夏祭り会場。
今日はいわゆる夏祭りという行事がある日らしい。だからといって俺は好んで人ごみに紛れようとしないし、暑いところに行きたくない。
行きたくないから行かない。
当たり前のことである。
行くわけない。
そのはずだった。
「唯真、お前今日夏祭り会場に一番近いバス停に集合な。17時な。異論は認めない」
異論は認められないらしい。意味が分からない。分からないが行くしかないらしい。なぜならばこいつ、つまり西園蓮は夏祭りを前にして彼女にフラれ、とてつもなく機嫌が悪い。機嫌が悪いということはここで断ってしまうと後が怖いのだ。こいつは何をしでかすかわからない。以前同じようなことがおこったときは、元カノの家の前を毎日通り、どうにかして元カノに会えないか頑張っていたらしい。結局元カノから僕になんとかするように訴えがあった(なんで僕に話が来るんだ……)挙句、直せといったにもかかわらず直らなかったので、警察に御用になったらしい。バカめ。今度はもしかしたら失恋のショックから自ら命を絶つかもしれない。そういうやつなのだ。極端すぎるやつなのだ。めんどくさい。めんどくさすぎて縁を切りたくなるが、その後を考えると僕の『普通の生活を普通に送りたい』という考えを阻害されそうで、やはり切れないのだ。根は悪い奴ではない(と思う)し、極端な性格を除けば顔は中の上から上の下くらい、二重で鼻筋もきれいに通っており、顔のパーツも悪くない。いわゆるイケメンと呼ばれる部類の人間である。
今日くらいはやつのわがままに付き合わざるを得ない。今後の(自分の身の安全を確保する)ためにも。
ということで17時。時間通り、待ち合わせ場所に到着した僕ではあったが、想像していたよりも人が多い。僕の視界はすべて人で埋め尽くされており、数mを歩くのにも普段の5倍くらいかかりそうだ。西園が到着していても見つけ出すのが難しいであろう。
スマホを取り出し、メッセージを確認する。西園のアイコンは相変わらず真っ黒で、ホームも同様である。そうなってからもう1週間は経過しているのだが、そろそろ立ち直ってほしいものだ。見るたび見るたび悲しくなってくる。学校で本人を見ると笑っているはずなのに目が笑っていないから当分は無理そうだが。……それはさておき、本人からの連絡はない。人を呼び出しておいて時間まで連絡ないとはどういうことだ。というか人が多すぎてそろそろ酔いそうである。おえ。
「唯真!」
背後から声がした。ここに呼び出した張本人の声。
「お前、来てるなら連絡してくれよ、人多すぎて気持ち悪くなりそう」
「悪い悪い、連絡するの忘れてたわ、というか最近携帯開いてない」
「開けよ!」
とは言ったものの開きたくない気持ちもわからなくはない。彼女がいた間は毎日のように電話、チャットをし、何度連絡が来ていないか確認していたか。それがなくなったのだ。スマホを開かなくなるだろう。というかスマホを見るたびにつらくなるから見ていないのかもしれない。そう考えると開かないのはわからなくない。わからなくはないがそれとこれとは話が違う。
「どうせ僕以外に人呼んでるんだろ?ほかのやつはどこにいるんだよ」
「は?誘ったのはお前ひとり。」
「冗談きついぞ、お前と2人とかごめんだ、帰る」
「待て待て、確かに男子は俺と唯真だけだ。だけど俺もお前と2人っきりで最後まで花火を見るつもりはない。絶対に」
「じゃあ、どうすんだよ、このままじゃ2人じゃ――」
「ナンパすんだよ、ナンパ。そのまま彼女もゲットしようかなーと」
西園はニヤッとこちらを見ている。
俺は本気でこの場から去りたいと思った。