ロングライド2 (挿絵付き)
ボケコラの背中から飛び立ったストゥーカは
電撃を纏った槍を、見事に雌レッドドラゴンの
翼の根本に突き立てた
電撃によって翼を麻痺させ、成すすべもなく
へリング海に墜落していくレッドドラゴン。
その背中から再びジャンプして、ストゥーカは
ボケコラの背中に戻った
「ふん、冷たい海水で、その火照った身体を
冷ましなさい!」
何やら捨て台詞を吐きながら
海面に大きな水しぶきを上げる雌レッドドラゴン
それを見ながらボケコラも言った
「我は熟女趣味はないのでな。
それはそうとストゥーカよ、そなた
寒くはないのか?」
赤毛の竜騎士の恰好は、
今やタンクトップにスパッツという、
普段の鎧下のインナースタイルだ
フーセンライダーがあきれたように言った
「君の防寒着、多分、あそこに
浮いているやつだろう。
遠くに陸地が見えるから、
そこに一旦、上陸して乾かそう」
とりあえず、海面から防寒着を救出し、
一行はヴィーランドに上陸したのだった
ゴツゴツとした岩だらけの海岸から
少し奥まったところに、川が流れている
開けた土地があったのでそこに着地した
地表を苔が覆っていて、生えている草も
肉厚な葉を持つ種類だった
フーセンドラゴンが提案する
「我の尻の開口から、温風を噴出してやろう、
しばらく我の尻の側で休むがよい。
服も乾くし、体も温まろうぞ」
ストゥーカが淡々と言った
「優しいのね...」
こうして、ストゥーカとフーセンライダー2人は
前部を少し浮かせる形で、
後ろ向きに地面に着地したフーセンドラゴンの
突き出したケツの巨大な開口から出る温風に
当たりながら、休憩したのだった
川の水で防寒着を洗って、ピンと伸ばして
地面に水平にしてくれている
尻尾の先端から袖を通し、乾かす
上空では、もう一匹のフーセンドラゴンが
低空にユラユラと滞空している。
レッドドラゴンのボケコラは、
川に頭を突っ込んで水を飲んでいた
フーセンライダーが言った
「この辺りはこの季節でも肌寒いな。
それにしても、気が付いているか?
俺たちの周りを取り囲んでいるぜ」
ストゥーカがうつむいたまま答えた
「ええ、小ぶりの噛み付き竜のようなのが数体、
木立の中から遠巻きにこちらを伺っているわ。
フーセンドラゴンとレッドドラゴンが
居るから、襲ってくることはないでしょうけど、
ほんと、おっかない土地ね!
早く、ヴィーランドを超えて西海に
たどり着きたいわね」
ボケコラがこちらに戻ってきて言った
「まあ、何事もなければ8時間ほどで西海に
たどり着くであろうが...
...多分、難しかろうな。
あの、熟女ビッチが我々を追ってこないとも
言えまい、早く出発したい」
そして、木立に向けて、その巨大な口を開けて
ズラリと並んだ牙をむき出しにして威嚇してみせた
噛み付き竜の気配が消えた
....そして、ボケコラの心配はやはり
現実のものになった
太ったグリーンドラゴンのおっさんが
意味不明の説教をしてきた
小柄なダークドラゴンのメンヘラ少女が
延々と自分語りをしてきた
スノードラゴンが寒いギャグを交えて
世間話をしてきた
まあ、これらはマシなほうだった...
もう夜中だろうが、この地域ではまだ明るい。
ストゥーカの防寒着は所々、破けて焼け焦げており
フーセンライダーたちも同じような風体だった
ボケコラが言った
「これで我が、レッドドラゴンの中では
頭がいいほうだと分かったであろう。
先ほどのように、問答無用に襲ってくるのが
デフォ、中には狂ったように
「殺す」「お前ら殺す」「皆殺しだ」
とぶつぶつ言っていたサイコパスもおった。
レッドドラゴンはもとより、
ダークドラゴンの攻撃はいやらしいし、
スノードラゴンは寒い、
グリーンドラゴンはしつこい...
もう、ドラゴンは沢山だ!
早くこの呪われた地を脱出してええええええ」
ストゥーカが静かに言った
「取り乱さないの!ここを通らずに、南下して
ヌルーン王国の上空を飛ぶわけにも
いかないでしょ。
でも、そろそろ私たちも限界ね...
どこかに降りて、休まないと持たないわ」
気が付くと、一行は、へリング海に突き出た
小さな半島の上空を飛んでいた
そして、眼下にアースドラゴンの姿を認め
恐れおののいたのだった
まるで、岩山が動いているかのようだ
火を吹くこともなく、翼をもたずに
飛ぶこともないが、
アースドラゴンが恐れられる理由は
まずはその巨体、そして鎧のような固い体表、
その突撃を止められるものは存在しないと
言われている
ボケコラが言った
「地上はもっと危険っぽいな。
ねえ、フーセン先輩、いっそ、海に
プカプカ浮かんで島に擬態できないっすかね?
ストゥーカを休ませてあげないと」
しかし、フーセンドラゴンが言った
「はるか向こうの海上で、
船のようものを見つけたぞ!
飛行竜が群がっているみたいだ、
どうする?助けてやるか」
結局、一行は船のほうに向かった
まるで、カモメのように飛行竜たちが船に
群がっている
フーセンライダーが言った
「あれは、ブーカ船と呼ばれる漁船だ、
このへリング海はその名の通り、ニシンが
大量に採れる宝の海でな、
特にこの季節はニシンの旬だ。
欲を出してこの辺りまで出向いてしまった
んだろう。
まったく、奴ら、命拾いしたな」
飛行竜たちは、フーセンドラゴンとレッドドラゴンの
姿を見て、すべて逃げて行ってしまった
ずんぐりとしたブーカ船の甲板上で、
こちらを見上げる船員たちの顔は、
絶望に満ちていた
しかし、ストゥーカとフーセンライダー二人が
彼らに向かって手を振った
.......
ボロボロのなりのストゥーカとフーセンライダー、
さらに人化したボケコラとフーセンドラゴンも
傷だらけだった
船長が何回も礼を言ってくる
差し出されたビスケットと乾パンと
ビールを飲みながらストゥーカが言った
「それにしても、ヴィーランド近海まで
出向くなんて勇気あるわね、
私も、ここまでおっかない土地だとは
想像してなかったわ。
あ、私たちの事情は聞かないで頂戴。
とりあえず、今日はここで
一泊させてもらうわよ。私たちが居れば、
飛行竜が襲ってきても大丈夫だから
早朝までに、できるだけここを離れることね」
どうやら、このブーカ船は西海沿岸諸国から
来たらしい
このまま西に向かって引き返すみたいだ
船員たちは、ボロボロの身なりの自分たちを、
恐れに満ちた目で見つめている
ビスケットを齧る、赤毛で生意気そうで
頭の悪そうな男の子も、ついさっきまで、
恐ろしい外見のレッドドラゴンだったのだ
ストゥーカは思った
(まあ、一日に何体ものドラゴンと戦って、
そのすべてに勝つ私たちって、
我ながら異常な強さよね。
本来ならばもっと前に、
魔王を打倒していたのでしょう...
ここまで戦い続けるなんて誰も
想定してなかった
そして、今、この瞬間、私たちは
敷かれたカーペットの道から
外れようとしている)
用意してもらった清水で、ハンカチを濡らして
少年ボケコラの鼻血を拭いてあげるストゥーカ
まるで、喧嘩をしてきたガキ大将の弟と姉のようだ
しかし、彼らが喧嘩をしてきたのは、
一体でも倒せばドラゴンスレイヤーの英雄として
名を馳せることができるドラゴンたち
時には、複数で挑みかかるそのドラゴンたちに
全て打ち勝ったのだ




