救世主との対話2
エリーは、くるりと回転しながら
飛び退いた
地面に投げ捨てていた金属杖のところに
着地し、すぐに杖を拾って構える
ウォーヘッドとしての感覚がすぐに
蘇り、エリーは状況を把握した
「マックス、あれはおそらくずっと
あなたを見張っていた使徒です
そして、あの使徒は
あなたを守ろうとしたのかもしれません
その...私は、本気であなたを
殺そうとしていたのですから...」
もはや包み隠さず、
いや、隠しきれるものでもなくエリーは、
さきほど、本気でマックスを殺そうとして
暴走していたことを白状した
マックスは答えた
「ああ、わかっていた。
実は、キオミの甘草飴を
食べていた辺りで、俺はすでに
自分を取り戻していたんだ。
君に意味不明の暴力を振るわれたとき、
俺がメソメソとすすり泣いていたのは
マジな恐怖からだ。
しかし、俺が決心した決定的な理由は、
あの使徒が、君に向けて本気の殺意で
エネルギー波を放ったからだ」
エリーの頬に、ポロポロと涙が流れ落ちる
「マックス、あなたは
なんという人なのでしょう!
あの使徒が、私に対して、本気で殺そうと
エネルギー波を放ったとしても
それは私にとっては当然の報いなのです。
あの使徒は、あなたを守るために
正当な行いをしたと思います。
それでも、あなたはあの使徒と
敵対することを選ぶのですか?
あの使徒と共に、私を断罪しても
いい状況なのですよ!」
マックスとエリーの目の前には、
使徒サリカが空中に浮いていた
薄いピンク色の、どちらかというと
丸みを帯びた甲冑、
通常、甲冑というのは、機動力を犠牲にして
防御力を高めるためのものだが、
使徒の甲冑にその原理は当てはまらない
甲冑の至る所に、ノズルと呼ばれる
エネルギー噴出口がついており、
それは機動力の大幅な向上を意味している
背中に折りたたまれている羽のようなものは、
機動力を最大限に高める時に使用する、
バーニアと呼ばれるものだ
まるで、金属をはめ込んだような
アーモンド型の両目は、赤く光り輝いている
使徒サリカは、空中に浮きながら
マックスとエリーを見つめ、
少し首を傾けてみせた
まるで、人間のような動作だが、
それでも使徒の雰囲気は、
おおよそ、生物的な温かみが感じられない、
無機質的な異質なものだった
マックスは言った
「確かに、理論的に考えると
君の言うとおりだエリー、
君は、甘草飴を食っていた俺を
いきなり、杖でブッ叩いて、ビンタを
かまして、両手をブンブン振り回して俺の
ケツをビターンと叩き、
柱にくくりつけて、無理やり酒を飲ませて
脅迫した上に、酒瓶で俺の頭を割って
そのまま行けば、間違いなく
俺を火攻めにして焼き殺していただろう
使徒が、君に攻撃してきたのは間違いなく
俺を助けるためだろう。
現実、使徒は戦乱を終わらせ、
この世界に平和をもたらしている。
人類と魔族の両方にとって、使徒は
正義そのものなんだ
今の状況で、彼らと敵対するってことは、
正義に反することなのさ
でもな、俺は君を助けて、
使徒と敵対することを選んだんだ!
その理由はなぜだって?
....あの使徒の纏った雰囲気が
気に入らない....
...それが理由さ」
エリーはマックスの言った理由に目を見張った
「あなたが、感情によって動いたのを私は
初めて見たかもしれません」
そう、それこそが救世主との対話で
マックスが導き出した答えなのだ
あの時、キオミの甘草飴を食べながら、
マックスは自我を取り戻していた。
あまりにも甘草飴が旨かった...
メシアが常に側にいることを知り、
その存在のあまりもの大きさに、
マックスは飲み込まれていた
自分のちっぽけな人生なんか問題にならない
くらい、メシアが巨大すぎたのだ
しかしメシアは言った
「その甘草飴の旨さは、あなたが手に入れた
あなただけのもの
それを大切にしなさい」
そして、唐突のエリーの拷問によって
恐怖で泣いてしまったものの、
エリーの背後に迫る、殺意を込めた
エネルギー波によってマックスははっきりと
自覚したのだった
「なすがままに、あなたの心の声に従うのです
私はあなたを裁きません、
その結果がどうなろうと、私はあなたと共に
苦しみ、悲しみ、そして喜びを分かち合うという
ことを忘れないでください」
立ち上がったマックスの元を、微笑みながら
メシアは去っていった...
マックスは、使徒サリカをまっすぐ見つめ、
勇者の剣に力を込めた
その意味が、サリカにも分かったみたいだ
アーモンド型の両目の赤い光が強くなる
甲冑に包まれた両手から、
赤いライトサーベルが出現した
もはや、使徒と勇者の放つ闘気が、周囲に
砂嵐を起こしていた
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グランヘルム3世は狼狽していた
「どういうことだ、なぜ、ウォーヘッドたちと
使徒が戦う羽目になっておるのだ!
確かに、余は、マックスを救うように
ダニエルに命じた!
それが、なぜこのような事態に...」
ヌルーン王国の王城から、グランヘルム王が
下した命令は、使徒ダニエルを通して
瞬時に使徒サリカに伝わったはずだ
ダニエルが投影している映像が、サリカから
送られているように、
使徒たちはウォーヘッドたちを遥かに超える
通信手段を持っている
それだけでなく、その移動速度も戦闘能力も、
彼らははるかにウォーヘッドたちを超えている
「このままでは、勇者マックスと僧侶エリーは
使徒サリカに倒されてしまうではないか!」
しかし、官僚の一人が静かに言った
「王よ、恐れながら、現実を
受け入れるべきかと...
勇者マックスは、自分の意思で
使徒サリカと敵対しているのです。
そもそも、ジェネラルやクローディス大公
をご覧になればお分かりだと思いますが、
ウォーヘッドと使徒というのは
共存できる性格ではありません
いずれこのような事態になるのは
必然、だとしたら、冷徹に事を運ぶべきです」
グランヘルム3世は、官僚たちのほうを向いた
皆、神妙な顔で王を見返している
「しかし、ウォーヘッドたちは我々のために
その命を捧げて戦ってきたのだぞ...」
グランヘルム王の言葉は弱々しかった
自分を見つめる官僚たちに、あの
道化師の姿が重なる
もはや、どうすることもできなかった