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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
74/114

ドラゴンの村

その村は、濃い霧に包まれた

深い森の中にあった。

レイデンからさらに北、ウォーヘッドの

移動速度で丸一日ほどの距離だ


美しい黒髪をショートカットにしている

聖女セリスが言った



「聖眼レーダーで強いドラゴン反応が

 あったから、ここがゴールデンドラゴンの

 巣かと思ってたんだけど、

 こういうことだったのね」



なんとその村は、走行竜や飛行竜、

ワイバーン、噛み付き竜などの、

いわゆるレッサードラゴンで

満ち溢れていたのだ


みすぼらしい身なりの村人たちが、

レッサードラゴンの餌らしきものを運びながら、

こちらのほうを怪訝そうに見ている



戦士ティルクが言った



「最近の西岸沿岸諸国の人々は、

 すっかり金持ちになってしまって

 身なりも良くなっているけど、

 ほんの百年前くらいは、皆貧しくて

 彼らのような姿だったんだ」



かなり失礼な物言いだが、村人たちは確かに

レイデンに住む人々とは

身なりが雲泥の差だった



勇者マックスが言った



「でも、彼らはレッサードラゴンたちを

 良く飼いならしているみたいだ。

 飛行竜や走行竜を売ったり、村人たちが

 ライダーになって出稼ぎすれば

 結構、儲かると思うんだが」



ふいに、老人の声がした



「ワシらは、この子たちで金儲けなどせんよ。

 まあ、走行竜で荷車を曳くことはあるが、

 飛行竜で空を飛ぶなんぞ、間違って落ちたら

 死ぬではないか!

 そんなことができるのは

 お前さんたちのような強者だけじゃ」



ずらりと横一列に立ち並ぶ

完全武装のウォーヘッドたちは、

村人たちから見たらかなり威圧的なのだろう


こちらを遠巻きに警戒する村人たちの中から、

一人の老人が進み出てきた


緑色の粗末なローブを纏った禿ジジイだった。

長い髭は白金色で、その目は黄金色だった



「ワシはこの村の村長、サークじゃ。

 お前さんたちは一体、何者なのじゃ?

 なしてこのような僻村に参ったのじゃ?」



マックスは進み出ると、村長サークに向かって

頭を下げてから言った



「私たちは黄金竜スターチェイサーを

 探しております。

 皆さん警戒しておられるが

 私たちは、あなた方から何かを奪ったり

 することは決してありません。

 もしも、必要なものを手に入れる場合は、

 正当な対価を払いますし、

 あなた方のご意向次第では

 すぐにここを立ち去ります。

 ですが、望めるのであれば、私たちに

 黄金竜の情報や食料、休息所を

 提供していただければ幸いです。

 もちろん、対価はちゃんとお支払いします」



マックスは、小さな袋から

銀貨や金貨を取り出して、

自分の手のひらに乗せてサークに見せた



サークは言った



「ふむ、まあよかろう。

 どうやらお前さんたちは

 よき心を持っておるようじゃ。

 それに、ワシらはドラゴンで

 金儲けはしないが

 金自体は嫌いではないしの」




こうして、ウォーヘッドたちは、

村長サークの案内で、村の奥に入っていった


やはり目につくのは、

至る所にいるレッサードラゴンたち



村の粗末な建物の上に、

巨大なワイバーンがとまっていたり

走行竜が小さな群れをなして村の通りを

おとなしく歩いている


上空では飛行竜がカラスのように

何匹も旋回している


村長サークの禿の後ろ姿が言った



「ワシらは、ドラゴンの庇護を

 受ける民なのじゃ。


 強力なドラゴンに守ってもらえるかわりに

 こうして、レッサードラゴンたちの

 世話をしてやったり

 ドラゴンの巣に定期的に出向いて

 雑用を引き受けたりしておる」



マックスは思った



(その、庇護を与える強力なドラゴンってのが

 おそらくゴールデンドラゴンの

 スターチェイサーなのだろうな)



だとすれば、ドラゴンハンターの可能性もある

自分たち武装集団のことを警戒しているはずだ。



マックスが言った



「私は先ほど、スターチェイサーを探していると

 申しましたが、誤解なさらぬよう。

 私たちはドラゴンハンターではありません。

 伝説の黄金竜は、思慮深く、

 英知を兼ね備えていると言われています。

 そこで、是非とも穏やかな話し合いの場を

 持ちたく思っているのです」



戦士ティルクが引き継いで言った



「西海沿岸の都市群は、スターチェイサーが

 出没したとの噂で持ち切りでね、

 おかげで航海に及び腰になっている。

 まあ、だから、実物に会って

 いろいろと意図を聞き出したいんだ。

 もちろん、ドラゴンが自由に空を飛んでは

 いけないってのはおかしな話さ

 ただ、俺たちの船を襲わないと約束して

 欲しいんだ」



村長サークが言った



「ふむ、ワシらからいろいろと

 聞き出したいらしいが、

 残念ながらワシらは口が固い。

 自らに庇護を授けてくれる存在のことを

 よその者にベラベラと

 しゃべることはないのじゃ。


 たまに、ドラゴンハンターと名乗る

 荒くれ者どもがやってきて、

 ワシらの口の固さにしびれを切らし、

 力づくで情報を吐かせようと

 するときもあるが....


その時は、ワシらはドラゴンの居場所を

 教えるわい。

 まあ、お前さんたちは

 そのようなことはすまいが...


 しかし、力づくでワシらからドラゴンの

 居場所を聞き出しても、大抵の場合、

 そいつらは帰ってこぬがな」

 


実は、自分たちはそのスターチェイサーを

連れて行こうと思っている

帰ってくる保障のない戦いの中に...


ウォーヘッドたちは少し頭を項垂れながら

歩いて行った


やがて、一行は、村の中心部に到着した


レッサードラゴンたちと共に、

村人たちが集まっていた。

老若男女いろいろだが、全員が金色の髪だ



(これは、この地方の人間だからなのか

 それとも、ドラゴンの庇護の影響なのか)



巨大な噛み付き竜が、その大きな頭を

ウォーヘッドたちに近づけてきた


しかし、村人の一人が、手で払うような

動作をすると、すぐに頭を引っ込めた



サークが言った



「さて、お前さんたち、長旅で疲れておろう。

 ここのレッサードラゴンたちが

 お前さんたちを害することがないように、

 村人たちが見張っておるから安心されよ。

 

 あの建物が、行商人たちを宿泊させる

 場所ゆえにそこに滞在するがよい。

 ふむ、エルフが二人おるのか...

 もしかしてあなたはハイエルフか?」



ディックソンはうなずいた


サークが言った



「ワシらは、ドラゴンの庇護の力によって、

 普通の人間よりも鼻が利くのじゃよ。

 そちらのハイエルフの方はどこか

 違う香りがするのじゃ。

 変な匂いというわけではなく、

 異質な場所の匂いとも言うべきか..

 ああ、失礼つかまつった。

 とりあえずワシらは少し鼻が利いたり、

 レッサードラゴンの扱いが

 うまかったりする程度の普通の人間じゃ。

 お前さんたちが期待するようなものは

 この村にはないと思うがの」



こうして、一行は、行商人たちの

宿泊所となっている建物の中に入った


中は、大部屋が一つだけの、

がらんどうとした造りだった。

ゴザのようなものが人数分敷き詰められており、

とりあえず一行は、それぞれのゴザを決めると

座り込んだ


なんとなく、女性5人で一列になって

セリスがつぶやいた



「実は、さっき、同い年くらいの女の子と

 少し話したんだけど、この村の人たちって

 ドラゴンの巣から貰った、ドラゴンの鱗や

 巣の周辺にある貴重な薬草なんかを

 行商人に売って、生活必需品なんかを

 手に入れてるみたい。

 でも、基本的には自給自足の生活で、

 それを先祖代々、

 延々と続けているんですって」



メシア教の僧侶であるエリーが言った



「人間の中には、メシアではなく

 他の強力な存在にすがって、崇めている

 者たちが未だに大勢おります。

 少し前の私ならば、そういう者たちに

 目くじらを立てていたでしょうが

 今は違いますよ」



マックスが言った



「うん、この村の人たちはそのやり方で

 ずっと暮らしていたのだろう、

 彼らにとって最も恐れることは、

 自分たちの生活が変化することだ。

 俺たちがもしも、スターチェイサーを

 仲間にして連れて行ってしまったら

 彼らはどう思うだろう」



しばらく、大部屋を沈黙が支配した


しかし、一人の村人が、畑でとれた果物を

売りに来た


やがて、滞在者たちの金払いがいいことが

村中に知れ渡り、

どんどんと村人たちが大部屋に押しかけて

物を売りに来たのだった



ティルクは、話しやすそうな若い男を一人

つかまえて話しかけた



「なあ、あんた、この村からそう遠くはない

 沿岸のほうに行ったら、

 活気があふれる都市がいくつもあるだろう?

 そこに行けばもっといい暮らしが

 できるかもしれないぜ!

 一旗揚げる気概とかないのかい?」



しかし若い男は言った



「えー、別に、俺たちはここの生活に

 満足してるんで

 そういうのはあまりないっすね。

 ドラゴンの庇護の力で平和だし、

 そこそこ適当にやってても

 食いっぱぐれもないし

 結構、ここもいい場所っすよ」



言いながら、ティルクが買った地酒を渡す


結局、そこまでの労働もないし、何よりも

ドラゴンの力で平和が作られている

このサークル内で

スローライフが実現できるというのは

ある意味、魅力的なのかもしれない


ティルクも納得してしまった



「まあ、人間社会では戦争があったり圧政に

 苦しむ場合があるが、ここではそれがない。

 彼らの暮らしもそれなりに

 いいものかもしれんな」



マックスは、ゴザの上に寝ころびながら

相槌を打った



「ああ、彼らにとってはその快適な暮らしを

 保障してくれるドラゴンの居場所なぞ

 よそ者に教えたくないのも当然だな。

 誰に聞いても、口を閉ざして教えてくれない。

 力づくで聞き出すわけにもいかないしな」



ディックソンが、ゴザの上で横向きに寝ころび、

片肘をついて頭をその上に乗せながら言った

 


「ルーン内海諸国が、プラウダール体制で

 目指している社会が、今、ここにあるぜ。

 沿岸の都市群のように自らの力で発展していく

 という気概もなく、ティルクが言うところの

 百年前の水準で満足したまま進歩もない」



両手を頭の後ろで組んで仰向けになり、

蜘蛛の巣が張った天井の梁を

ぼんやりと見つめながらマックスが言った



「そう、俺たちが今から、この村に対して

 やろうとしていることは、ルーンの内海諸国に

 対してやろうとしていることの縮図のような

 ものかもしれないな」



5人で一列になってゴザの上で休んでいる女性陣は

反対側のゴザの列で、ウジウジ悩んでいる

男性陣4人を見ていた


うつ伏せになってゴザの上に寝ころび、

肘をついた両手に顎を載せて

エルフのリリーベルが小声で言った



「うちの男たちは優しすぎるね、でも

 私たちチームチャーリーはそうじゃないよ」



隣のドワーフのイルガも相槌を打つ



「そうそう、私らは伊達に女だけの

 チームをやってるわけじゃあないんだよ!

 その真価を今こそ発揮してあげようじゃないの」



魔法使いルーティーも言った



「了解であります!

 いわゆる”女の武器”ってやつを

 使うのでありますな!任せるのであります」



最後にメシア教会の破門者エリーが言った



「メシアよ、許したまへ...

 でも、私の荷物の中には未だに、

 洗濯バサミやお仕置き棒やロープや

 鞭やロウソクやヤカンが入っているのは

 メシアの思し召しなのでしょう」



チームチャーリーの隣の聖女セリスには

彼女たちの秘密の作戦会議が丸聞こえだったが

聞こえてないふりをしていたのだった

 

 

 

 



 

 

 

 




 

 

 


 




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