ドラゴン2
男たちの戯れを眺めていたストゥーカは
空を見上げた。
同時に、豪勢な料理を前にした
マックスとセリスも、
3人とも偶然にも同じ思い出に
浸っていたのだった。
それは、ウォーヘッドの訓練生として
実質的に初めての実戦を経験したときのこと。
彼らは王都に飛来してきた若いレッドドラゴンを
迎撃したのだ
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地面を蹴った跳躍だけで、
軽々と森の木々を飛び越え、
マックスの眼前には
レッドドラゴンが迫ってきていた。
飛びながら、マックスは腰に下げた剣を抜いた
それは、黒っぽい色で、刃の部分に
細かく波打つような模様がある、
特殊なロングソードだった。
一般の兵士が使うような剣は、
ウォーヘッドの使用に耐えられずに
簡単に折れてしまうため、
彼らが使う剣も、やはり恩恵を発現させた
ウォーヘッドによって鍛造されているのだ
「レビテーション」
空中に浮遊しながら剣を構えて待ち受けるマックス
眼前に迫ってきていた若いレッドドラゴンが
彼の目前で止まった
翼をはためかせながらその場にホバリングして
レッドドラゴンとマックスは
しばらく面合わせしていた
マックスの半身を簡単に食いちぎれるほどの
巨大な顔を、上下に頷くような動作をしながら
赤く鋭い目でこちらを睨みつけながら
ドラゴンが言った
「おうっ、なにガン飛ばしてんだテメー、
ボケ、コラ!
なに見てんだコノヤロー、おう、ボケ、コラ!
なにか文句あんのか、
やんのかコノヤロー、ボケ、コラ、
おう、なんとか言えよ、ボケ、コラ、
ビビってんじゃねーぞ、おう、ボケ、コラ」
レッサードラゴン丸出しの頭の悪さ丸出しの
言葉使いでマックスに凄む
「この先は人々が住む町があるのを知っているな
そして、このまま向かっていったら
お前は殺されてしまうぞ」
マックスの警告をドラゴンは鼻で笑った
「あ?なんつったテメー、ボケ、コラ
この俺が人間ごときにヤられるわけねーだろ
おう、ボケ、コラ
上等だ、俺がてめえら皆殺しにしてやんよ
ビビってんじゃねーぞ、ボケ、コラ」
マックスが言った
「魔王に何を吹き込まれたか分からないが
こうして、考えも無しに単身突っ込んできた
ってことは、お前もたいして期待されている
わけではないのだな、まあ、頭が悪すぎる
のが原因かもな」
ドラゴンが空中でよろめいた
「はあ?なにいってんの、チョーつええ俺が
魔王様に期待されていないって
なにいってんの?馬鹿じゃないの?
俺、ドラゴンよ、わかってんの?」
マックスは空中に浮遊しながら頷いて言った
「俺たちですら、実戦に投入される前に、
訓練所で手厚く教育を受けさせてもらえる。
魔王軍もそうだろう、見込みのある部下たちを
こうして、鉄砲玉のように、いや、それ以前の
放置のような扱いをするわけはないだろう」
ドラゴンは首と尻尾を丸めて
ブルブルと震えはじめた
「嘘だ、嘘だ、ドラゴンは知性と力を
併せ持つ最強クラスの存在だ、
俺が強すぎるんで、魔王様ですら
俺を制御できずに、こうして頭ごなしに
命令を下すことなく、俺の自由行動に
任せているのではないのか?」
レビテーションの魔法が切れて、マックスは
一旦、地面に落ちた。
そして、再び跳躍して
ドラゴンの眼前にたどり着き急いで言った
「なるほど、お前の中ではそういうストーリーに
なっていたのか?でも、違うということを
俺たちが身をもって示してあげよう、
だから、町を攻撃する前に、俺と仲間たち
を相手にその実力を証明してみせないか?」
再び地面に落ちたマックスを、ドラゴンは
急降下で追いかけた
「クソ、クソが、上等だ、ボケ、コラ
お前らを一瞬にして片付けてやんよ、
マジでむかつくわテメー、
ドラゴンの力をなめるなボケ、コラ」
着地したマックスに向かって吐き出された
炎が迫った
マックスは地面を転がって炎を避けた
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城壁の前の上空に投影魔法によって巨大な
映像が出現していた。
そこでは、火を吹くレッドドラゴンと
無駄の無い動作でそれを避けるマックスが
映されていた
城壁の兵士たちや、背後の建物の屋上の
ギャラリーたちから歓声が沸き起こっていた
ジェネラルの念話がウォーヘッドたちの頭に
直接鳴り響いた
「うむ、見事だマックス、ドラゴンの敵意を
町の人々ではなく、自分たちに向けさせる
ことに成功したな、諸君、これぞ
ウォーヘッドの手本たる行為だ、よく
覚えておくのだ」
城壁の淵では、そのマックスの本体が、
その場を動くことなくゴロゴロと転がったり
ジャンプしたりしていた。
その横では、チームエクスレイのテレポーターの
パイソンが一心不乱に
キレのいいダンスを披露しており、
さらにその横では、セリスが白目を剥いたまま
腕を振り回している
やがて、ドラゴンとマックスの元に、
他の訓練生たちが駆けつけてきた
一際目立つ、赤毛の長髪のストゥーカーの姿が
映り、ファンクラブのお嬢様たちが
悲鳴のような騒がしい歓声をあげた