表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウォーヘッド  作者: グレゴリー
83/114

第三部 ~オープニング

ヌルーン王国の王城に、夕暮れが訪れていた


グレンヘルム王は、城の中庭で”聖者”たちを

見渡した


煌びやかな騎士の鎧に身を包んでいるが、その

中身は真正の屑どもだ



「この任務を達成したならば

 お前たちは自由を手にするだろう。

 この鎧が与える強力な力に

 奢り高ぶることなく死力を尽くせ」



それだけ言うと、

グランヘルム王はマントを翻して

背を向けて去っていった。

音もなく使徒ダニエルが現れて、

王の背後を歩く



「使徒たちも、そなたを除いた8体が全て

 出撃するのであろう。

 そなたらの映像通信魔法を用いて、逐一、

 余に状況を知らせるのだ」


 

ダニエルは無言だ。

しかし、使徒はグランヘルム王の言葉を

聞き逃すことはない


王は思った



(この王都には、使徒ダニエルが一体だけ...

 他の使徒はすべてマックスたちと戦うべく

 西海沿岸に向かう。

 地下にはジェネラルが待機しておる...

 このような機会はもうあるまい

 我らにメシアのご加護があらんことを)



崖に囲まれた王城の裏口を、十数台の馬車が

出て行った。

馬車が通り過ぎて行った大通り沿いに、

一軒の宿屋があった。


こじんまりとした宿屋で、1階は食堂兼酒場、

2階と3階に宿泊部屋があったが

この宿屋は入り口に「closed」と掲げている


つまり、宿屋は一軒、

丸ごと貸切られているのだ


2階の部屋の窓際に座っているのは

ゴテゴテとした趣味の悪いマントを纏った

黒っぽい銀髪の女性、

その目は、赤く怪しく輝いている



「我々の種族の魔法の匂いがするわ。

 物質造形魔法と人心操作魔法ね、

 まあ、誰なのかはもう目星は

 ついているけどさ」



部屋の奥に、腕を組んで立っているのは

眼鏡をかけたプラチナブロンドの女性



「西海沿岸の勇者たちを討伐に

 行くのでしょうね。

 大都市の行政府が、秘密裡に開発していた

 あの兵器、確か使徒だったっけ?

 それもほとんどが参加するのでしょう」



テーブルに相対して座っている

二人のハイエルフの中の一人の男性が言った



「市長、あなたの夫であるディックソン氏も

 勇者たちと行動を共にしている可能性が

 あります。

 もしも、彼がマックスと一緒なら、

 隠したサブカメラの映像を見ることが

 できているはずです」



もう一人のハイエルフの女性も言った

今は伊達眼鏡をかけていない



「例え、使徒たちの通信を傍受して、事前に

 襲撃に備えることができたとしても、

 使徒たちに勝つのは難しいわ。

 この地上界では強力な力を持つ

 ウォーヘッドたちだとしても、彼らは

 多くて十数人程度でしょう、

 いくらなんでも少なすぎる」



窓際に座っていた悪趣味マントの女性が

立ち上がった



「人間ってのはね、奇跡を起こす種族なのよ。

 あんたたちもこの世界に住んで一年あまり、

 それなりに人間たちと交流してきたんでしょ?

 特に、勇者と行動を共にしてたのなら

 気が付くはずよ」



眼鏡をかけたハイエルフの女性が言った



「ええ、私たちは基本的には人間たちの力

 に期待するのです。

 そもそも、私たちがこうして、

 地上界で活動するのは本来は

 出来なかったことです。

 大都市の法律では、ゲートの魔法を

 使うことは禁止されており、

 世界樹の森が焼けてしまって

 ハイエルフたちも地上界へと行き来できなく

 なりました。

 でも、それができたのはあなたのおかげよ」



ベッドに腰かけているその女性は

一行の中では一番小柄だった。



赤毛のセミロング、一際目を引くのは

ヒクヒクと可愛らしく動く獣耳だ。

美しい刺繍が編み込まれたローブに

身を包み、その右手に手袋をはめていた



「スオムさんにはいろいろとお世話になっているし、

 マリーさんには、スロウテルさんのことで

 いろいろとご迷惑をかけているから。

 一応言っておきますけど、今の私の力は

 下の世界でさえ、ほぼ最強です。

 この地上界に及ぼす影響を十分に考慮して

 私の力を使ってくださいね」



ジャーナリストのキャサリンが言った



「ねえ、あなたのその右腕で、一気に片を

 つけちゃえば?

 ずっと義手だったのを、意を決して

 ハイエルフの医療技術で再生させたんでしょ

 どうせそこまでしたのなら...」



しかし、相棒のへリントンがたしなめる



「おいおい、それはやらないって約束で

 彼女は右腕を復活させたんだ。

 この地上界が滅びるとか、そういう

 よっぽどの異常事態でもならない限りは

 その右腕の力をみだりに使ってはならない」



スオムが言った



「ええ、私たちはあくまで、地上界の人間たちの

 手助けをするだけです。

 この世界の人間たちが隔離界と呼ぶ、私たちの

 世界、そこに住む種族の者たちが

 撒いた厄害の種を回収するだけ。

 それも、相手がそうでなくとも、私たちは

 大都市の法律に乗っ取って

 行動しなければなりません。

 

 それを条件に、こちらの神獣族の首長さんは

 協力を申し出てくれたのですから」



エーリスは微笑んで言った



「いつも通り、エーリスで構わないですよ

 スオムさん。

 私があなたに協力を申し出た理由は、

 あなたの夫のディックソンが関係しています

 

 彼が毎年、こちらに一方的に送り付けてくる

 手紙、それがなぜか、今年だけ来なかった...


 そういう本当に個人的な理由が、

 第一なのです」



黒っぽい銀髪を片手で触りながら

マリーが言った



「あのハイエルフの強姦魔が、あなたのような

 人と深いつながりを持っているなんてね。

 つくづく、縁というものは分からないものね」



エーリスは、遠い目をしながら答えた



「ディックソンは、私の英雄なの。

 そして、大切な仲間であり、友人...

 もう二度と、直接に会うことはしないと

 誓ったけれど、それでも私の心の中には

 常にディックソンの姿が刻み込まれている」



スオムはエーリスに向けて微笑んだ



「ディックソンも、あなたに対して

 まったく同じことを思っているわ。

 あなたの存在が彼を変えたと言っても

 いいでしょう、

 永遠に生きるハイエルフの心の中に

 いつまでも刻み込まれた大切な宝物

 それは私にとっても同じです」



最後にマリーが、夕暮れに染まる

窓の外を見ながら言った



「そう、心の中に、永遠に刻み込まれた存在、

 タジマコヘイのようにね」

 


宿屋の女将が、夕食の用意を知らせる

ベルを鳴らした。

ズカズカと、階段を降りてくる5人の姿


明らかに人間ではないのだが、女将は

深く追求するのをやめていた


何よりも、異常なまでに金払いがいい、

こんな上客のことを他人に口外することなぞ

女将の頭の隅にもなかった



眼鏡をかけた金髪の背の高い女性と、

ゴテゴテとしたマントを羽織った

顔色がすぐれない女性、

この二人だけが流暢にルーンの共通語を話す



とりあえず、女将は、飲み物は何がいいか、

二人に向かって問いかけたのだった

 

 


 

 

 

 


 


 

 



 






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ