最後の審判
その日は唐突にやってきた...
プラウダール体制の盟主であるヌルーン王国の
王都の上空にノヴァが出現したのだ
折しも、王都の真ん中にある王城において、
ルーン内海諸国の王たちと、
ザウドマン帝国の魔王ハーグ2世と、
西海沿岸のレイデン同盟と
人間以外の種族の代表者たちが招かれ、
集結していたのだ
城下町はパニックだった
逃げ惑う人々をよそに、勇気のある者たちは、
まっすぐに上空を見つめている
そして、王城の屋上でも、多くの者たちが
唖然とした表情で上空を見上げていた
「もっとマシなデザインがなかったのか?」
ポツリとつぶやいたのは、
ニュルーン王国の若き国王リーンロット8世
上空のノヴァが即座に反応した
「誰だ....私の外見に不満でもあるというのか」
リーンロット8世をギロリと睨む老人は、
ネルーン王国のラインゲル2世だ
ヌルーン王国のグランヘルム3世が
恐る恐る問いかける
「あなたは何者なのだ?」
それは緑色のローブを纏い、
緑っぽい色の髪の男の姿
一見、人間のようだ
空を埋めるほどのそのサイズを除けば
「私は、12体の使徒のコアが
集まって生まれた存在だ
ノヴァと呼んでほしい
この外見は、世界にマナの恩恵をもたらした
偉大な男の姿なのだ。
この場にふさわしいと思い選んだのだが、
しかし、あまり反応はよろしくないようだな...
もしかして、一般的な価値観ではこの外見は
キモいとでも言うのか?」
老王ラインゲル2世がしわがれた声で言った
「いかようにも姿を変えることが
できるのであれば、遠慮なく、
この外見はちとキモいと言わせてもらおう」
しかし、王城の麓の裏通りにある
こじんまりとした宿の屋上では、
ハイエルフとヴァンパイア.ロードの2人の女性が
滂沱の涙を流してノヴァを見つめていた
頬を涙に濡らしたままスオムが言った
「なんてイケメンなのかしら...迂闊だったわ
こんな姿を取られるなんて、
想像だにしていなかった」
隣で、目に大粒の涙を浮かべたマリーが
相槌を打つ
「ええ、今までもこれからも、
もう二度と私たちは
これほどカッコいい男に出会うことはないわね
そう、タジマコヘイ...なんというイケメン」
上空のタジマコヘイの姿は、
王城を覆うほど巨大だった
ゆえに、王都の人々は全員、唐突に出現した
キモメンの姿をマジマジと見ることができた
王城の屋上に集まっているお偉方の中で最も
異彩を放つ存在、魔王ハーグが一歩進みでた
「ノヴァよ、これからは地上界の者だけの力で
プラウダール体制を存続させていくつもりだ
あなたは恐るべき力を備えているようだが
それはこの地上界においてはあまりにも
過剰と言える。
申し訳ないがこの地上界にはあなたの居場所は
ないだろう」
周囲の王たちや、代表者たちがゴクリと息を飲む
人間の王だけでなく、
ルーン内海周辺に住むエルフの族長、
レイデン同盟のドワーフ王、小人族や魔族もいるが
彼らはすべて、この地上界の子供たちなのだ
ふいに、ノヴァは彼らに向けて笑顔を見せた
キモメンの笑顔というのは、人々を不安に
陥れるものだ。
そして、タジマコヘイの外見から放たれた笑顔も
例外ではなかった
上空を見上げる一同は全員が、ビクンとなった
城下町では、上空を見上げる人々から
どよめきのようなものが一斉に聞こえた
「このような反応ならば、外見は変えたほうが
よかったかもしれぬな
もう一人、マナに関して大きな功績を
あげた女性の姿が
私のデータベースの中にあるのだが」
ノヴァの言ったとおり、
緑っぽい色の髪のキモメンよりも
ピンク色のふわりとした
長髪の美女の姿であったほうが
これほど警戒心を持たれることはなかっただろう
グランヘルム王が言った
「ノヴァよ、あなたがここに来た目的は
まだ知れぬが
魔王ハーグ殿の言われた通りだ。
あなたは生まれたばかりで
無垢な性格のように見受けられる
もしも、これからどうするのか
まだ考えていないのなら
隔離界に行くのはどうだろうか?
あなたを教え導いてくれる存在を
見いだせるだろう」
グランヘルム王だけでなく、
この地上界の者たちにとって
ノヴァを隔離界に丸投げしようというのは
ごく自然の考えだった
そもそも、隔離界の連中が造ったマナ結晶という
得体の知れず、恐るべきパワーを持ったものが
元なのだ。
ノヴァには、隔離界に帰っていただくのが
筋というものだろう
しかし、ノヴァは言った
「私は、この地上界において発生した存在だ。
元になったものがどうあれ、ここで生まれて
目覚めたからには、私は地上界の一員なのだ」
ノヴァのキモい眼差しは、
ブルネットの整えられた髪と髭の
困惑した表情の人間の王と、
頭の両側に大きな角を生やし
青々とした髭の剃り跡の残る幅広の顔に、
垂れ下がった太い眉の
魔族の王の二人の姿を捉えていた
この二人こそが、プラウダール体制の二本柱だ
まさか、自分の力を用いることなく、
人間と魔族が手を結び
プラウダール体制を存続させていく
決意をするとは
...人間という種族はやはり制御不能で危険だ...
こうして、ノヴァは彼らに審判を下したのだった
「私はたった今、決意した。
この地上界から、
人間という種族をすべて滅ぼすことを....」




