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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
99/114

イケメン2

ノヴァの、タジマコヘイの外見を纏った巨体は、

ヌルーン王国の王城に並ぶように宙に浮き、

その上半身は、王城の屋上を見下ろしていた


そして、その巨大な手に、

ヌルーン王国の国王グランヘルム3世の娘、

クラウディア姫を掴み、

自らの眼前に掲げていた


姫の眼前に迫ったキモい巨大な顔の

その瞳は、吸い込まれるような深い緑色だった


...それは、マナ結晶の色


かつて、実物のタジマコヘイに出会った者は

その不思議な緑色の瞳の中に

暖かな優しさを感じて魅了されたものだが、

ノヴァの瞳にはそれは全く感じられない


その冷たい緑色の輝きは、

圧倒的に巨大な力と無慈悲な思考が

感じられるだけだった



「私のことをイケメンだと言ってみろ」



サディスティックな笑みを浮かべたノヴァが

クラウディア姫に強要する



巨大な手に鷲掴みにされながらも、

クラウディア姫は凛として言い放った



「嫌です!例えあなたが、私なぞが決して

 抗うことのできない力を持っていようと、

 私の意思はあなたのものにはできません!」



ノヴァの手に力が籠る

美しいブルネットの髪のクラウディア姫は、

その美貌を苦痛にゆがめた



「言うんだよ、私のことをイケメンだって!」



眼下の人々が、姫に向かって叫んでいる


ニュルーン王国の若き王、

リーンロット8世が言った



「姫よ、彼のことをイケメンだと

 お言いなさい!」



ルーン内海のとある小国の女王が言った



「ノヴァよ、あなたはイケメンです、

 最高のイケメンです!

 だから、どうか、クラウディア姫を

 お放しください」



ネルーン王国の老王、ラインゲル2世が言った



「余は、いまだかつて、

 これほどのイケメンに

 出会ったことがあったろうか?

 いや、ない!」



その声に後押しされるかのごとく、

ノヴァの声が甲高く上ずったようになる。

さらに、激しい高速の呼吸音が加わった



「ハアハア、私はイケメンだよね、

 君のタイプだよね!

 こんなイケメンに迫られてうれしいよね!」



しかし、クラウディア姫は気丈にも

その灰色の瞳で、

まっすぐにノヴァを見据えて言った



「あなたはイケメンではありません!

 全然、私のタイプではないどころか、

 とてもキモくて不快な顔です。


 自分の意に背いてまで偽りの言葉を

 紡ぐくらいなら、

 私は自ら死を選ぶでしょう」



かつて、隔離界に偉大な功績を残し、

16年ほど前に天寿を全うして

大勢に惜しまれながらこの世を去った人物は、

まったく関係のない第三者に勝手に姿を纏われ、

さらにひどい言われようだった



ヌルーン王国の王、グランヘルム3世は、

自らの無力さを実感し、

目の前の巨大なキモメンに向けて跪いた。

床に両手をつき、王冠を冠った頭を

低く項垂れさせ、絞り出すような声で懇願した



「ど、どうか、我々に...ご慈悲を...」



しかし、王都の屋上に集まったお偉方の

間をすり抜けるように高速で移動する人影に

気が付いた


それは、ウォーヘッドたちだった



「なぜ言わないの?

 イケメンだって言わないの?

 自分の立場を分かってんの?」



もはや熱くなって

周囲にまったく気が付いてないノヴァ、

そして、姫のあっぱれな頑固さ



ついに、ノヴァは、

手に掴んだクラウディア姫を

自分の顔のすぐ近くに持って行った


クラウディア姫は、目の前の

あまりにも巨大な顔を、

両手でめちゃくちゃにぶん殴って言った



「醜い、醜い、醜い、マジでキモいから!

 こんなにキモい顔が存在すること自体、

 ありえないから!

 私は面食いだから、こんなキモい顔

 マジでありえないっての」



ノヴァは泣きそうな顔になっていた

しかし、不意に気が付いた



「あ、そういえば、今の外見って、

 単にチョイスを間違えただけだから、

 別にキモいと思われても構わぬのか!


 私は、なぜここまで熱くなっていたのだ?


 いや、この私という圧倒的に力のある存在

 の言うことを聞かないことに

 怒るべきだったのだ」



ようやく冷静さを取り戻したノヴァ


しかし、熱くなって

周りが見えていなかった間に

ノヴァは囲まれていた


王城の屋上には、

魔法使いマリアンヌと弓騎士カールソンと

重騎士ドンが前衛に、

後衛には、チームエクスレイの4人


そして、上空では、ドラゴンたちが

ノヴァの周囲を旋回している


ごま塩頭のジェネラルがグランヘルム王の

前に立ちはだかる



「ご安心ください我が王よ、そして皆様方よ。

 我らウォーヘッド、命に代えても

 目の前の邪悪を止めてみせます」



それはまさしく、自らの使命を見出した者たちの

自信にあふれた面構えだった


ウォーヘッドたちに気が付いたノヴァの

姫を掴んだ手が、顔から離れる


その瞬間を彼らは逃さなかった


一際巨大な黄金色のドラゴンから一人の男が

飛び降りた。

さらに、フーセンドラゴンから

数人がその男に続いた


勇者マックスは、その手に勇者の剣を生み出し

ノヴァに向けてまっすぐに下降していた。


グレートソードを持つ戦士ティルクと

ロングソードを持つ聖騎士リックと

クレイモアを持つハイエルフのキオミが

マックスに並んで下降していく



怒れる4つの刃が、ノヴァの巨大な手首を

断ち切ったのだった



切断された片手が開き、

クラウディア姫が空に投げ出される


しかし、いったん地面に着地したマックスは

再び高く飛び上がって、姫を両手に包み込んだ


クラウディア姫は閉じていた目を開いた


すぐ眼前に、金髪碧眼の王子様が居た



「ついさっきまで、私の前には

 この世の造形とは思えぬほどのあまりにも

 キモい顔が一杯に広がっていました。

 でも、それが一瞬でこんなイケメンへと!


 ああ、私の王子様...」



お姫様抱っこされたクラウディア姫の頬が

どんどん赤らんでいく


しかし、マックスは言った



「私は元村人です、あなた様のような

 高貴なお方に触れることなぞ

 本来は許されぬ身分、

 危急の事ゆえ、ご無礼をお許しください」



マックスとクラウディア姫の周囲を、

地上のウォーヘッドたちが放った攻撃魔法が

通り過ぎ、その魔法の輝きがマックスの

イケメンフェイスをドラマチックに照らした



「今、この世界に勇者様以上に高貴なお方が

 おられましょうや」



クラウディア姫は、マックスの厚い胸板に

顔を埋めたのだった



タジマコヘイの外見を纏ったノヴァは、

ウォーヘッドの魔法攻撃と、

ドラゴンのブレスの集中砲火を浴びていた



王城の屋上から、城下町から、

大きな歓声が巻き起こる



ウォーヘッドたちの中で、ただ一人、

ハイエルフのディックソンだけがどこか

悲壮な顔だった


そして、王城の裏通りにある

こじんまりとした宿の屋上で空を見上げる

ハイエルフとヴァンパイア.ロードの二人の女性


彼女たちもただ、呆然と立ちすくんでいた




 




 




 



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