救世主との対話 (挿絵付き)
ハアハアと激しく息をしながら
震える手で、エリーは荷物の中から
ゴソゴソと拷問道具を取り出した
洗濯バサミを手に取ったが、手が震えて
いるので、それを落としてしまった
エリーの背後では、マックスが
地面に這いつくばってメソメソと
泣いている
「情けない泣き声をあげるんじゃないの!」
エリーはスクッと立ち上がると、怖い顔で
ツカツカとマックスの元に歩み寄り、
倒れているマックスの髪を掴んで
顔を上げさせると、
おもむろに強烈なビンタをかました
マックスは顔を横向きにして
倒れた状態のまま、ピクリとも動かなくなった
「この薄汚い阿呆を、杭にくくりつけて
あげないとね、
お楽しみはこれからだよ!」
やがて、洞窟の周囲をキョロキョロと見渡し、
潅木を見つけたエリーは、
手刀で小枝を切断すると、片手でその
木を引っこ抜いた
硬い地面に根を張った全高3メートルほどの
潅木が、ズボリといとも簡単に引き抜かれる
根の部分を手刀で削って、
巨大な杭のようなものが出来上がった
「うおりゃあああああ」
片手で巨大な杭を持って、やり投げのような
姿勢になったエリーは、恐るべき勢いで
それを地面に突き刺したのだった
砂煙がモウモウと立ち、杭は地面に垂直に
突き立った
「ほら、立ちな!この土豚が
いつまで地面に寝そべっているのさ!
今からあんたを火攻めにしてあげるから
大喜びしな」
エリーはぐったりと倒れているマックスを
乱暴に引きずって杭のところに持っていくと、
無理やり立たせて、胴体をロープで杭に
グルグルと巻きつけた
「火攻めだよ、火攻めにしてやるからね、
あの性犯罪者にもしたことがないほどの
本格的な火攻めを味あわせてあげるからね」
エリーはブツブツとつぶやきながら、
杭に巻きつけられているマックスに背を向け
ヨロヨロと歩き出した
昼に、リックとディックソンと三人でここに
訪れた時に積み上げた、食料や物資の山が
そのままになっており、エリーはそれに躓いた
地面にそれらが散乱し、エリーはこけそうに
なったが立ち直った
さきほど、手刀で削った潅木の枝を集めて
杭の足元に積み上げる
地面に散乱した物資の中からも
燃えやすいものを見つけて
枝の隙間に突っ込んだ
ふと、地面に転がっているワインのボトルを
見つけた
ディックソンが持ってきたお土産だろう
普段は酒には見向きもしないメシア教の僧侶は
ワインのボトルを開けると
一気にラッパ飲みした
グワっとマックスに向けたエリーの顔は、
ダークブラウンのロングヘアの前髪を
額に張り付かせ、前髪の間から
狂気を灯した目をギラギラさせ、
ニヤリと不気味に笑った口の端から
赤ワインを滴らせていた
「ほら、好きなんだろ?あんたにも
あげるよこの土豚が!」
杭にグルグル巻にされ、
顔を俯かせてぐったりとしているマックスの
髭面の両頬を片手で掴んで
顔を上げさせ、もう片手で持った
ワインの瓶を無理やりマックスの口に突っ込んだ
「どんどん飲みな、今夜はあんたの
最後の晩餐だからね、
この罪深き飲み物で、火攻めを受けるのが
楽しくてしょうがなくなるだろう。
私も楽しくなってきたよ
ホント、いいワインを持ってきたねえ
あの性犯罪者も」
エリーは、ワインの瓶をマックスの口から
抜き取ると、
ディックソンチョイスのその赤ワインを
ごくごくと一気にラッパ飲みする
そして、残ったワインを、再び
マックスの口の中に
無理やり流し込んで言った
「いつまで死んだフリしてるのさ!
ワインも飲んで楽しくなってきただろ?
いい加減に起きなっての、この土豚が!
目を覚まさないと、あんたのケツの穴に
酒瓶を突っ込むからね」
しかし、マックスはぐったりとしたまま
頭を俯かせた。
金色の前髪は顔にかかり、起きているのか
気絶しているのかわからない
髭を伝ってポタポタと赤ワインが
地面に落ちていった
エリーは、一瞬、泣きそうな顔になった
ほんの一瞬だけ、形のいい小顔の
ダークブラウンのロングヘアの
うら若き美女が戻ってきた...
しかし、再び鬼の形相を取り戻した
エリーは、全身をプルプルと震わせて
怒りを爆発させたのだった
「ふざけんじゃないよ、ああ、わかったよ
マジで焼き殺してやるわ
火攻めであんたを焼き殺すからね。
それに、あぐあがが、あがが...
この阿呆乞食が...せっかくのいいワインを
無駄にしやがって!!」
ついに、エリーは空っぽになった
ワインのボトルを虚空に振り上げると、
力いっぱい、マックスの頭に向けて
振り下ろしたのだった
血しぶきとともに、粉々に砕けた
ガラスが飛び散った
ふいに明るくなって、虚空に舞う
ガラスの破片の一つ一つに
狂気に満ちたエリーの顔が映った
....それは一瞬の出来事だった....
マックスは、ピクンと顔を上げた。
伸び放題の前髪が跳ね上がり、
青い瞳がキラリと光った
その輝く瞳に理性を見出したエリーの顔に
驚きが現れる
杭と一緒にグルグル巻きになったロープが
ブチブチと切れ、マックスは羽を広げた
ように両手を大きく広げた
マックスの片手にみすぼらしい
ブロードソードが出現する
まるで訓練用の剣のように装飾もなにもない
が、まさしくこれぞ勇者の剣だった
もう片手で、エリーの頭を押さえると
そのままエリーを下に押し込んだ
.....光り輝く波動が迫ってくる
マックスの勇者の剣が、その波動を
受け止め、切り裂いた
エネルギー波は、勇者の剣で斬られ
霧散していった
剣を前方につき出し、構えの姿勢になる
勇者マックス
みすぼらしい灰色のローブの隙間から、
青と白の勇者の服が見える
伸び放題の金色の髪と髭に覆われた
マックスの顔に、いく筋もの血が流れ落ちた
エリーは地面に尻餅をつきながら
マックスを見上げ、
恐れおののいて言った
「勇者様...ああ、私はなんてことを
してしまったのでしょう」
しかしマックスは言った
「エリー、君の背後に使徒が居る。
奴は、今、はっきりと殺意を込めた
エネルギー波を放った。
これから、奴らとの戦争になるぞ」
そして、エリーに向けて、
ウインクをしたのだった




