性犯罪
これまで見たことがないほどの
立派な港湾施設だった。
木製のクレーン小屋が立ち並び、
接岸したバナナボートの
積荷を恐るべき速さで荷下ろししている
長方形のガラス窓がズラリと並ぶ、
整然とした石造りの建物郡が見える
ティルクが言った
「レイデンの港は、帆船が直接
接岸できるほどの十分な深さと設備がある。
ただ、俺たちの船は、貨物用ではないので、
向こうの旧港を使用する」
レイデンの町並みを眺めながら
旧港までしばらく航行していると、ふいに
ディックソンの持つ隠しカメラが
動画をキャッチした
ウォーヘッドたちの前に、ヌルーン王国からの
ニュース映像が投影された
女性声のナレーションが淡々と前置きする
「なんと悲しむべきことでしょう、
かつてザウドマン帝国との戦争において、
ウォーヘッドたちを指揮していた
ジェネラルが、昨夜、
性犯罪で逮捕されました」
....全員がずっこけたのだった
映像の中で、ジェネラルの顔が
アップで写っている。
相変わらずのごま塩頭だが、
口元には白い無精ひげが生えている
唐突に、ジェネラルはカメラに向かって
ニカッと凄まじいまでの笑みを浮かべた
口を思いっきり開き、歯をむき出しにした
挑発的な笑み。
カッと見開いた目には狂気の色が見える
そして、一瞬にして、元の仏頂面に戻った
やがて、カメラは引いて、
大勢の役人がズラリと立ち並ぶ姿が見えた
役人の一人がジェネラルの罪状を読み上げる
主に、ウォーヘッドとしての力を悪用した
ちんけな性犯罪だった
「こうして、被告は、興奮しすぎて
その身にかけた魔法が解け、
女子風呂の真っただ中に唐突に出現して
犯行が露見したのであります」
マックスが言った
「あの方も、平和な世界に適応できなかった
みたいだな。
犯行の内容から
ハニートラップに引っかかったわけでは
ないみたいだ。
クローディス大公も酒池肉林に溺れておられる。
大公の元の、マリアンヌとカールソンとドンも
同じような退廃的な生活を
送っているみたいだし」
しかし、自分たちにはどうしようもなかった...
何よりも、自分たちが行おうとしていることが
正義かどうかなのかもわからないのだ
やがて、船は旧港に到着した。
まっすぐに切り立った岸壁から、何本もの
桟橋が伸びている
帆を畳んで微速で進むバナナボートに向けて
桟橋の先端のバリスタから細いロープが
射出された
船上で水夫がその細いロープを受け取り、
船首の左舷からそれを引っ張る。
細いロープの末尾には、太い係留ロープが
結び付けられており、それを船首の
ビットに結び付けた
やがて、桟橋から係留ロープを引っ張られて、
船はまっすぐに、何本も伸びた
桟橋の間に入っていく。
左舷の船尾のビットにも係留ロープを結び付け
船首と船尾から伸びたロープが
ハの字になるようにすれば、
前後から引っ張られることによって
船は安定し、接岸は完了した
隠しカメラが再び動画を受信したので見てみる
それは、はるか彼方から映された
自分たちの船の映像だった
ティルクが言った
「使徒たちは、かなり遠くから俺たちを
監視しているな。
こうして、レイデンに入港したことを
ヌルーン王国に知らせている。
でも恐らくは、レイデンの近郊にまで
近づくことはあるまい。
今のところ、西岸沿岸諸国は
プラウダール体制の範囲外だし、
あまり近寄ってしまうと俺たちに
気付かれるからな。
ま、とにかく、ようこそ
我が故郷レイデンへ!
今や俺は、この町の名士みたいな存在だから
君たちも大歓迎されるだろう
それでは、いざ、上陸!!」
こうして、ウォーヘッドたちは
西海沿岸諸国の中の、ロール都市国家連合の
最大の都市レイデンに上陸したのだった
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ルーンの内海諸国を取り込む、
プラウダール体制。
その盟主であるヌルーン王国の王、
グランヘルム3世は、一人、自室の椅子に
腰かけていた
正直、勇者マックスとウォーヘッドたちが
使徒を3体も撃破した映像を見て、心が躍った
官僚どもはどうだっただろう?
まるで通夜のようにシーンとなっていたが...
(それに、あのジェネラルがこの王都に
連行されてくる...
ジェネラルはあえて、余の元に来るために
あのような性犯罪を犯したのか
それとも、単なるスケベ親父だったのか)
ブルネットの整えられた髭を触りながら、
グランヘルム3世は、自室の椅子に座って
待ち構えていた
やがて、天蓋付きのベッドの背後から、
全高60センチほどの道化師の人形が現れた
「やっほ、浮かない顔だね
僕は全然気にしてないから心配することは
ないよ。
それにしても君の官僚たちは優秀だね、
特に、メシア教の最高司祭、あいつは
あの僧侶をトカゲの尻尾切りした上に
全てをおっかぶせて、
反逆者たちを泳がせているんだろ?
ウォーヘッドたちの中で、最も強力な
者たちが揃うだろうね
勇者マックスと一緒に戦ってきた連中、
未だに戦意が衰えてない
ウォーヘッドの中のウォーヘッドだね。
今、連中は西海沿岸の都市に入った」
グランヘルム王は言った
「サリカとゴトウとヴィンセントは未だに連絡が
取れないようですが」
道化師は、大げさな仕草で肩をすくめた
「思った以上に出来損ないだったね、
彼らのコアは、はるか上空を
未だに彷徨っている。
まあ、いつかは回収しなければならないけど
君はその心配をすることはないよ
そうだね、残りの使徒9体でも
なんとかなりそうだけど
僕が特別に君を助けてあげるよ。
言っとくけど、これは、
僕のポケットマネーだからね」
道化師は、懐から小袋を取り出した
そして、グランヘルム王に向けてポイとそれを
放り投げた
あわててそれをキャッチするグランヘルム王
中に入っていたのは、砂粒のように細かい
マナ結晶だった
「ルーン内海の王国から、ありったけの重罪人や
死刑囚を集めたまえ
使徒の甲冑のように、ドワーフのタイタン鋼を
用意する必要はない、適当な騎士の甲冑でいい」
グランヘルム王は言った
「そんな無頼の輩を使うのですか?
そいつらが、ウォーヘッドたちと戦えるほど
従順かつ、協力的に行動できるとは
思えませんが」
道化師が言った
「このマナ結晶には、僕の魔法が
込められている。
物質造形魔法と、人心操作魔法だ。
使徒にははるかに及ばないまでも、
強力な機動性を持ち、かつ、君の命令には
絶対に従うだろう。
何よりも数が多い上に、使徒とは違って
それなりに論理的な思考力は
持っているだろう
そうだねえ、聖者とでも名付けようか
そういうわけだ、聖者の元となる
犯罪者たちを即座に集めたまえ」
グランヘルム王は思った
物質造形魔法に、人心操作魔法を使える種族
この道化師の正体は.....
しかし、道化師はいつものとおり、消滅した
結局、グランヘルム王は立ち上がって、
命令を下すべく自室を出て行った