ドラゴンづくり 自由研究
担任教師は昼休みに、子どもたちの自由研究をチェックしていた。それぞれの個性溢れる作品がレポートとともに添えられている。
「どらごんのつくりかた」
随筆調のレポートは赤字で目立った。
「八月初旬。天気は晴れ。どんなことをしようか思いつかないので、友だちに相談をしました。フィギュアが好きなので、作ることになりました。色々な動物を組み合わせると、面白いです」
ライオンのたてがみと、シマウマの足。蛇の尻尾や白鳥の翼など。寄せ集めで出来上がったフィギュアは、神話で知られる怪物に似ていた。次のページをめくる。
「八月も半ばになった。動かないフィギュアはつまらないので、電気を繋ぎます。でもプラスチックではだめです。絶縁というらしいです。また友だちと相談しました。海くんは物知りです」
トンボの複眼が一斉に教師を捉えた。丸い粒々の拡大写真がたくさん貼られている。やや引いて撮られたものは、一種異様な雰囲気を醸していた。
「カマキリの斧をつけるとかっこいいです。バッタの脚と、カエルなんかもいいです。電気を流さなくても、脳が独立するので、各々勝手に動いていました」
昆虫や両生類などの小型生物のフィギュアが、粗く接合されていた。それは鳥の羽になり、やがて魚の尾ひれを持つようになってくる。
教師の額には汗が光った。しかしめくろうとする指を止めることはできない。日記はまだ続いているのだ。
「もうすぐ夏休みも終わります。フィギュアはどんどん進化しました。でもまだ足りないです。大きなフィギュアが欲しいです。相談したいけど海くんはいません。一人で作れるかなあ」
最後のページは滑り気を帯びた液体が乾燥して固着している。なかなか開けることができない。
チャイムが鳴って教師は我に還った。生徒らは着席している。授業が始まる前に確かめなければならないことが、
「海くんが休みって言っていたわね」
問われた少年は笑みを崩さない。
「どうしても電話が繋がらないの。あなたは海くんのお家に行ったの?」
教師は鼓動の高鳴りを抑えられないでいる。
クラス中の視線が少年へと注がれる。
ふいに窓から風が吹いて、自由研究のノートがはらりとめくれた。幾つもの写真がバラバラと床へ落下し、机の下を滑らかに移動する。
悲鳴に包まれた教室で、
「うまくできたと思ったのにな」
少年は憂鬱な表情をする。