第四話「いつか雨の夜に」壱
幾度繰り返せど、慣れないものというものはある。この世に生を受けて十余年。これまで浴びせられた罵詈雑言の数は星の如く積み重なっているが、今でも街を歩く際には風呂敷が手放せないように、私はきっと今回のようなことを何度繰り返しても、同じように驚き、腰を抜かすのだろう。
「……旭が血相変えて飛び出していったから嫌な予感はしたけどな……何があったのか、聞いていいか」
「ええと……その、いろいろありまして」
戸惑うような、訝しむような父の視線の先にいるのは、旭に首根っこを掴まれ持ち上げられている一人の童。気を失っているためにぐったりと目を瞑っており、側から見れば旭が何処かから子を攫ってきたように見える。父が戸惑うにはこれだけでも十分だが、恐らく父が尋ねたいのはそこではないのだろう。
額を覆い隠す髪から覗く一本の角。それだけあれば、この童が何者かを知ることは容易である。
「……旭といい、この前の婆さんといい……何でお前は一人で外で歩くたび、おかしなもん連れてくるんだよ……」
とうとう耐えきれずへたり込んだ父を支えつつ旭と顔を見合わせると、たまたまあの場に居合わせた萩之進が面白くなさそうに鼻を鳴らす。
日もまだ登っておらず、人も木も鳥も目を覚ますには早いこの時刻に、なぜ鬼と出会すことになったのかというと、それは今からほんの少し前、顔を洗うための水を汲みに行ったときのことだった。