第2話 魔王様、現代日本に現れる (後編)
第2話投稿致します。
翌日、俺は昨日自身に起きた出来事を思い出していた。
勇者に、転移魔法の実験を妨害され、なし崩し的に別世界に転移してしまい、さらに性別までもが変わるというアクシデントに見回れた。
唯一救いだったのは、俺の側近を勤めているレオンとシンシアがこちらの世界に転移して来ているという事だった。だた一つ、気掛かりのは、ほぼ同時に転移していたはずだが、何故彼らが先にこちらに転移しているという事だった。
コンコン……、病室のドアを誰かがノックする、俺に来客が来ているようだ、一体誰だ?俺を訪ねてくるとするならば、レオンとシンシアそれと――昨日出会った黒髪の少女瑠璃の三人の内の誰かである。
「どうぞ。」
俺は来客を病室に招き入れる。
「魔王様、いきなりですが……戸籍と住民票はお持ちでしょうか?」
レオンが訪ねて来たようだ、しかし、レオンが言う戸籍と住民票とは一体何なのだろうか?
「いや、持っていない。」
昨日、こちらの世界に跳ばされたばかりので、当然そのような物はあるはずもない。
「魔王様、それがないと今後の生活に影響がありますので、持っていたほうがいいですよ。」
そう言って、レオンは上着のポケットから、薄い板を取り出して何か操作しているようだ、あれは何だ?
「そうなのか?それと――レオンお前が今持っている物は何だ?」
俺はレオンが持っている薄い板に興味がわいてきた。
「ああ、これですか?スマホですよ。」
レオンは、スマホと呼ばれる物を操作しているようだ。
「レオン、お前は何をやっているんだ?」
俺は、レオンが一体何をやっているか、全く分からなかった。
「シンシアとメールで連絡をとっています。」
メール?よく分からんがレオンは、どうやら、シンシアと別行動のようだ。
数分後、シンシアが息を切らしながら、病室に入ってきた。一体どこへ行っていたんだ?シンシアは両手に紙袋を持っているようだが……中身は何だ?少し気になるな。
「シンシア、お前が持っている紙袋の中身は何だ?」
俺は紙袋の中身がとんでもない代物だとは、気付く事はなかった。
「紙袋の中身ですか?下着と服でございます。」
シンシアは、紙袋から下着と服を取り出して、俺に見せてきた。
「お、おい、これ女物じゃないか?一体誰が着るんだ?」
シンシアの奴、まさか俺に着ろというんじゃないだろうな……
「え、魔王様ですよ?」
俺の嫌な予感が見事に的中した。
「女物の下着と服を着ろっていうのか?」
「はい、そうでございます。」
シンシアは、屈託のない笑顔をしているが目は全く笑っていない。下手に逆らうと後々面倒なので従うことにした。
「……分かった、着ればいいんだろ。」
俺は、シンシアに促されて渋々着替えることに……
「レオンは、少しの間外で待っていて下さいね。」
シンシアは、レオンを病室の外に追い出して、俺を、等身大の着せ替え人形として扱い始めた。
一時間後、俺はやっと開放された。
「レオン、もう入ってきてもいいですよ。」
シンシアは病室の外にいるレオンを呼び出した。
「シンシア、魔王様の御召し替えは終わったのですか?」
レオンは、俺が着替えが終わるまで病室の外で待っていたようだ。
「ええ、バッチリです、さあ、魔王様レオンにお披露目致しましょうか?」
シンシアは、俺をレオンの前に突き出した、は、恥ずかしい……
「に、似合うか?」
俺は、モジモジしながらレオンに感想を求める。
「魔王様……」
おや?レオンの様子がおかしいぞ。
「う、うん」
「ま、魔王様マジ天使!!」
そう言って、レオンは鼻血を大噴射した。
数分後、出血が治まったレオンは、俺の今後についてどうするのかシンシアと話し合いをするようだ。
「シンシア、魔王様の戸籍と住民票を用意しなければいけませんね……」
レオンは、頭を抱えて少し悩んでいるようだ。
「ええ、レオン、先ずは魔王様の名前をどうするかでしょう?」
シンシアも、レオンと同様に悩んでいるようだ。
「なあ、アディンのままじゃダメか?」
駄目元でレオンとシンシアに聞いてみる。
「「ダメです、女の子らしい名前に致しましょう」」
俺の提案は見事に却下された、そこまで否定しなくてもいいんじゃないか?
三十分程、意見を出しあった結果、俺の名前はアリスという名前に決まった。どうやら、アリスという名前は童話の登場人物に因むらしい。
俺の新たな名前が決まった後、俺とレオン達との続柄をどうするかという話し合いになった。
「レオン、あなたと私はこちらの世界では夫婦という事になっているでしょう?」
「ええ、こちらではそういう事なっていますね。」
レオンとシンシアはこちらの世界では夫婦という事になっているらしい。
「魔王様と私達の続柄は姪でいいんじゃないですか?」
「ええ、それで決まりですね。」
俺は全く口を挟む余地がなく、俺の戸籍をどうするかという問題は無事解決した。
シンシアは俺の戸籍を用意すると言い病室を後にした。病室にはレオンが残った。
シンシアが病室を出てから、数分後、新たな来客が病室に訪れた。
「ユキちゃん、入るね。」
声の主は、昨日知り合った瑠璃だった。
「どうぞ。」
俺は快く瑠璃を向かい入れた。
「魔王様、ユキちゃんというのは?」
小声で俺がユキちゃんと呼ばれている理由を聞いてきた。
「ああ、流石に本名を名乗る訳にいかなくてな……」
俺はやむを得ない事情でユキちゃんと呼ばれている事を説明した。レオンは『成程』と納得したようだ。
「ねえ、ユキちゃんこの人誰?もしかしてお父さんかな?」
瑠璃はレオンの事を見て俺の父親と勘違いしたらしい。
「いいえ、私はアリスの叔父で、進藤佳祐と申します。」
レオンは自分の事を俺の叔父だと瑠璃に説明した。
「ユキちゃ――、じゃなかったアリスちゃん。」
慌てて、名前を呼び直す瑠璃。
「う、うん、どうしたんだ瑠璃?」
瑠璃は俺に何かを言いたいようだ。
「アリスちゃんの叔父さん、凄く優しそうな人だね。」
瑠璃は、お前は一つだけ勘違いしているぞ、実際は真逆だぞ……
「そうか、実際はかなりやば――」
俺の発言を遮るレオン。
「これからも、うちのアリスと仲良くしてあげて下さいね。」
レオンは爽やかな笑顔で瑠璃にそう言った。
それから三十分程、俺は瑠璃と一緒に軽いお茶会をした。その後、瑠璃は用事があるといい帰宅することになった。
「アリスちゃん、今度は明後日に来るね。」
瑠璃は明後日にまた来ると言って病室を後にした。
「瑠璃、明後日楽しみにしているぞ。」
俺は瑠璃を見送った。
「ところで、魔王様ケガの方は大丈夫なのでしょうか?」
一連のゴタゴタで自分が負傷している事を忘れていた。
「ああ、かなり良くなっている。」
「良かったです、後、魔王様がいつ退院できるか聞いてきますね。」
レオンは、そう言って病室を出ていった、それから数分後、レオンが戻ってきた。
「魔王様、明後日の午後には退院できるそうですよ。」
「レオン、それは本当か?」
「ええ、本当です。」
俺の退院日が分かった、後で瑠璃にお礼を言わなきゃいけないな。
それから二日後、俺は退院することになった、俺はまだ病院の敷地内にいた、そこへ――瑠璃が走ってきた。
「ハァハァ、アリスちゃん退院おめでとう。」
瑠璃は、息を切らしながら俺にそう言ってくれた。
「瑠璃、お礼を言うのは、わ、私のほうだよ。」
俺は、あの時のお礼を瑠璃に言うことにした。
「あの時、公園で倒れた私を、ここに連れてきてくれたのは瑠璃だよね。」
「うん。」
「瑠璃、助けてくれてありがとう。」
「人として当然の事をしたまでだよ。」
「また、今度一緒に遊べたらいいね。」
「うん、そうだね。」
こうして、俺と瑠璃は別れた。
その後、レオン達の住んでいるアパートへと向かうことにした。
いよいよ、俺の新たな生活が幕開けだ。
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