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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
55/114

2人の王

何も対価を求めないというのは本当なのだろう。

例えば人間が、デーモン族の力を借りる場合は

必ず対価を要求され、それは契約として明確に

されると言われている


目の前の道化師人形は、何も対価を求めないと

明言した


グランヘルム3世の灰色の瞳が、人形の背後の

虚空をじっと見つめる



「おそらく、我が王国が提供できるものなぞ

 あなたには何も価値もないのでしょう

 人類の繁栄の為とおっしゃったが、

 なぜ、あなたがそれを望むのです」



無機質な道化師が答えた



「吾輩...いや、僕にとってはそれが

 この世界のためになると思っているからだよ

 謙遜することなく言うけど、僕は

 君やこの王国の人間たちには何の興味もない

 デーモン族なら、例えば君や君の親しい

 人の魂を要求するかもしれないけど

 僕にとっては、今の時代に生きている

 個々の人間たち全てに興味はないのさ。

 ただ、この世界を今までどおり存続させる、

 そのためには人類の繁栄が一番望ましい、

 それだけさ」



グランヘルム王が言った



「本当はそんな声ではないのでしょう?

 普通にしゃべってくれて構いませんが」



道化師は無理してるっぽい裏声のまま答えた



「元々、僕はこんな声だよ。

 それじゃあ僕は消えるよ、さようなら」



ルーン内海の諸王国の盟主的存在、

ヌルーン王国の国王、グランヘルム3世の

目の前で、道化師は霧のように消滅したのだった。




///////////////////////////////////////////////




魔族の王国、ザウドマン王国の王都ダーグバードの

魔王城では、魔王が一人、玉座に座っていた


片腕だったアジテーターを失い、魔王は意気消沈

していた


ツカツカと足音がして、魔王はため息をついた


全長60センチほどの操り人形のような道化師だ


赤い鼻にクリクリした目、生気のない顔は

真っ白だ


道化師が言った



「やあ、魔王ハーグ殿、久しぶりだね

 さて、僕が来た理由はわかるね?」



魔王ハーグ2世は言った



「ダークシティのボスたちへの

 最後の支払いは終えたはず、

 でも、あなたが納入してくれた

 モンスターの卵の中に、生殖可能な

 個体がいくつか混じっていた。

...その件についてでしょう」



道化師が言った



「君の王国に、モンスターの卵を流した

 ダークシティーのボス連中は軒並み

 逮捕されたよ。

 もうこれからはあっちの世界からの

 モンスターの卵の供給はないだろうね。

 でも、今回の僕のプレゼントのおかげで

 君はあっちの世界からの密輸に頼ることなく 

 独力で強力なモンスターを繁殖できるように

 なったんだよ、おめでとう」



魔王が言った



「あっちの世界の魔族たちに支払う額は

 とても大きかったけど、あなたは

 支払った額以上のものを私が手にいれたと

 おっしゃりたいのでしょうね」



道化師が言った



「まあ、ダークシティの連中を動かすには

 金の力が一番てっとり早いんだ。


 君たちの王国には大きな負担だっただろうけど

 そのとおり、君はダークシティのボスたちを

 出し抜いてやったんだ!


 笑いが止まらないね、連中は君のことを

 いいカモだと思ってただろうけど

 まさか、君が密輸されたモンスターの

 繁殖に成功してしまうとはね」



魔王ハーグの垂れ下がった眉がさらに下がる。

口の回りは、髭の剃り跡で青々としており、

一応は、魔族の上位種族であることを示す

巨大な角が頭の両側から生えている


...自分は、人間の歴史に

名を刻む魔王になるような器ではない...


それは強く自覚している。

平和主義者で、人間世界と適当に持ちつ持たれつ

やっていきたいと思っていた....



魔王ハーグが言った



「すべてがあなたの筋書きどおりでしょう!

 あなたの言われるままに、あっちの世界から

 モンスターの卵を密輸し、あなたの工作で

 その卵の中に、繁殖可能な個体が混じっていた。

 目的は何です?」



道化師が言った



「吾輩...じゃなくて僕は、君たち魔族に

 強くなって欲しいのさ!

 人間たちに滅ぼされないようにね、

 そのためには今の内にやることは

 やっておきたい。

 

 大陸の東半分を制覇したまえ!

 強力なモンスター軍団を生産して

 広大な領土を維持するんだ」



魔王の垂れ下がった眉の下の小さな目は、

道化師の背後をじっと見ていた

 

 

「...本当はそんな声ではないのでしょう?

 普通にしゃべってくれて構いませんが」



道化師は無理してるっぽい裏声のまま答えた



「元々、僕はこんな声だよ。

 それじゃあ僕は消えるよ、さようなら」


 

道化師が、霧のように消滅した後には

あの威圧感は消えていた



自分よりもはるかに古く、強い存在なのだろう



まるで、操り人形のような道化師、それは

まさに自分なのだ


もはや大帝国になろうとしている

ザウドマン王国の魔王ハーグ2世は

無言で俯いたままだった。

 

 

 

 

 

 






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