マッドマックス2
ルーンの内海の南東部にある
都市国家「ダルクエン」
僧侶エリーと聖騎士リックと、ハイエルフ
のディックソンは、
そこで思わぬ再会を果たしていた
聖女セリスと戦士ティルクだった。
メシア教の大聖堂の近くにあるオープンカフェに
5人は居た
エリーが言った
「セリス、あんなに綺麗な髪だったのに
バッサリと切ってしまって...
まあ、それでもあなたは
十分に綺麗ですけどね
ティルクも久しぶりです
...あなたは髭を生やしたのね、
よく似合っていますよ」
ショートカットのセリスが言った
「エリーやリックはわかるんだけど、
まさかディックソンまで
巡礼に参加しているなんてね
私たちは、西海地方から船で来たのよ
船を降りたのは早朝なんだけど
そのままぶっ通しで歩いてここまで来たわ
ウォーヘッドの踏破能力、
もはや必要となくなっても
相変わらず私たちはウォーヘッド
としての能力は維持したまま
平和な時代にはオーバースペックだけど
それでも、この能力を何かの役に立てないと」
セリスはしゃべりながらも
どこか上の空のような感じだ
セリスも、ティルクも今や仰々しい武装は
やめて、普通の平民の格好だった
「ティルクの故郷の、西海沿岸の
都市レイデンを拠点にして、
私たちは事業を始めたのよ。
新しい時代は、商業の時代だって
ティルクが言ってるし
でも、私は別にお金儲けが
したいわけではないの。
商業を発展させて、
人々の生活を豊かにしてあげたい。
このダルクエンは重要な流通拠点だし...」
髭面のティルクがセリスの言葉を継いだ
「それに、ダルクエンに来たら
マックスに会えるしな...
君たち3人もすでに会ってきたんだろ、
どうだ、相変わらずだったかね?」
やはり避けては通れないマックスの話題だった
5人の顔色が僅かに曇る
ディックソンが言った
「キオミが言っていたけど、
イーストエアでのマックスは
自分を見失っていた
しかし、今のマックスは
確信的マックスなんだ。
彼の中にはすでに
不動の物が出来上がってしまっていて
もう、今後、彼は変わることは
ないであろう」
セリスは俯いた。
緑色の瞳が涙で潤み、やがて、
その頬を一筋の涙が流れ落ちていった
リックが慌てて言った
「俺はそうは思わない!
マックスには時間が必要なだけだ、
まだ、いろいろと混乱しているだけなんだ。
その内に、落ち着いて、自分を取り戻す
と俺は信じているんだ」
セリスは両手の甲で涙をぬぐいながら言った
「いいの、私には分かるわ、
マックスは今、究極の
達成感に包まれている...
ずっと探し求めていたものをついに
探し当て、それを離さないでしょう
ディックソンが言ったとおり、
マックスは到達したのよ
中には、今のマックスのことを
マッドマックスと
悪く言う人たちもいるけど、
私たちは、リーチマックスと呼んで
彼を祝福すべきなの」
エリーは、両腕を組んで
テーブルの上に膝を乗せ、
その上に顎を乗せた
メシア教の僧侶としては珍しい姿勢だ
「...セリス、使徒の一体が
マックスを見張っていました。
マックスのことを気にしているのは
私たちだけではないのは確かです。
もちろん、私はマックスを影ながら
守っていくつもり
つまりは、私の属するメシア教会から
マックスを守るのが
私の役目だと思っています。
多分、マックスの言動は、メシア教会を
刺激するものだと思う
ある意味、皆がマッドマックスだと
思っていてくれるなら
それも悪くはないということかも
しれません」
セリスは笑った
「厳格なメシア教の僧侶であるエリーが
マックスの言動を見逃してくれるなんて!
...ありがとう
私たちはいつまでも仲間よ、本当に」
しかし、セリスは再び俯いて次々と流れ落ちる
涙をぬぐい始めた
美しい黒髪を今やショートカットにし、
平民の格好のセリスは、傍目から見たら
年相応の華奢な少女にしか見えなかった...
そして、ダークブラウンの流れるような
ロングヘアに同じ色の瞳、堂々とした
メシア教の僧侶の格好のエリーは
5人の中では、一番立派な人物に見えた
大聖堂のすぐ近くのオープンカフェ、
5人の側を、色々な人々が通り過ぎていく
彼らの姿を見た人々はこう思っただろう
(平民の親子が、立派なメシア教の僧侶から
有難いお言葉を頂いているのかしら?
あらあら、娘さんのほう、
感動で泣いてしまっているわ)
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長い間、話し込んだ後、
エリーとリックとディックソンは
大聖堂の宿舎に到着した。
女性たちが彼らを出迎える
様々な年齢層の修道女たちだ。
ちなみに、エリーは僧侶と呼ばれているが、
僧侶というのは、旅をしながら自らを
鍛えている修道女というような意味合いである
年配の修道女が言った
「エリー様ですね、
お噂はかねがね伺っております
ウォーヘッドとして世界中の人々を
お救いになられたその偉業をお称え申し上げます
ところで、そちらのお二人の御仁は
いかなるお方でしょう?」
銀髪碧眼で、眉間に一筋のシワを寄せたような
生真面目な表情の美青年と
金髪碧眼で、笑みを湛えた口元に魅力的なエクボが
できているナイスミドル風のハイエルフ
リックとディックソンを見て、修道女たちは
頬を赤らめた
どことなく華やいだ空気になって
エリーはこほんっと咳き込んで言った
「この二人は、私と友に、巡礼の旅をしている
罪人です
今夜は、私たちで、この二人を
ロウソクや鞭や洗濯バサミや熱湯などを用いて
贖罪させなければならないのです」
....黄色い悲鳴が女性宿舎の中に響き渡ったのは
言うまでもないだろう




