ウォーヘッドたち
ハイエルフのディックソンは目を見張っていた
ウォーヘッドたちの戦闘力は
前回をはるかに超えている
もはや、ディックソンの出る幕はなかった
荒い砂地からサンドワームが飛び出した
「バジリスクに比べて迫力がだいぶ劣るわね
私を丸呑みするかわりにこれでも
食らいなさいな」
魔法使いマリアンヌは、足元からサンドワームが
出現すると同時に、すでに宙に浮いていた。
チューブ型の胴体の先端から花びらのように
割れた口が、マリアンヌを飲み込もうとする
しかし、すでに発動を終えた爆裂魔法が
その開いた口の中に吸い込まれていった
地中に鈍い爆発音が響いた
戦士ティルクのグレートソードが、
オーガたちを次々となぎ倒していく
魔族のトンボライダーたちはすでに地面に
横たわっている
「増援の刈り取り部隊もこの程度か、
もうすぐチームブラボーの騎士たちが
到着するけど、あいつらに
何も残してやれないな」
ティルクはそう言い放つと、グレートソードを
肩に担いだ
魔法使いルーティーは、杖でオーク軍団たちを
ぶちのめしていた
「まあ、巨大トンボの航空隊が主力で
ありますから、そいつらが全滅した以上は
この地上戦は、仕事終わりのお掃除みたいな
ものでありますな」
エルフのリリーベルは2本の曲刀をそれぞれ
両手で構えて、舞うように戦いながら言った
「ルーティー、あなたは武器を箒にするべし、
そのほうが魔法使いっぽい。
またがって飛ぶことができれば最高」
勇者マックスの勇者の剣は、まるで
自らの意思があるかのごとく動いていた
「そうだな、今のようなただの杖よりは
そっちのほうが雰囲気はあるし、実用性も
あるんじゃないか?
今度、ウォーヘッドの武器職人に依頼
してみようか?」
ルーティーとリリーベルとマックスの
周囲には、倒れたオークたちが山となっていた
ふいに、マックスは地面を蹴って垂直に
飛び上がった
勢いよく、地中からサンドワームが大きな
口を開いて出現した
しかし、マックスが勇者の剣を構えて
地面に落下していくと同時に、
サンドワームのチューブ型の胴体は
バラバラに切断されていった
「地面に振動が起きて、出現するのに
タイムラグがありすぎるよ、
バジリスクは一瞬だったけど
やはりこいつらはバジリスクの下位互換だな」
ルーティーは杖を振り回しながら考え込んだ
「うーん、箒ってのもカッコイイかも
しれませんなあ
今までになく、新しいであります!
柄の部分にまたがって、はわく部分に
魔力を込めて放出すれば
確かに飛ぶことができるかもしれぬで
あります」
腕を組んでぼんやりと戦闘を見学していた
ディックソンの目に、遠くから向かってくる
チームブラボーの姿が見えた
聖騎士リックの馬が、砂地に足を取られて
よろけた
乱暴に地面に投げ出されるリック
まるでスローモーションのように
重たい鎧で身を包んだ聖騎士が、
地面の上を無様に転がる様がその目に焼き付く
ディックソンは叫んだ
「そ、そんな!俺の大切な、クソ、俺の
大切な...る、る許さん!」
立ちふさがるグールたちをタックルで
次々となぎ倒して
ディックソンは走り出したのだった
猪にまたがったドワーフのイルガが言った
「一体、あんたはリックの何なのさ?」
...こうして、一瞬にして魔王軍の地上部隊は
消え去った
ウォーヘッドたちの損害は
偽勇者マークと聖騎士リックの2名の負傷と
フーセンドラゴン2匹の負傷だけだった。
僧侶エリーが、治癒魔法でリックを癒している
「私たちはウォーヘッドとして、強力な敵と
対峙するたびに、様々な恩恵を発現させて
います。
まさに苦難に耐えることによって
救世主が私たちに応えてくださっている
かのごとく。
そう、はるか未来にこの地上に
降臨なさるであろうメシアは、
すでに天から我々を見守っておられるのですよ。
いつの日か、世界が苦悩に満ち、
人間たちが絶望の底に落とされたとき、
メシアは受肉なされ、地上に裁きを下されます。
しかし、その時、我々はその働きを認められ、
メシアとともに新しい世界の創造に
加わることができるのです。
聖騎士リックよ、そなたの受けた苦しみは
遠い未来に報われることになるのです」
延々と説教しながらリックを癒すエリー
その光景を見ながら、ハイエルフ二人は
話し合っていた
「恐ろしいな、人間たちの考えでは、
この世界は、あっちの世界も含めて
一旦滅ぼされて作り替えられるらしい。
そして、一人一人が
これまでの行いを審査されて
罪を着せられるらしい...
新しく作られた世界に
俺たちの居場所はあるのかな?」
ディックソンは神妙な顔だった
キオミが言った
「私たちハイエルフも人間のメシアに
裁かれるのかしら?
その場合、ディックソン、
あなたは罪人にならない自信はある?
私はこれまでやましい事をしてきた覚えは
ないけど不信心だって判断されて
地獄行きになるかもね」
ディックソンは咳き込んだ
「う、うむ。俺が今まで何か罪を犯したとしたら
マズイことになるなあ...例えばだが、
マークのように性犯罪を犯そうとした者には
どういう裁きが下されるのだろう?
一度、エリーに聞いてみようかな、うん、
単なる好奇心だ」
妙に歯切れの悪いディックソンだった。
そんなディックソンの態度に気がつかない
風に、キオミは考え込んでいた
切れ長の目の空色の瞳がウォーヘッドたちを
見つめる
(次々と秘めた恩恵を発現させていく彼らを
見ていたら、救世主信仰も
馬鹿にはできないと感じるわね。
人間は神々から全ての恩恵を与えられている
と言われている。
もしもすべての恩恵を
発現させた人間が出現したら、
本当に世界を作り替えることができても
おかしくはないわ)
その場合、人間以外の種族にそれを止める手段は
あるのだろうか?