と着任式を行います。」
その一言で体育館にヒソヒソと小声でどよめきが起こる。
私は「えっ?もしかして河内先生が離任するの?」と心の中でとても驚いた。
河内先生は舞台に上がると、立花先生からマイクを受け取り、舞台中央に立って一礼した。
「おはようございます。1年生のみんなには授業中に話した事があるけど、今、先生のお腹の中に赤ちゃんがいます。ただ、先生の身体があまり丈夫ではない為、早めの産休をとる事になりました。すぐに復帰出来るかわからないので、一度離任という事でみんなとは今日で一旦お別れです。1年生のみんなにとっては短い間でしたが、どうもありがとう。2、3年生のみんなは、1年の時に覚えた事を忘れずに。先生もみんなと楽しい時間を過ごせた事を忘れません。これからも頑張って下さい。」
パチパチパチパチ…
河内先生の挨拶が終わると、体育館の中が拍手で響いた。
その間、生徒会長から花束が送られる。
泣きそうになっている生徒も居た。
体育館が静まると、今度は新任の先生がマイクを手にして一礼した。
「Good morning,everybody!」
シーンとしていた体育館にどっと笑いが起こる。
「はじめまして。荒谷真司といいます。この度、河内先生の後任の非常勤講師という事で、初めて教壇に立たせてもらいます。よろしくお願いします。」
パチパチパチパチ…。
また体育館に拍手が響く。
この時、私は荒谷先生に一目惚れした。
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「佐々木さん、佐々木さん!」
私はしばらく荒谷先生を見つめてぼーっとしていたのか、気付いたら集会は終わっていて、みんな教室へ戻っていくところだった。
「あ、土井さん。あれ?もう終わったの?」
「『終わったの?』じゃないよ。どうしたの、そんなぼーっとして。」
さすがに親友でも、新任の先生が格好よくて見とれてたなんてとても言えない。
私は教室に向かって歩きながら適当に返事をした。
「あ、いや、河内先生離任しちゃうのがショックで…。」
「だよねー!寂しいよー!でも、ちゃんと休暇とって元気な子供産んで欲しいよね。」
土井さんは私の気持ちをよそに、本気で泣きそうな顔をしていた。
安易にショックと言った自分にちょっと罪悪感を感じた。
教室に入ると、河内先生が居てホームルームの準備をしていた。
生徒達はそれぞれ着席して、1限目の英語の授業の準備をして周りの友達と喋っている。
私の席は真ん中の1番前。
教卓の真ん前で、先生からは逃れられない地獄的な席である。
でも、この席も自ら選んだ。
視力が悪いのもあるけど、先生の役に少しでも立ちたくて、実際よく雑用を頼まれる。
真面目に授業を受けられるという微妙な特典付きだ。
後ろの席は土井さん。
仲良くなったきっかけは席の近さだった。授業中でも話しかけてくるのは辞めて欲しいけど…(苦笑)
右隣は三宅勉君。
勉という名前にあやかっているのか、とても優秀な子で時々勉強を教えて貰っている。
先日の中間テストでは学年トップだったらしい。
左隣は菊地加奈さん。
クラス1の不良問題児で、風紀委員である私の横の席に無理やり決められた。
見た目からして不良と言われても仕方ない彼女には小学校時代によくいじめられていた。
中学校に入ってからは、私が先生方と仲が良いせいか逆に警戒されている。
そんな何もかもが左右対称と言っても良いこの席にもだいぶ慣れた。
「はーい。みんな戻って来たー?ホームルーム始めまーす!」
河内先生のその言葉でざわめいていた教室がいつになく静かになる。
みんな今日が河内先生に会える最後の日という事が寂しいのだろう。
菊池さんも珍しくきちんと席について大人しくしている。
「起立、礼!」
「おはようございます!」
「着席!」
委員長がいつも以上に元気な号令をかける。
だが、クラスのみんなはやるせない気持ちが丸出しである。
「はい、みんなそんな暗い顔しない!一生の別れじゃないし、今日1日はまだ居るから。」
河内先生はニコっとみんなに笑いかけ、場を盛り上げようとした。
でも「今日1日は」という言葉が余計にみんなの心を傷めてしまった。
それを後悔してか、そそくさと出席を取る準備を始める河内先生。
しかし出席簿を手にしたまま、点呼を始めない。
みんなが不思議に思っていると、廊下に荒谷先生の姿が見えた。
私はその瞬間、顔が赤くなったんじゃないかというくらいドキっとした。
「荒谷先生、今から出席取るのでどうぞ。」
「あ、はい。失礼します。」
河内先生が荒谷先生を教室に呼び入れた。
集会の時とは違い、荒谷先生が目の前に立っている。
私は自分の心音が隣の人に聞こえるんじゃないかというくらいドキドキしていた。
荒谷先生は教室に入ったものの緊張しているのか、オロオロしていて、河内先生が小声で「挨拶して。」と促すと姿勢を正してみんなの方を向いた。
「おはようございます。さっき集会で紹介がありました、荒谷真司です。河内先生の代わりに1年生の英語の授業の担当と、この1年2組と隣の1組の副担任となります。わからない事とかたくさんあると思うけど、よろしくお願いします。」
荒谷先生が頭を下げてあいさつすると、パチパチと、少ないながらに拍手が起こる。
それに紛れて土井さんが「副担任って?」と耳打ちしてきたので、「さぁ?」と首をかしげた。
その疑問に答えるかのように河内先生が話を切り出した。
「荒谷先生には1、2組の副担任を。2組の担任には今現在副担任をお願いしている、保健体育の戸田先生にお願いしています。」
クラス中のみんながざわざわとそれぞれ話し始めた。
保健体育の戸田先生(年齢不詳・女)といえば、本気で怒ったら怖いと先輩から噂を聞いている。
入学してまだ2ヶ月の私達はまだそんな怖い戸田先生を見た事がないけど、みんな不安なのかもしれない。
「はい!静かに!!」
河内先生の一喝で教室が静まり返る。
「今から出席取るけど、荒谷先生に名前を覚えてもらえるよう、名前呼んだら立って簡単に自己紹介して下さい。」
教室中からブーイングが殺到する。
でも、中には河内先生へのお礼の言葉も考えている生徒も居るようで、「ありがとうって言おうね。」とも聞こえてきた。
1番の子から順番に名前が呼ばれる。
結局、フルネームと委員または係、部活は最低言わないといけないと決まった。
あとは河内先生にお礼を言ったり、英語は嫌いだとか、もう戻って来なくて良いとか、みんな好き勝手言っている。
最後の一言を何にしようか悩んでいるうちに順番が回ってきた。
「次、佐々木さん。」
「は、はいっ!」
焦ったせいか、勢いよく立ち過ぎて膝が机に当たって前に押され、教卓が揺れて倒れそうになる。
「おうおう、大丈夫か?落ち着いて。」
荒谷先生がそれを支え止めて、言葉をかけてくれた瞬間、ドキドキして頭の中が真っ白になってしまった。
「えーと…。」
自分に何が起こったのか、自分の名前すら言葉に出来なかった。
河内先生も荒谷先生も第一声を待ってこっちを見ている。
しばらくの間の後、後ろから土井さんに「佐々木さん、フルネーム!」と言われてようやく我に返る。
「あ、ごめんなさい。焦ってしまって…(苦笑)。佐々木真琴です。風紀委員やってます。吹奏楽部でトランペット吹いてます………。」
続きの言葉が出て来ない。私、何言おうとしてたっけ?
だが、次の瞬間自分の意思をよそに言葉を発していた。
「英語は好きな教科なので荒谷先生の授業楽しみにしています。よろしくお願いします。」
頭を下げて着席すると、拍手が起こる。
座ってから自分の言った事が荒谷先生にプレッシャーかけた気がして嫌悪感に陥った。
「佐々木さん音楽と英語の成績だけは良いからね。これからも頑張って。」
河内先生がとんでもない事を言っている。
確かに言ってる事は間違いないんだけども、何もこんな場で言わなくても…。
「河内先生、『だけ』は余計ですー。他の教科も必死で頑張ってるんですからー。」
とりあえず文句は言っておく(笑)。教室のあちこちから笑いが聞こえた。
そのやり取りを見て、荒谷先生も笑っていた。
その後、順番に出席が取られ、みんなの自己紹介が終わる。
1限目が英語の授業だという事もあり、途中で始業ベルが鳴ってホームルームを少し延長したような時間になった。
「じゃあ、この後荒谷先生に授業をお願いします。質問があれば今のうちに。」
河内先生のその言葉に、他人行儀で聞いていた荒谷先生がオロオロし始める。
その姿がとても可愛らしく感じて、思わずにやけてしまった。
「はーい!荒谷先生、彼女居るんですかー?」
「居るんですかー?」
「もうキスとかしたんですかー?」
誰となくそんな事を聞いている。教室はキャーキャー黄色い声でいっぱい。
私は騒ぐよりも、ドキドキしながら返答に耳を傾けていた。
そんな期待を知ってか知らずか、返答に困っている荒谷先生を見て河内先生が割って入る。
「こらこら。そんなプライベートな事は聞かないの!荒谷先生もそんな質問は相手にしなくて良いから。」
それに対して生徒達は好き勝手に反応する。
「えー知りたいー。」
「先生と仲良くなるのに必要な情報だー。」
「気になって授業に集中できないー。」
気になって授業どころじゃないのは私も同じ。
そんなブーイングを受けてか、荒谷先生が口を開いた。
「あの、僕…、今は彼女とか居ません。先生になる勉強だけで手一杯だったし…。」
そう小声でほそぼそと答えた瞬間、教室中が笑いで溢れた。
当の荒谷先生は笑われて明らかに照れている。耳まで真っ赤。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
河内先生も呆れた顔をしながらも笑いを堪えていた。
「はいはい。質問は追々その都度ね。では、荒谷先生、授業始めて下さい。私は後ろで見てますから。」
河内先生はそう言って後ろへ行き、前には荒谷先生だけが取り残されて、やはりオロオロしていた。
ヤバイ。この慌てぶり、とても可愛くてツボにハマりそう。
年上である先生に可愛いって表現はよくないかもしれないけど、本当可愛い。
そんな荒谷先生を見て喜んでいると、さっきまで緩んでいた顔が集会の挨拶の時のようなビシっとした顔に変わった。
「えっと…、委員長の……か、……かー。」
「片桐さん」
さっき聞いたばかりの委員長の名前が出て来ない荒谷先生に小声で助け舟を出してあげる。
そう。これこそが私の日課とも言える仕事。
他の先生にもしてるけど、荒谷先生は新任の先生だし、わからない事いっぱいあるだろうから特に手伝ってあげなきゃ。というか手伝いたい。
でも、小声で「ありがとう。」と言ってくれて、朝からのドキドキ最高潮。これから先大丈夫かな、私。
「ちゃんと仕切り直したいので、委員長の片桐さん、号令お願いします。」
「きりーつ、礼ー、着席ー。」
さっきとは違って委員長の面倒臭そうな声。
真面目な委員長でさえこの態度という事は、これから先、英語の授業が大変になりそうだと私は感じた。
「はい、では授業を始めます。えー、Lesson4からで良いですか?」
荒谷先生がみんなにそんな疑問を投げかけたが、誰も答えようとしない。
さっきまでの騒ぎが気付けば授業放棄に近いものになっている。
後ろで見ている河内先生も何も言わない。きっと生徒が答えるのを待っているんだろう。
誰も言わないし、答えてあげようか…。
「Lesson4の訳しと単語調べが前回の宿題でした。」
「お、そうか。じゃあ、英文をみんなで読んでみようか。14ページです。」
その言葉にみんなは教科書を開くものの、なんだかヒソヒソ話が聞こえてくる。
荒谷先生はそれに気付いてるのか気付いてないのか、みんなが教科書を開いたのを確認すると、自分も教科書に目をやる。
「Repeat aftar me.Good morning Miki.」
「グッドモー……?.」
今時の若い先生だからか、やっぱり発音はとても綺麗。
だけど、復唱しようとしたのは私と数人だけで、みんな途切れていた。
ようやく慣れたばかりの河内先生の授業でなくなる事が、みんな不安なんだろう。
河内先生の方をチラチラ見ている生徒が目立つ。
「Good morning Miki.」
「Good morning Miki.」
それを感付いてか、河内先生が読むとみんなが復唱した。
荒谷先生、しょっぱなから大ピンチ。
私もどうしたものか考えたけど、どうしようもなさそうだ。
「コラ!みんな出来るんだから、荒谷先生の発音に続かなきゃダメでしょ!先生、続きどうぞ。」
さすがに河内先生もハッキリ言うしかなかったようだ。
困惑した荒谷先生が続きを読み上げる。
「Good morning Jane.」
「Good morning Jane.」
「How are you?」
「How are you?」
小声ながらも、みんなきちんと復唱した。
発音が良いので、わざと大声で真似てみる生徒も居て、時折笑いもあった。
そのせいか、荒谷先生も少しずつ緊張がほぐれている感じがする。
なんとか今日の授業は無難に進みそうだ。
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キーンコーン カーンコーン…♪
終業のベルが鳴り響く。
なんか重い空気の中での授業だったけど、何も無く終わった。
「はい。じゃあ、今日はここまで。明日は……3限目ですね。宿題忘れないように。」
「起立ー、礼ー」
礼の後、教室を去る河内先生を追いかける生徒がたくさん居た。
私も追いかけようと思ったけど、荒谷先生が目の前から居なくなった安堵感が襲って脱力して動けなかった。
「佐々木さーん、さっきの授業なんか疲れたねー。」
土井さんが後ろからそう声かけてきたが、疲れの理由がきっと私とは違う気がする。
でも確かにすごく疲れる授業だったのには間違いない。
「本当、なんか終わって脱力したー。」
「あんな重い空気耐えられないよー。」
ほら、やっぱり違った。私は重い空気はなんて事なかった。
何よりドキドキしっぱなしだったのはもちろん、最初に助け舟を出したからか、荒谷先生はその後も自然と私に助けを求めてきたのだ。
「佐々木さん、あの先生にももう気に入られてるんじゃない?」
そんな土井さんの問いかけに一瞬ビクっとしたが、確かに頼られている気はしたし、そう受け取って良いのかな?
「第一印象はバッチシだと思うー。土井さんだって何回も当てられてたじゃない。」
「それは今日の日付が私の出席番号だからでしょう?あ、でも2回目は目が合って答えさせられたか。」
「ずっと見つめてたんじゃないの?」
「そんな事しない、しない(笑)。」
土井さんをからかってみたけど、ずっと見つめてたのは私の方。
席が前過ぎるからか、荒谷先生の視線は後ろを向いていたけれど。
「でも、彼女居ないって本当かなー?」
私は何気なしに声に出してそんな事を言っていた。
「え?何?佐々木さん、あの先生の事気になるの?」
「えっ?あ…、いや、モテそうだし、居るの隠してるんじゃないかと思っただ………け…。」
「もしかして、惚れた?!」
言い終わる前にそう声を荒げたと思ったら、土井さんがいつの間にか前に来ていて、教卓に寄りかかり、机に伏せている私を覗き込んでいる。
隠せない。彼女にはもう隠せない。
うっかり言ってしまった「モテそう」だなんて、好感無ければ言わないだろう台詞を聞かれたからには…。
土井さんも何を期待しているのか、ワクワクした目でこっちを見ている。
「……。一目惚れってヤツなのかな…?」
土井さんにだけ聞こえるよう、小声で言った。
私自身もドキドキするだけで、恋なんてした事ないからよくわからない。でも「好き」という表現に間違いは無さそうだ。
「おおっ?本当に惚れたの?半分冗談だったのに。」
「ちょ、声でかいって。」
「あ、ごめん、ごめん。私は応援するよ!私、英語係だし、何か協力できるかも。頑張って!」
「う、うん…。まだよくわかんないけど…。」
そんな話をしていると次の始業ベルが鳴り響いた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
第2話もお楽しみに。