エリーの拷問
女性宿舎の地下室、質素な石壁を
ロウソクのほのかな光が照らしている
魔王軍との戦争で、親を失った子供たちを
メシア教会は保護しており、
この少女もその中の一人だった
巨大な大聖堂を有するダルクエンの
メシア教会で下働きをしながら、
修道女たちから読み書きも学んでいる。
いつの日か、独り立ちするのか、それとも
教会へ帰依するのかはまだ分からないが、
ウォーヘッドとして人類のために戦った
僧侶エリーは、少女にとって憧れの人だった
そのエリーは、少女の前に立って言った
「さあ、あなたの持っているこの鞭で、
この罪人たちを打つのですよ
手加減はいけません、
彼らの贖罪の為なのです」
小さな少女は、震える手で、
ギシギシと無慈悲にしなる鞭を持っていた
「はい、エリー様。
仰せのとおりに...」
上半身裸の二人の美しい男性を見て、
少女は目をそらしてしまう
銀髪のほうの男性は、両手を縛られ、
そのロープは天井の滑車に繋がっている
眉間に深いシワを刻み、
真剣な目で少女を見つめる
「ああ、かつてウォーヘッドとして
幾多の戦いをくぐり抜けてきて、
その身体には生涯忘れえぬ痛みの
記憶とともに数多くの傷跡が刻まれている、
しかし、これから俺に
振り下ろされるであろう
可憐な少女の鞭の一撃に比べれば
それらははるかに霞むことだろう」
リックの身体には、魔王軍との戦いで負った
数多くの傷跡が残されている
聖騎士として、攻撃の最前列を担い、
待ち構える敵軍に突撃してきた証だ
その痛ましい傷跡を残す肉体を見て、少女は
目を潤ませた
「申し訳ありません、
私にはできません、エリー様!
このお方は私たちのためにこれほど
の傷を負ってきたのでしょう
なぜ、私たちのために傷ついてこられた
聖騎士様に対して、私は
鞭を振り下ろさねばならぬのです?」
しかし、エリーが答える前に、リックが言った
「その必要があるのだ!君のような純粋で
穢れなき乙女の鞭は、その肉体を通して
俺の魂を浄化してくれるんだ」
強く美しい聖騎士に真摯な目で見つめられ
少女は変になった
恍惚とした表情で、少女は鞭を振り上げた
少し離れたところでは、金髪のハイエルフの
男性がさらにきついことをされていた
両手両足を縛られ、まるでエビのように
仰け反った姿勢で空中に吊るされている
落ち着いたナイスミドル風の雰囲気ながら、
シミひとつない、まるで若木のように滑らかな
肌、その肉体には傷跡一つなかった。
ディックソンの真下には、
沢山のロウソクが点った燭台が
ドスンと置かれている
太ったおばさんが、熱伝導の良い鉱物オイルを
ディックソンの全身に塗りたくっている
「色男、あんたは獣姦や強姦をしてきた
筋金入りのロクデナシなんだってね!
おかげで、なんの気兼ねなく
あんたを拷問できるよ」
金属製の洗濯バサミを用意しながら、
エリーはその風景を見つめていた
ふいに、エリーは閃いた
...それは、まるでメシアからの啓示だった
全身をプルプルと震わせながら唐突に
エリーは叫んだ
「そうだ、そうだわ、マックスにこそ
これが必要なのです!!
なぜ、今までそれに
気がつかなかったのでしょう!」
急に大声で叫んだエリーを全員が注目した
「メシアは私に啓示を与えたもう!!
マックスを救済する方法が分かりました」
全身を歓喜に震わせながら、エリーは
修道女たちに指示を残した
「リックには洗濯バサミを、ディックソンには
更にロウソクとお仕置き棒を。
特に、ディックソンに関しては
やりすぎたとしても大丈夫です、
むしろ、やりすぎてください。
私は、これからメシアの啓示に従い、
マックスの元に向かいます!
それではごきげんよう」
....呆気にとられる修道女たちを残し、
エリーは凄まじい勢いで階段を駆け上っていった
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夜も更けた荒地を、砂塵が舞っている。
ウォーヘッドとしての恐るべきスピードで
僧侶エリーは移動していた。
この辺りはかつて魔王軍との戦いの
最前線だったので、未だに治安がよろしくない
人間社会のコミュニティが破壊され、
その隙間を埋めるかのごとく、
はぐれモンスターや人間の盗賊団などが
跳梁跋扈している
しかし、彼らはエリーの姿を捉えることすら
不可能だろう
モウモウと砂嵐を巻き起こしながら、
あっという間に走り去っていくエリーに
追いつける者なぞいない
まあ、例えエリーと対峙したところで、
ウォーヘッドと戦うという愚行がいかなるものか
思い知らされるだけなのだが...
エリーは、ウォーヘッドとして得られる
最大限の移動能力を駆使しながら
息を切らして独り言を言っていた
「セリスとティルクは、まだマックスには
会っていないでしょう、
さすがに真夜中に押しかけは
しないでしょうから。
明日の朝にこちらに向かうでしょう。
そして、彼らはマックスに会い、
歓喜することになるのです!
そう、マックスが幻影に
惑わされているのなら
そこから救いださねばならぬのです。
その方法こそが、私がディックソンによって
見出すことになった拷問、
そう、マックスに必要なのは
まさに拷問だったのです」
ダークブラウンの流れるような髪をなびかせ、
同じ色の瞳にはもはや狂気が宿っていた
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マックスが住処にしている洞窟。
一人の髭面の村人が、マックスの元にやってきた
彼は、すぐ近くの村から来たのだった
「あの人は、オラたちの村を
救ってくださっただ。
サンドウルフの群れの襲撃を受けたあの時、
お一人で、ノコノコと来られて、
あっという間にサンドウルフどもを退治して
くださった。
そのお手に何かキラリと光る剣のようなものを
お持ちだったが、動きが早すぎて
それが何かは確認できなかっただ。
オラたちがお礼をする暇もなく、すぐに
立ち去られてしまったが、
この洞窟にお住まいになっていることが
わかって、それ以来、オラたちは
定期的にお世話をしに来ているだ」
淡々と、独り言で状況説明をしながら
その善良な村人は、
松明を片手に、岩だらけの斜面を
登って洞窟に向かっていった
唐突に、村人はエリーと対面した
ハアハアと肩で息を切らす、メシア教の立派な
僧侶を村人は呆けた表情で見つめる
興奮でいきり立ったエリーは、その村人に、
無意味にビンタをかまして暴力を振るった
砂の上をゴロゴロと無様に転がる村人
ヨロヨロと立ち上がった村人を、さらに
エリーのドロップキックが直撃する
村人は、悲鳴をあげながら
岩だらけの斜面を、転がり落ちて行った
エリーは、地面に落ちた松明を拾うと、
村人が落ちていった斜面に向かって
それを投げた
「マックス、私があなたを暗闇から
救い出してみせます!」
....そんなエリーの姿を、上空で見つめる
使徒サリカが居た....




